Novel/Long

04

口の中を粘膜ごと犯されるような不快感に苛まれながらも、どうにか唾液と一緒に飲み下す。
べろりと自分の血に濡れた唇を舐める筑紫を睨み付けながらも、こんな人か猛獣かわからないような奴でもやっぱり血は赤いし似たような味がするもんなのか、と妙に納得してしまった。
「…やってくれるじゃねえか」
「自業自得だ、馬鹿野郎」
「どうすんだよ、この後ウチの下っ端んとこに顔出さにゃならんのに」
「知・る・か!」
大して気にした様子もないのに恨み言を言う口元にまた噛みついてやろうと、歯を剥いて威嚇する瑞樹を見て筑紫が笑う。
「わーかった、わかったよ。今日はここまでな」
「今日も明日も明後日も、永遠にお断りだってんだ」
「あー、はいはい。ほら、起きろ」

右手を引っ張られて、さっきまで押さえつけられていた肩がギシギシと軋む。痛い、だなんて甘っちょろい事は瑞樹のプライドにかけて言えず、歯を食いしばって耐えた。
勿論、それをいじめっ子…だなんて可愛らしいものではないが、その類の権化のような存在である筑紫が見逃すはずはない。
「…馬鹿はどっちだよ」
「ああ?」
二回目の『あ』にイントネーションを置いた、いかにも、な一言である。
「いーや、何でもねえ」
瑞樹が床に足を付けた後、掴まれていた手が解放された。

「…つーか、どこだ?ここ」
「え?俺んち」
さらりと傷の付いた厚い唇から発せられた言葉に、思わず瑞樹は目を剥いた。
瑞樹の想像していた『金持ちの家』と目の前の現実とが全くの別物だったからである。
「お前、庶民の憧れっていうか、こう、金持ちってこんなんなのかなー、みたいな想像を簡単に壊すんじゃねーよ」
「こんなんってどんなんだよ」
「…レッドカーペットにシャンデリアで、執事とメイドがズラリ…とか?」
「それはまた…古典的な金持ち像だな」
ベッドルームを出た先、目の前に広がったのは、確かに広くはあるもののちょっといい景色の見えるホテルといった感じのリビングルームだった。派手さはないが質の良さそうな家具が揃い、インテリアをデザインした人間のセンスの良さがわかる。
「まあ…実家はある意味古典的な金持ちの家だけどな。俺んちは普通だろ」
「ウチの何倍もあるような敷地面積で何言ってんだこの野郎」
「そんなに狭いのか…?今度見に行くわ」
「エコノミー症候群で死んでも知らないぞ」
「さすがに死にはしないだろ…とりあえず、椎名家訪問は保留な」

そう、筑紫が笑った時、部屋のどこかでけたたましく電話が鳴った。



 
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