Novel/Long

03

しれっと言った男の整った顔に渾身の右ストレートを入れたい衝動に駆られたが、あの一件で垣間見た男の本性を思い出し、どうにか思いとどまる。
「……そうですか。私のことなんか調べても、何にも面白くなかったでしょう」
「いや、そうでもない」
にやにやとこちらを見る男に、瑞樹の腹の中の怒りのゲージはレッドゾーンに突入しかかっていた。店長が瑞樹を呼びに来るのがあと少し遅れていたら、店の中は嵐が通り過ぎた後のように様変わりしていただろう…。



そう、この『男』こそが、今しがた瑞樹を拉致監禁している筑紫であった。

一週間ほど続いた嫌がらせにも近い店への訪問に、どうにかこうにか苛立ちを右から左へと受け流していた瑞樹だったが、元々喧嘩っ早い性分である。
ドアから入ってきた男を見た瞬間、ゲージはレッドを振り切り、大爆発を起こしていた。

「テメェ…何のつもりだ?」
「おいおい、いつものド下手くそな敬語はどうした?あからさまに使い慣れてません、って感じで可愛かったのに」
「何のつもりだって言ってんだよ、クソジジイ」
罵倒の言葉を言い終わるか終わらないかのうちに、視界一杯に筑紫の顔が映り込む。
「俺、お前みたいな気の強い奴を組み敷くのが好きなんだよ」
「男に向かって何言ってんだ…」
「性別に拘るなんて…器小せえなあ」
「アンタの節操がねえだけだろうが」
「…否定はしねえけどな。ま、今はそんなことはどうでもいい」

ぐっ、と右肩をベッドに押さえつけられる。体を捻って起こそうとするが、びくともしない。
中学生の頃から喧嘩を繰り返してきて腕っ節に自信のある瑞樹にとって、片手だけで簡単に自由を奪われるということはこれ以上ない屈辱であり、同時に筑紫の力を見せ付けられたも同然だ。
「…ッ、チクショウ…」
「いいね、その顔…。すっげぇ興奮する」
「変態が…、ッ!」
瑞樹の左の頬に拳がめり込んだ。脳が揺れて耳鳴りがする。これまで何度も味わってきて、何度も味わわせてきた感覚だったが、久方ぶりの衝撃に体がついていかない。
小さく呻いた唇に覆いかぶさるようにして筑紫がキスを仕掛けてきた。ぬるりとした感触がして、瑞樹の背筋が粟立つ。反射的に相手の唇に歯を立てると、苦いようなしょっぱいような味が口の中に広がった。


 
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