Novel/Long

02

「何か、問題がございましたか?」
出来る限りの笑顔を浮かべて女性に問う。どこからどう見ても店側の問題ではなく、男女間の縺れ…だとか、そういうものにしか見えなかったが、マニュアルとして聞いておかなければならない。
「部外者は黙っていて下さる?」
こちらも見ずにピシャリと言われて、瑞樹の額にうっすら青筋が浮かんだ。少し離れた場所で面白そうにこちらを眺めている店長を後でどうしてくれようか、と無理矢理女性から意識を離して割れた皿の片付けに集中する。

粗方片付けが終わっても、頭上で女性の男性への罵倒は続いていて、いい加減男も何とか言えよ!と叫びたくなった頃。
「…もう、気が済んだか?」
腹の底に響くような低い声だった。沈黙を保っていた男が、初めて口を開いたのだ。
穏やかな口調ではあるものの、相手を強く拘束するような圧倒的な力がたったそれだけの言葉にあった。頭を押さえつけられているような錯覚に陥るほどの重圧が、その場に圧し掛かる。

瑞樹の脳裏でも警報が鳴り響いていた。
この男は強者だ。今まで自分が喧嘩してきた相手とは格が違う、本物の危険人物。絶対に、関わってはいけないぞ、と。

「な、何よ、貴方がいけないんじゃない…!」
「俺は何も言っていない。勝手に勘違いして自分のいいようにとったのはそっちだろ」
「…っ!もういいわ、さよなら!」
がたん、と椅子を蹴り飛ばすようにして席を立ち、小走りで店を出て行く女性。男はと言えば、彼女の後姿には目もくれず残った料理を咀嚼している。
それを見てそっとその場を離れようとした瑞樹の腕を、男が掴んだ。
「なあ」
「…はい、何でしょうか?」
「お前、名前は?」
「失礼ですが、お教えしたくありません」
「…まあいい。またな」
くっと男の唇の端が上がる。席を立った男はするりと瑞樹の脇を通り抜け、そのまま視界から消えていった。

次の日も、その男はやってきた。
「椎名瑞樹、だな?」
どうやってか、人の個人情報を手にして。
「…どうして知ってらっしゃるんです?」
「気になったから調べただけだ」


 
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