Novel/Long

24

「認めるなら、今すぐに縁を切れ」
「…どうして?」
イエスもノーも答えず、ただただ無感情に問う。
「ロクな仕事をしてないからだ」
「そうか。でもそれじゃあ答えになんねーな」
「どうして」
先程の自らの台詞をオウム返しに投げかけられて、瑞樹は口の端を軽く上げた。
「そりゃお前、俺がマトモな仕事してないからに決まってるだろ」
「お前はまともに職に就いてないだけで、仕事内容は一般のそれだろう」
「大してかわんねーよ」

そう笑った瞬間。瑞樹を鈍い音と共になけなしの脳が揺れるほどの衝撃が襲った。
「っ!」
テーブルの向こうから飛んできた拳は瑞樹の不意をつき、的確に頬をえぐる。そのスピードと重さは人に暴力をはたらくことに慣れていることを明らかに示すものだ。
「…谷原さん…アンタも人の事言えないだろ?」
ぶれる視界に眉根を寄せながら問うと、谷原は無表情に頷いた。
「まあな」
「へえ、アイツの敵対組織か何かか?面白いじゃねーの」
「…いや、そうじゃない」
谷原の眼鏡の薄いガラス越しに、どこか戸惑いにも似た色をのせた瞳が見える。

「俺は、筑紫の下で働いている。筑紫の組の者だ」

「…はい?」
「そういうこと。じゃあ、続きは俺から説明するから」
ポカン、と口を開けて谷原の顔を見ていた瑞樹の背中を軽く叩いて、そう比企が笑った。

比企が言うには、ここは筑紫の組が経営する会社のビルであるらしい。
ここ数日、組長である筑紫が自宅に男を連れ込んでいるという情報を組の下っぱから得た谷原が、比企とその直属の部下にあたる不良…吉岡というらしい男に筑紫の相手を調べろと指示した。
そこでその相手が瑞樹だとわかり、どんな手を使ってでも裏社会から遠ざけようとした結果が、今回の一件に繋がったようだった。

「俺がお前に直接会えばお前に素性を知られることになる。だから、本当は比企と吉岡だけでこの件を処理してほしかったんだが…。お前は脅し程度じゃヤクザの言うことだって聞かないだろ?」
「当たり前だろ」
「だと思ったよ…変わらないな、お前は」
そう谷原が浮かべた微笑みは、昔見たそれより少し引き攣って、顔にはほんの少し小皺がある。



 
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