Novel/Long

22

車内での会話はなく、エンジン音と対向車とすれ違う音だけが耳に届く。何者かよくわからない人間と楽しくお喋りする趣味は瑞樹にはなかったし、その上車の振動が気分を害して口を開くことすら億劫になっていたから丁度いいとばかりに目を閉じる。どんな場所でもすぐに寝られる体質でよかった。



「おーい、お客人。着いたから起きろ」
ぶっきらぼうな声がしたと思うと、強く肩を揺さぶられる。
「っせーな…もっと穏やかに起こせよ」
顔を覗き込んでいた不良の胸を押し返し、ぐ、と背伸びすると背骨がゴキリと嫌な音をたてた。
「アンタ警戒心なさすぎ」
「あんな重っ苦しい空気、俺が耐えられる訳ねーだろ」
「知らねえよ…」
呆れ顔でこちらを見下ろしていた彼がドアから退いて、降りろとジェスチャーする。大人しく従い忌々しい車を降りると、そこはどこかの地下駐車場のようだった。
「行くぞ」
「比企、だっけか?アイツは?」
「お前がだらしない顔で寝てる間に先に行ったよ」
「あっそ」

長めの金髪を揺らして前を歩く男の三歩後ろをのんびりと追う。「エライ人」とやらに会うからか、緊張で肩が強張っているようだ。
「お前、大丈夫か?ガッチガチじゃん」
「う…うるせーよ!黙ってついてこい!」
耳まで赤くして叫ぶ不良を見て、瑞樹の悪戯心がうずうずと騒ぎ始める。
「な、何だよ…」
彼はニヤニヤと笑う瑞樹を警戒して歩みを速めたが、その距離を一気に縮めて少し視線が下の所にある目を覗き込む。ビクリと彼が顔を引き攣らせたのと、廊下の向こうから比企の声がしたのはほぼ同時だった。

「もー、あんまりウチの弟分いじめないでくれる?コイツ本当見た目だけなんだからさー」
「へえ、見た目だけ、ねえ?」
「そのニヤニヤやめろ!」
比企を先頭にそのすぐ後ろを瑞樹が歩く。後ろから飛んできた拳は、確かにあまり強くない。
「あーあー痒い痒い」
「くっそおおおおお!!!」
地団太を踏む不良を比企が宥め、こちらに振り返る。

「着いたよ」

目の前の分厚そうな木の扉。そこに貼られたプレートには「社長室」と書かれていた。


 
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