Novel/Long

20

「椎名、瑞樹…だな?」

裏口から外に出た瞬間、男の声が聞こえた。瑞樹が声の方を見ると、まだ二十歳すぎぐらいの若い男が二人、こちらを睨んでいる。
「…だったら?」
「一緒に来てもらう」
痛んだ金髪に耳に何個も付いたピアス…見るからに頭の悪そうな不良だ。そこまで考えて、自分も人のことを言えるほど頭が良くないことを思い出して自嘲した。
「テメエ何笑ってんだ!」
「いや別に?俺って馬鹿だなーって、な?」
「はあ!?」
へらへらと笑う瑞樹に我慢ならなくなった不良は今にもこちらへ飛びかかろうとしている。
「…お前は何相手のペースに嵌められてんの。だーからいつまでたっても谷原さんにコキ使われんだっての」
その襟元を引き戻したのはこれまで無言でタバコを吸っていたスーツ姿の優男だった。
「だ、だって…比企さん!」
比企と呼ばれた男は、はいはいと不良を自分の背後に押しやり、瑞樹と向き合う。吸いかけのタバコを携帯灰皿に押し付けている辺りに、相手の性格が見え隠れする。

「もういいのか?」
「あーうん、コイツ馬鹿だから多めに見てやって?」
面白かったからいいよ、と少しも面白くなさそうに欠伸をする瑞樹に、比企が苦笑する。
「うちのエライ人がさ、アンタに会いたいらしいんだよね。別に争いごと起こそうってわけじゃないし、本当に会ってもらいたいだけだから来てくれる?」
二人の相貌、背後に薄らと見える圧力。「争いごと」という言葉…。おそらく、この二人は筑紫の…ヤクザの関係で自分の所に来ているのだろう。瑞樹のなけなしの思考がフル回転で働き始める。普通、このパターンは筑紫の組と敵対している組がちょっかいをかけに来た、というものだろうが、その割には比企の表情はそんなに切羽詰まっているようには見えない。
真意はなんだ…?

そこまで辿り着いた考えも、どうもその先には行けそうになくて、瑞樹は面倒だと放棄する。
「…いいけど、まだ仕事中だからさ。後にしてくんねえ?」
ここまで瑞樹がアッサリと了承するとは思っていなかったのだろう。比企は少し面喰ったような表情をした後、くすくすと笑いを漏らした。
「ありがたい。仕事、何時に終わるんだ?迎えに来るよ」
「あー…あと二時間ぐらいか」
いつもなら閉店までいることが多いのだが、おそらく筑紫が来た後ではエライ人とやらの所へ行くことはできないだろう。
「了解、じゃあ十一時頃にまた来るよ」
「ああ」

じゃあ、と手をあげてくるりと踵を返した比企の後ろを、不良が小走りで追いかけていく。まるで飼い主に懐いた子犬みたいだと二人を見送り、瑞樹は地面に腰を下ろした。


 
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