Novel/Long

19

ゆるゆると煙が立ち上る。その独特な臭いに顔をしかめるものなどここにはいない。
「…で?」
デスクの向こうに座った男が半分以上残ったタバコを灰皿に押し付けて問う。問われた若い男は叫ぶようにして問いに応える。
「間違いないです!」
「うるさい」
「す、すみません…」
低く一喝され、若い男は体を小さくする。一喝した側はそれを気に留める様子もない。
「…そうか、間違いない、か…。」
思案するように目を伏せた男は、しばらくして薄く口元に笑みを描いた。

「どんな手を使ってもいい。椎名瑞樹を俺の前に連れて来い」



ギシギシと軋む関節、漬物石が乗っているかのようにだるい腰、そして治まることのない苛立ち。
瑞樹はそれらに耐えながら作り笑いを浮かべていた。
「お客様、どうぞ、こちらへ」
客を席に案内し、メニューを渡し、オーダーを取る。それから料理を運び、テーブルを片付け、手が空けば掃除をしたり裏方を手伝ったりと、このバイトは時給と仕事内容が釣り合っていないのでは、と疑問を感じる瞬間も多々ある。しかし、別にそんなに金が欲しいわけでもなく、店長である高宮には以前個人的に世話になったことがあり、その恩返しだと思えばなんてこともない。何より、瑞樹はこの職場を気に入っているのだ。

「瑞樹ちゃん、大丈夫?随分調子悪そうだけど」
オーダーを取ってきた瑞樹のやつれた顔を見て心配そうに店長が眉を下げる。それに向かって心配ないとヒラヒラ手を振り返し、メニューを元あった場所へ戻した。
「ああ…頑丈さだけが取り柄だから。大丈夫ですよ」
「あんまり過信しちゃダメだよ?休みはちゃんと取らないと」
「…それ、今度アイツが来たときに言ってやって下さいよ」
「アイツ…?」
遠い目をして言った瑞樹に、店長は首を傾げ、それから納得したように手を叩いた。
「筑紫君ね!瑞樹ちゃん妙に気に入られてるよねぇ…」
「…はは…」
もう、笑うしかない。

「店長、少し裏で休憩取ってもいいですか?」
「いいよ。なんなら筑紫君が来るまでゆっくりしててもいいし!」
「アイツ来るの深夜近いじゃないですか。まだ九時ですよ」
「それぐらい瑞樹ちゃんが働いてくれてるってことだよ」
「…ありがとうございます」
「うん、ごゆっくりー」


 
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