Novel/Long

17

ぐ、と息が詰まった。
一応これも性行為であるはずなのに、これまで数える程度に経験してきたあの快感はどこにもない。痛みこそなかったが、一歩間違えれば吐き気を催しそうなほどの圧迫感と異物感、嫌悪感、背徳感が腰の辺りでぐるぐると渦を巻き、瑞樹を苛んでいく。
優しく、だなんて口だけで、筑紫の独りよがりな行為だとしか思えない。
瑞樹は思いつく限りの悪態を絶え間なく吐きながら、筑紫の肩に爪痕を付ける。覚えのある苦い鉄の匂いにほんの少し自分を取り戻し、自分の上に圧し掛かる男を睨むが、相手はただ笑うだけで瑞樹の苛立ちが解消されることはなかった。

「う、あ」
単語にならない文字列が無意識に喉から絞り出される。
「大丈夫か?」
涼しい声が降って来て、瑞樹の額に青筋を立たせた。軋む体を無理矢理引き起こし、筑紫の首に腕を回して首筋に顔を埋める。それはまるで女が男に甘えすがるような行動であったが……。
「っ!…お前な…」
「自業自得、だ」
ソファへと逆戻りした瑞樹の顔がさっきまであったところには、くっきりと歯形が付き、黒ずんだ赤い色がにじんでいた。
「野生の肉食獣みたいな奴だな…」
「うるせえ、ウサギみてぇにヤることしか考えてない癖によ」
「…減らず口め」
「お互い様だ…っ」
言い切る前に筑紫の律動が再開され、瑞樹は揺さぶられながら胸の中で溜息と悪態を吐いた。



唇の隙間からタバコの煙が昇っていく。
「灰落とすなよ」
その言葉と一緒に視界の端から灰皿が伸びてくる。瑞樹はそちらを見ることなく灰皿を受け取り、まだ半分ほど残るタバコを押し付けた。
「まだ落としてねーだろ」
「落ちてからじゃ遅いんだよ」
「……うるせーバーカ」
「小学生かよ」
筑紫が声をあげて笑うのを横目で睨むと、いいから寝ていろとソファに体を押し付けられる。本当ならその手を振り払って掴みかかりたいところだが、今の瑞樹にはそんな気力も体力も残っていない。

「…明日は七時に起こせよ」
「はいはい…おやすみ、瑞樹」


 
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