Novel/Long

13

半日ぶりのマンションはやっぱり大きくて、部屋はやっぱり広かった。
「マジで格差社会の現れだよな…へこむわ…」
「だからここに住めばいいだろ」
しれっとした顔で前を歩く筑紫の後に続いて瑞樹もリビングへと足を踏み入れる。
「だからケツが心配だっつってんだろ」
「何だよ、ケツケツって。襲ってほしいのか?」
「んなワケねーだろ、変態」
「悪かったね、変態で」
筑紫は酒を取って来ると言い残してキッチンへと消え、独りになった瑞樹は勝手知ったる他人の家、と言わんばかりに朝寝転がったソファーに腰を下ろした。

筑紫が知り合いから貰ったという日本酒を、冷蔵庫に入っていたもので適当に作った炒め物を肴に飲む。飲みに誘った本人は金持らしくまともに料理などしたことがないらしい。久野に引き取られた頃には既に料理を覚え始めていた瑞樹には、やはり金持ちの世界は理解できなかった。
貴重なのだという日本酒は確かに旨かったが、瑞樹にとっては酔えるならどんな酒も大して変わらない。そのままの言葉を口に出すと、筑紫には『旨い』という単語だけで満足だったらしく、ただ笑うだけだった。
ぽつぽつと話をして、ほんの少し酔い始めた頃、筑紫がゆっくりと切り出した。
「…ちゃんと、久野さんに会ったか?」
「ああ…」
「そうか」
大きくごつごつとした手がテーブルの真ん中の酒瓶を掴む。重たいものを持った手に血管が浮かび上がるのが見えた。
「お前が思ってるより単純だよ、あの人は」
「……覚えとく」
筑紫の子供を諭すような声色に、何だかやりきれない気持ちになって、瑞樹は思い切り酒をあおった。

筑紫は瑞樹のコップを絶え間なく酒で浸し、自分のコップにもなみなみと注いでいく。ドン、と音を立ててテーブルの上の元の場所に戻された瓶の中身は、既に半分以下まで減っていた。
ゆらゆらと揺れる水面を眺めながら、瑞樹は久野との会話を思い出していた。
「…そういや」
「ん?」
「…久野にさ、聞いたんだよ。アンタの職業って何なんだ、って。そしたらアイツはぐらかしやがった」
「まあなあ、はぐらかしたくなってもしょうがないな」
「え…」
筑紫の唇が、二ィ、と吊り上がる。初めて筑紫と出会った日の、あの重圧にも似た空気が一気に広い部屋中に広がったような気がした。

「俺さ…ヤクザなんだよ」


 
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -