Novel/Long

12

夜、宣言通り筑紫は瑞樹の働くレストランに現れた。
ただし、いつものような客としてではなく、瑞樹が仕事を終え裏口から出て来るのを待ち伏せする形で…である。記憶は曖昧だが、昨日の拉致監禁モドキも同じシチュエーションで起きたのだろう。
「…今回は後ろから殴ったりしないんだな」
「悪かったよ、あんなことは二度としない」
「本当かよ」
「嘘はつかない主義でね。今日は普通に誘いに来たんだよ、うちに飲みに来ないか?」
「…まだ俺のケツ狙ってんのか」
筑紫の家と聞いて思わず身構えた瑞樹に、筑紫が苦笑する。
「今日はただ飲むだけだ」
「今日は、ってことは狙ってないわけじゃないんだな…。まあいいや、タダ酒飲めるなら行くわ」
「変な所だけ素直だな、お前」
「うっせ」

「おい、瑞樹」
レストランの駐車場で筑紫が手招きをする。その傍らには一台の車が停まっていた。
「気安く名前で呼ぶな」
「はいはい。ほら、行くから早く乗れよ」
瑞樹には車の良し悪しはわからなかったが、深夜の暗闇の中でもわかるほど綺麗に洗車されたボディーに、持ち主がこの黒い車をどれだけ大切にしているのかということだけは手に取るようにわかった。
「この車も高いのか?」
そう問いながら助手席に体を預け、運転席に座った筑紫の顔を横目で見る。いつもは意地の悪そうな笑みばかり作る男前な顔は、何故か今にも鼻歌でも歌いだしそうなほど機嫌よさげに緩んでいた。
「うーん…そこそこってところか」
「お前の言う『そこそこ』は俺にとっちゃ『相当』ってことだわ」
「そうか?まあ、エコノミーだからな…。ウチに住むか?空き部屋ならあるぞ?」
「嫌だ。常にケツの心配しなきゃいけなくなる」
「俺だってそこまでがっついちゃいねえよ」
「本当かよ…」

窓の外、煌煌と光るネオンが流れていく。それが眩しくて目を閉じると、低く唸るようなエンジン音が全身の感覚を支配した。車を持たない瑞樹にとってエンジンの振動はあまり馴染みがなく、妙に耳につくような気がした。
「…車ってどれに乗ってもこんな感じ?」
「は?…電気自動車とかはよく知らねえけど、そんなに大きい違いはないんじゃないか?」
「そうか」

あんま好きじゃねーなと呟くと、筑紫はお前らしいと笑ってハンドルを切った。






 
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