Novel/Long

08

汚れた皿を洗い、真っ白な布で水気を取り…をひたすら繰り返し、瑞樹がアパートに戻ったのは日付が変わろうとしていた頃だった。
ローテーブルの前に座り込み、夕方の孝之の言葉が脳裏をよぎる。
「…チッ」
ノロノロと下ろしたばかりの腰を上げ、部屋の隅に追いやられた電話機を引っ張りだす。
機械に疎い瑞樹が携帯電話という文明の利器を所有しているはずもない…いや、一度だけ久野に無理矢理持たされたことがあった。しかし、手にして三日も経たない使い方もわからないうちに、近所の酔っ払いに絡まれてポケットから転がり落ちたそれを踏みつぶしたのだった。それ以来、久野は瑞樹に携帯電話を持たせることを諦め、瑞樹も自ら買うわけがなくそのままであった。

いつだったか、パチンコ屋のチラシの裏に書きなぐった久野の携帯電話の電話番号をプッシュする。プルルル…と何度か呼び出し音が鳴って、相手が出た。
『…瑞樹?』
「久しぶり。…孝之に会ったんだってな」
『買い物に行こうとして偶然な。どうだ、今度夕食でも一緒に取らないか?』
「悪い、夜は高宮さんの所で働いてるんだ」
『そうか、なら明日…いや、今日か。昼飯食いに行かないか』
「わかった。場所は?」
『○○駅まで来てくれるか?昼休みはそんなに長くないんだ』
「会社員は大変だな」
『慣れればそうでもないさ。じゃあ、昼にな』
「ああ、おやすみ」
『おやすみ』
ブツリと通話が切れる。久野の呼び出しは面倒だが、昔ほどは嫌ではないなと思いながら受話器を置き、溜息と一緒に呟く。
「…俺も年かな…」



いつの間にか眠っていたらしく、太陽の光とスズメの囀りで目が覚める。朝早くに自然と起きるのは幼い頃からの瑞樹の癖で、久野の家に住んでいた頃は『お前はジジイか』とよく笑われたものだった。
Tシャツの下に手を突っ込んで腹を掻きながら台所へ行き、冷蔵庫の中にあったパックに半分ほど残ったままの牛乳を注ぎ口から直接飲み下す。賞味期限を確認すると明日までのようだ。今日一日は牛乳以外飲むまいと心に決め、シャワーを浴びに風呂へ向かった。

「よっ」
タオルで乱暴に頭を拭きながら居間に戻ってきた瑞樹に、そんな声が掛けられた。
「……警察…」
「おいそれはやめろ」
瑞樹の小さな呟きに、慌てたように侵入者…筑紫が手を振った。


 
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