7/27 無題
僕は気が付くと知らない場所にいた。
小高い丘の上の公園らしき場所、街を見下ろす位置にあるベンチ。
ここは、どこだ。
根が張ったように重い腰を上げて目の前の階段をのろのろと降りる。
この道を行けば、きっとあの街に行けるはずだ。誰かにあったらここの住所を聞こう。今日は大切な日だから早く帰らなきゃいけないんだ。
決して軽くはない足取りの下、ジャリッと靴底と砂利が擦れ合う音がした。
静かな住宅街の中、人を探して歩く。自分の住んでいた街はもっとざわめいていて、子供の笑い声や車の走る音も聞こえていた。どうしてこんなに人の姿が見当たらないんだろう。
「それはね、」
背後で声がした。驚いて振り向くと、優しそうな青年が立っていた。
「ここがさっきまできみのいた世界じゃないからさ」
「…え?」
「覚えてない?」
青年が眉を下げ、困ったように微笑む。
「ブレーキ、悲鳴、痛み」
青年の声が耳を貫く。ノイズが混じり、割れるように頭が痛んだ。
「衝撃、血…そして」
「やめろ!」
「逃げるな、受け入れろ」
「いやだ、いやだ…っ!」
「お前は、死んだんだ」
そうだ。
今日は大事な人の誕生日で、誰より早く祝ってやりたくて、朝イチで家を飛び出した。
アイツの笑顔がみたくて、プレゼントも用意した。
走って、走って、青信号を渡ろうとして、信号無視した車が、
「俺は、死んだのか」
「ああ」
「そっか…誰か代わりにアイツにプレゼント渡してくれるかなあ」
「……」
「喜んでくれるかなあ」
「きっと、喜ぶさ」
「だったらいいなあ」
「そうだな」
頬を伝う涙は、死んでいても温かかった。
「家を探しにいこう。これからお前はこの街の住人なんだから」