1万&2万hit企画 | ナノ

未発達な僕ら
「なまえ」
呼び止めると彼女は声に反応して足を止め、ゆっくりと俺の方を向いた。振り返った顔は怪訝そうにしかめられている。

「……何?」
まだぱらぱらと生徒が行き交う廊下で、彼女の姿だけがやけにはっきりとした輪郭を持って俺の目に飛び込んでくる。

逃さぬよう足早になまえの元へと歩を進めると、彼女は気まずそうに尻込みした。

「まだ帰っていませんでしたか」
「だから、何の用?」

急かすように早口で言ってから、なまえが視線を巡らせる。

「その言葉遣いは頂けませんね。これでも俺、一応教師ですよ」
彼女の問いには答えずにそう言うと、なまえは一瞬たじろいだ。けれどすぐにきっと俺を睨みつける。強い光が宿った瞳に背筋がぞくりとする。

「あんた悪徳教師じゃん。私は尊敬する人にしか敬語使わないの」
断言するような口調に頬が思わず緩んだ。

「またまた。尊敬してやまないくせに」
「はん。勘違い、ちょー勘違い。片腹痛いわ」

酷く顔を歪めて鼻を鳴らしたなまえが吐き捨てる。けれどこれはいつもの事だ。ぞんざいな物言いをするわりには本気で嫌がっているわけでもなく、どことなくこのやりとりを楽しんでいる節すらある。それはまあ、俺も同じなわけだが。

「で?用があったんじゃないの」
腰に手を当て、彼女が幾分改まって言った。ああ、そうだった。

「いえね、昨日提出してもらった問題集のプリントですが」
「ああ、あの小憎たらしいやつ」
「ええ、わざと小憎たらしい作りにしてあるあれです。あなたの解答があまりにも酷いので、ここはひと肌脱いで、俺自ら個人授業をしてさしあげようかと思いましてね」

告げるとなまえは「げっ」と言い、じりと後ずさった。きゅっと上履きが床に擦れる音が鳴る。

「今から……どうです?」
にやりと笑って見せると、なまえは額にうっすらと汗をかきながら目を白黒させた。いつもこうやって嫌がるくせに、なまえがこの提案を拒んだ事は一度もない。別に教師の権力を笠に着て強要しているわけではない。あくまでもこれは提案だ。

今日も同じように首を縦に振ると踏んでいたのに、彼女から返ってきた返答は俺を幾らか失望させるものだった。

「今日は……ちょっと。明日じゃダメ?」
横髪を耳に掛けながら、伏し目がちになまえは言う。

「……何か大切な用事でも?」
「いや、大切ってほどでもないんだけど」

妙に歯切れの悪い言葉に、言い知れぬ不安感が胸に広がる。確かに今は教師と生徒という間柄でしかないが、これでもある程度の信頼関係は築いてきたつもりだ。

憎まれ口を叩きながらも、なまえは何か困ればすぐに俺に相談を持ち掛ける。隠し事がないとは言わないが、こうやって言いよどむ事など今までになかった。内心のわずかな落胆を悟られぬよう、俺は大きく肩をすくめてみせる。

「しかたありませんね。では、明日」
「ありがと。そうしてもらえたら助かる」

彼女は俺に視線を向ける事なく、足早に廊下を駆け抜けた。その背中が角を曲がり見えなくなったのを確認してから、大きくため息を吐き出す。

自分で思った以上になまえにのめり込んでしまっている。相手は子供、まして自分の教え子。褒められたものではない感情なのは百も承知だ。だからこそ思いを告げるわけでもなく、こうやって善人面して『教師』として彼女に接しているのだ。

その甲斐あってかなまえも、俺に対して一教師以上の感情を抱いているのは手に取るように分かった。もちろんそれが恋心かと問われれば疑問ではあるが、押していればそのうちぽんと手に入りそうな雰囲気ではある。

けれどやはり世間体というか、立場というか。大人の事情が絡み合ってなかなか一歩踏み出せない。これがその辺の女なら一発ヤればモノにできているだろうに。

もう一度深いため息を洩らしてから、俺は踵を返した。


    *


三本目の煙草に火を付け、盛大に煙を吐き出した。紫煙が風に吹かれてゆらゆらと自主性のない動きで立ち昇って行く。それをぼんやりと見ながら、また煙草を口につけた。

最近はどこもかしこも禁煙、禁煙、そして分煙。なんとも喫煙家にとっては肩身の狭い時代になったものだ。それでもまあ、この学校は全面禁煙ではないだけましなのだろう。

体育館の裏、本校舎からはだいぶ離れた場所にある喫煙所だけが、俺の憩いの場になっている。生徒が立ち入る事はまずないし、同僚もめっきり禁煙してしまってこうも頻繁に訪れるのは俺くらいのものだろう。

こうやって煙草をふかしながら、とりとめのない思考を巡らせる事に興じる。至高の時間だ。これでもし禁煙にでもなろうものなら、校長あたりに辞職表を叩きつけてしまいそうだと思う。

短くなった煙草を灰皿に押しつけた時、ふいにどこからか話し声が耳に届いた。喫煙所は体育館の陰にひっそりと立てられているため、裏庭の全貌を見る事はできない。

耳を澄ませば若い男女のそれだと気づく。何事かやりとりしているが、その声は幾らか顰められていてはっきりとは聞き取れない。こんな人目につかない場所で、男女の生徒がひそひそ話と言えば。

ははあ、さては愛の告白ってやつか。若いってのはいいものだ。皮肉めいた考えが頭をよぎる。どれ、どんなやつらなのか顔を拝んでやろう。そう思い音を立てないよう細心の注意を払って、体育館の壁越しにそっと覗き込んだ。

「……!」
見覚えのある後ろ姿に一瞬息が止まりそうになる。

男子生徒の方は見覚えのない顔だったが、女生徒の方は。ひょっとしたらよく似た別人かもしれないと何度も確認してみるが、どこからどう見てもまごうことなくなまえだった。時折耳に届く話し声も、聞き慣れた彼女の声だ。

冷やかしのつもりが金縛りにあったように身体が動かない。先程まで告白であったならおもしろいと浮かれていた気持ちは急速にしぼんでいき、頼むから違っていて欲しいと何かにすがるような気分になる。

しかし考え直してみれば、告白などというのは自分の早合点の可能性もある。ただの何気ない会話かもしれない。そうであってくれ。彼らの話の内容を把握するべく全神経を耳へと集中させた。

「な!頼むよ、……いいから……」
「……言われても私にだって……困るよ」
「……お前に……だよ」
「……思い……伝えた……じゃない……」

耳を澄ませてみても会話は途切れ途切れ、ようやく聞き取れるくらいの小さなものだ。背中を向けたなまえの表情は分からないが、男子生徒の方は顔に切羽詰まった色を浮かべている。

「……言うな……俺だって……そうして……けどこういうの……順序……」
「まあ……女の……大事に……だし」
「……だから、な?……俺を……で付き合って……」

『付き合って』とは、やはりそういう意味の、だろうか。男子生徒はますます情けなく眉尻を下げた。胸の中を小さな虫が這い回るような不快感に襲われる。

「……うーん……ってのは分かって……」
「頼む……今度……からさ」

おいおい、まさか了承するつもりじゃあないだろうな。虫のざわめきが一層増す。この空気感はそういう、思いを告げられて断るというような重っ苦しいものとは到底思えなかった。

二人の関係がどういうものなのかは知らないが、親しい気心知れた仲という言葉がぴったりくる。

「しょうがない……そこまで言う……付き合ってあげても……」

なまえの──明るい声が──耳を貫く。そのまま彼女のそれは脳へと駆け上がり、俺の思考を奪っていく。途端男子生徒が目を輝かせ、顔をほころばせた。なまえの髪が背中でふわりと揺れている。

蠢いていた虫たちが、一斉に胸を喰い破って溢れ出るような痛みに俺は顔を歪めた。

「……やった!」
「……忘れな……」
「おう」

二人に気づかれないよう、俺はそっとその場を離れた。ぐるりぐるりと先ほどの会話が頭で木霊する。俺らしくないと分かってはいても、胸の奥のもっとずっと底の方から忍び寄るそれを押し留める事は出来なかった。


    *


「おーい……いないの?……ちょっとー、ねえー」
扉を無遠慮に叩く音と、間延びした声。なまえだ、とすぐに気づくが昨日の今日で喜び勇んで会えるほど俺は無神経にできちゃいない。

無視を決め込もうと扉から視線を外した所で、鍵を掛け忘れた事に気づいた。今から掛けに行ったところで手遅れだろう。失敗したと舌打ちをするのと同時に扉が力強く開けられ、なまえがひょっこりと顔を覗かせた。

「なんだ、いるじゃんか」
いつもと変わらぬ様子で部屋へと足を踏み入れ、俺をちらと見る。

「なに、引きこもり?返事くらいしてよ」
怪訝そうに眉をひそめた後、どっかりと椅子へと腰を下ろした。持参した筆箱からペンを取り出し、かちゃかちゃとやっている。そのペン先を見つめながら、なまえはめんどくさそうに口を開いた。

「さっさとやろうよ」
その彼女の態度に、俺の中で黒いものが広がっていく。

「ああ、そうですね。お忙しいようですしね」
口にした言葉は自分でも驚くほど冷たく棘があった。なまえがはっとしたように顔を上げ、俺の顔をまじまじと見つめる。

「別に忙しくはないけど」
「またまた。なまえにだって彼氏の一人や二人いるでしょう」
「なにそれ。そんなもんいないよ」

不快そうに眉根を寄せ、なまえがこちらを睨んでいる。いつもならかわいらしいと思うその顔も、今日は苛立ちを増幅させるものにしかならない。

「おや、別に隠さなくってもいいじゃあないですか」
「隠してないよ。いないもんはいないんだから」

彼女の瞳が真っすぐと俺を捉えている。どういうつもりなのだろう。昨日のあの会話は断片的とはいえ、どう考えてもそういう会話だった筈だ。

なまえは了承したではないか。俺には言いたくない、とそういう事なのかもしれない。信用に値しないと、そう思っているのか。

時間的にはほんの数十秒だろう。お互い目を合わせたまま微動だにしない。まるで目を逸らした方が負けだ、とでもいうように。俺はそれが随分と長い時間のように感じられた。不意になまえがゆっくりと長いため息を吐き出し、机から立ち上がる。

「今日のあんた変だよ。悪いけど、付き合ってらんない──もう帰る」
ペンを筆箱にしまい、それを引っ掴んで彼女はきりりと背を向けた。その動きに合わせて艶やかな髪が左右に揺られる。なまえがきびきびとした動きで扉へと向かう。

考えるよりも早く体が動いた。彼女が扉に手を掛けるのとほぼ同時に背後から覆い被さるようにして、鍵を掛ける。無機質な金属音が響き、驚いたようになまえが首をひねって俺を見上げた。

「え、ちょ、なにしてんの」
あんぐりと口を開けて彼女は固まっている。それもそうだろう。俺となまえの身体の距離はかつてないほど至近距離だ。

「まだ話は終わっていないんですけどね」
にやりと口の端を歪めて見せると、こちらへと身体を向き直したなまえは訝しげに眉をひそめた。瞳の奥に怒りのようなものが見え隠れしている。

「……なんのつもり?」
憮然として彼女は言う。強気ななまえは怯まない。こういうところに俺は惹かれたんだ。彼女の手首を掴むとその身体がわずかに揺れた。俺の手がすっかり回せるほど細い手首に驚かされる。彼女の鋭い視線が俺を射抜く。

「そういう顔、好きなんですよ」
呟き、なまえの首元へと口を寄せた。なまえは今度は身じろぎ一つしない。もう少し抵抗してくれた方が楽しめるんだがな、そんな場違いな事を思う。

「……これ、まずいんじゃないの?──法正せ・ん・せ・い」
わざとらしく区切りながらなまえが飄々とした口調で言った。それに脱力しそうになる。普通この空気でそんな事言うか?いや、彼女は言うだろう。そういう女だ。

「もう少し動揺でもしたら」
「誰かに見られたらどうすんの?教師生命終わっちゃうじゃん」

俺の言葉を遮ってなまえは口早にそう言い放った。自分の身を案じてのことだろうかと邪推してみるが、彼女の目線は真っすぐ俺を見据えたままだ。その瞳には一点の曇りもない。

「別に構いませんよ。この職にそこまで思い入れがある訳じゃありませんから。なんなら大声出して逃げてもいいんですがね。やってみますか?」
「ていうか、なんでこうなってんのか分かんない。いつものお遊びにしては度が過ぎてない?なに怒ってんのか知らないけど不機嫌だしさあ。八つ当たりしないでよ」
「……俺は、別に怒っていませんが」
「うっそ、絶対怒ってる。そんなに私のプリントの出来が悪かったわけ?」

どうしてそうなるのだろう。なまえの思考回路はどこかで焼き切れているのではないだろうか。しかしよくよく考えてみれば彼女はまだ学生だと思い出す。こういう状況が何を指すのか、経験もないのだろう。

いずれこれから他の男と──そう、例えば昨日の男子生徒のようなヤツ──男女の仲になって、女になっていくのだ。思い出したくない昨日の光景が浮かび、俺は頭を振ってそれらを追い出した。同時になんとも言えない腹立たしさに心を支配される。

「俺が怒っていたとして、どうします?おさめてくれるとでも?」
「……まあ、できる範囲内なら頑張るけど」
「へえ……」

その言葉に頷いてから、俺はなまえの唇を奪った。柔らかい感触に胸が締め付けられる。こんなにも、愛しく思っているのに。彼女の口から、驚いたようなくぐもった声が聞こえる。

掴まれた手首を振りほどくべく必死に動かそうとしているようだが、俺からすればそれはささいな抵抗にしかならない。扉へと押し付け、さらに自由を奪ってやると、無駄だと悟ったのか彼女は抵抗を止めた。

「んっ……ちょ」
抗議の言葉を発しようとした瞬間を見逃さず、舌を割り入れる。彼女の肩がびくりと震えた。逃げる舌を追いかけ、絡めとって、歯列をなぞる。なまえの口から堪え難いとでもいうように吐息が零れた。

「や……は……んんっ……」
充分過ぎるほど彼女の咥内を味わってから、ゆっくりと口を離すと唾液がたらりと糸を引いた。

なまえの頬はまるでチークを塗ったように赤く上気し、息が上がりきっている。押さえつけていた手首を解放すると、彼女は慌てたように両腕を胸元で組んだ。

「な、なにする、の!」
「怒りをおさめてくれると、そう言ったのはなまえでしょう。それとも、俺が相手じゃ嫌でしたかね……愛しの彼の方が良かったですか?」

皮肉めいて言うとなまえは「はあぁ?」と大きく首を傾げた。

「さっきからなに言ってんの?私には彼氏も愛しの彼もいないんだけど。それどこ情報よ。なんであんたが私の彼氏知ってて私は知らないの。おかしいでしょうよ」

その言い方に今度は俺が「はあぁ?」となった。隠しているとかそういうふうではなく、本当に彼女は訳が分からない、そんな顔をしていたからだ。ならば。ならば昨日のあれはなんだったんだ?あれはどう考えても告白の場面だった筈だ。

「昨日俺と別れた後、体育館の裏庭で……」
「あんた居たの!?」

ぎょっとしたようになまえがこちらに身を詰める。肯定の意味で頷くと、彼女は幾分声をひそめて続けた。

「居たんなら聞いてたでしょ」
「はっきりとは聞き取れませんでしたが、あの男子生徒と付き合う事になったのでしょう?」
「違う。ぜんっぜん違う。あのね、あれは私の幼馴染で私の友達が好きなの。だからその協力要請受けてただけ。私とあいつが付き合う?はん、天地神明に懸けてないよ」

俺の目を見ながらなまえがはっきりと言い捨てる。では付き合う、とは?その疑問が顔に浮かんでいたのか、なまえはわずかに気まずそうに続けた。

「で、まあ、友達がもうすぐ誕生日なの。プレゼント渡して告白するって言うからそれ選びについて来てくれって話」
言ってからなまえは鼻をすすった。

「……つまり、俺の勘違いだと?」
聞くと彼女が口を尖らせ頷いた。頭が混乱してどうにかなりそうだ。俺とした事がきちんと裏も取らず、感情にまかせて先走ってしまった。自分の醜態に気づき思わず言葉をなくす。

「……で?どうしてくれるの」
なまえの声ではっと彼女へと視線をやると、ふくれっ面でけれど頬を上気させている姿が目に入った。

「どうしてくれる、とは?」
茫然としたまま問うと彼女は目を見開き、即座に俺の右肩へと拳を繰り出した。突然過ぎるその動きに身体が反応せず、避ける事ができない。鈍い音とともに右肩にわずかに痛みが走った。

「……痛いですよ」
「ファーストキス!さっきの!私の!ファーストキス!」
「声がでかいです」

言うと彼女は一瞬たじろいだがすぐにまた不服そうに頬を膨らませた。

「私にだって理想はあったんだ……初めてはもっとこう胸がときめくような……それをあんたはぁぁ」
悲痛な表情でなまえは抗議の声をあげる。

その様子に呆気にとられたが、よくよく考えてみればこれは好機だとも言える事に気づいた。今日まで今の関係を崩さぬようにしてきたが、彼女から特に強い拒絶はない。つまりはなまえもまんざらでもないって事だろう。

「ああ、それじゃ今からやり直しましょうか」
提案すると彼女は頭を掻き毟っていた手を止め顔を上げた。そこには驚きの色が浮かんでいる。しかしその驚きはすぐに消え失せ、なまえはわなわなと唇を震わせた。

「そうじゃない!キスって言うのは付き合ってる人同士がするもんでしょ!私とあんたは恋人じゃない!」
「なら今から付き合えばいいんですよ」
「なんでそうなるの!」

今にも暴れだしそうななまえの手を取り、口許に耳を寄せる。困ったお嬢さんだ、そう思うがこういうところも悪くない。

「おや、気付いていませんでしたか。俺、あなたの事が好きなんですよ」
囁いてからなまえの顔を覗き込む。彼女の顔が真っ赤に染まるまでさほど時間は掛からなかった。



「待って。どういう事?」
なまえが茫然としたように呟いた。その手には二枚のプリントが握られている。何度もそれを見比べながら彼女は困惑の表情を浮かべた。一枚は彼女の物。もう一枚は彼女のクラスメイトの物だ。

「日付が一緒なのになんで問題が違う訳?」
なまえの方は他の生徒の物よりも幾分難解に作成されている。わざわざ彼女の分だけ作り直し、配る時もそれが彼女の手に渡るよう細心の注意を払った。

「ちょっと、どうなってんの。こっちの簡単なやつならあんたに教わるまでもなく分かるんだけど」
不審げに問い詰めるなまえを見ながら、その努力が無駄ではなかったと満足感で胸がいっぱいになる。古典的ではあるが、功を奏したという事だろう。

「さあ、どういう事でしょうね」
飄然と歌うように言ってから、俺は肩を大げさにすくめてみせる。今頃気づいたって手遅れだ。やっとなまえを捉まえた。そう思うと頬が緩むのを堪えきれない。そんな俺を見てなまえが愕然とした。

「ほんっと、悪徳教師」
呆れたように言う彼女の傍へ行き頭を撫でてやろうと手を伸ばすが、すぐに振り払われる。

笑いを噛み締めながら、
「それって俺にとっては褒め言葉なんですがね」
そう言ってやる。

彼女から漂う甘い香りに誘われるように、唇へと顔を寄せた。
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