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懺悔
扉に手をかけた姿のまま、私は固まっていた。

「すみません、法正様。何をされているのかいまいち理解しかねるのですが」

その言葉に返答はない。ただ耳元で、くつくつと笑い声だけが響く。

私は扉に向かい立っている。法正様はその背後に立ち、右手を壁に突き立て左手を私の腰へと回している。

なぜだ。なぜこんな体制になっているんだ?凍りついたように動きを止めた頭で、必死に考えを巡らせる。

ええと、私は徐庶様に言われ、法正様に書簡を渡しに来た筈だ。で、お渡しして失礼しようと扉へ向かい開けようとしたら、その扉を押さえつけられて。

……今に至るわけだ。整理した所でなぜこうなるのかがまったく理解できない。

「法正様。離していただけますか?」
少し強めに言うも、腰に回された手は緩められる気配もない。

そもそも私は徐庶様の副官で、彼とは接点などあまりない。話したことも数える程の筈だ。それも当り障りのない。

それがなぜ、このような超接近をかまされているのか。しかもお触り付きで。

「離していただけなければ、武力行使することになりますが」
「いいんじゃないか?できればだけどな」

ようやく喋ったと思ったらそれか。だが確かに私の力では、彼を捩じ伏せれるかと言われれば微妙だ。法正様はそこそこお強いんだった。なんと始末の悪い。

「いやほんと離してくれます?こういう事は好い人にするもんですよ」
「なまえはそんな女がいると思うのか?この俺に」
「いないでしょうね」

「俺とそういう仲になってみるってのはどうだ?」
「全力でお断りします」
「悪いようにはしないつもりだが」
「すでにこの状態が悪いのですが」
「はっきり言ってくれるな」

「さらにはっきりすっきり申し上げますけど、不快なのでどいてください」
「なるほど、不快、か」

納得するような法正様の声に安堵するも、すぐにそれは間違いだったと気付かされる。

「なら、快感にしてみるか?」
はあ?と思った瞬間、耳に生暖かい物が触れた。

「ひょおぉ!?」

耳が!耳が食べられている!ぬらぬらとした舌が私の耳を食んでいる!

「なっ……なにっ……してっ!」
あまりに衝撃的すぎて言葉を失う。

「こういうのは初めてか?もっといい声で鳴いてみろよ」

初めてに決まってる。誰が、誰が人の耳を同意なく舐めたりできるんだ!したこともされたこともないわ!

「ちょ……あっ……やめっ」
甘噛みされ、息を吹きかけられる。あまりのくすぐったさに身をよじって抜け出そうとするが、腰をがっちり掴まれているためそれもできない。

「いい声出せるじゃないか」

ああああああああ!!やめろ喋るな!
頭が恐慌状態だ。


思う存分私の耳を堪能した法正様は、やっとの事でその腕を離し解放してくれた。力が抜けその場へ座り込む。

「少し刺激的すぎたようだな」
「……」

もうだめだ。お嫁にいけない。ていうか本気で今すぐこいつを殴りたい。私が何をしたと言うのか。

「ぜったいゆるしませんよ」
よれよれの泣き声で糾弾するも、法正様は平然としている。

「おいおい、犯したわけでもあるまいに、そんなに怒らなくてもいいだろう」
「似たようなもんですよ!」
「まったく別物だろう」
「いいえ! 同じです! 絶対許さない……」
「それはあれか。報復か」

「うんこ拭ききる前に紙なくなれ。魚の小骨喉に詰まらせろ。小骨流し込もうと慌てて飲み込んだご飯でさらに喉詰まらせろ。さかもげが想像以上にもげろ。寝つきかけた時に尿意催せ。馬超様の馬をうっかり逃がせ。お酒飲んだ張飛様に一晩中からまれろ。転んで関羽様の髭うっかり引き抜け。馬岱様ににこやかに罵倒されろ。諸葛亮様にあっさり論破されろ」

「呪詛にしては地味だな。そして多い」
「それくらい腹立ってますから」
「俺はなまえのそういう所を気に入っているんだがな」

またしても、はあ?である。

「思った通りだ。つつけば想像以上に良い反応が返ってくる」

虐めがいがあるな、そう言うと法正様はにやりと笑う。

「冗談やめてください。虐めるのは好きですけど、虐められるのは死ぬ程嫌いです」
「だからだ。虐めて欲しいやつをいたぶっても楽しくないだろう?嫌がるやつを相手にする方が燃えるんだ」

分かるけど分かりたくない!というより、その標的が私というのが嫌すぎる!

「これからは俺がたっぷりと教え込んでやるよ」

その顔は愉悦に満ちていた。

ごめんなさい神様。
もう二度と徐庶様を虐めませんからどうかこの鬼畜から逃がしてください。
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