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いけませんか
格子窓から朱色の光が差し込む。

私は湯浴みをし、香を焚き染め、髪を整えて薄く紅を塗る。すべてを終える頃には窓の外は闇に包まれていた。

待ち焦がれていたと言ったら、あなたはどんな顔をなさるのかな?どうかはしたないなどと仰らないでね。ずっとずっとお利口で待ちに待っていたのだから。



扉の向こうで私を呼ぶ声が聞こえた。たったそれだけで心臓が飛び跳ね、頬が熱を持つ。

返事をし、ゆっくりと扉を開けると愛しい愛しい文則様のお姿。辞宜をし彼を部屋へと招き入る。

「なまえ、息災か」
「はい。つつがないです」
「そうか。何よりだ」

ここを出た時よりもいくらかお痩せになられた気がする。それほど迄に此度の戦は過酷だったのだろう。

「文則様も、傷痍など負われてはおられませんか?なまえは心配して……」

その言葉は音になる事はなく、私の口は文則様の唇で塞がれてしまった。

気づけば彼の腕の中に閉じ込められている。生暖かい舌が差し入れられ、口内を掻き回される。負けじと舌を絡ませてみても、いとも簡単に押し戻されてしまう。

「んっ……ふぅ……」
逃げても逃げても追われ、吸い上げられる。激しい口づけに意図せず吐息がこぼれた。

どれ程そうしていただろう。私の息がすっかりあがってしまった頃に、ようやく解放される。

「傷痍があるかどうか、お前の目で見るがいい」

そう言った文則様の目はギラギラと鋭い光を放つ。獣のようなその眼差しに、くらりと目眩がした。

布団へと押し倒され、口づけしながら衣服を次々に剥がされていく。耳を舐められくすぐったさに身が縮こまる。耳朶を優しく噛まれながら、彼の肩へと腕を伸ばした。

「……っ、くすぐったい、です文則様」
「好きだろう」

耳元で低い声で囁かれ、胸が高鳴る。文則様の大きな手が私の乳房を包み込み、ゆっくりと揉みしだく。

「ん……」
じわじわと焦らすように、胸の突起には触れてくれない。今か今かと体が震えても、彼は素知らぬふりだ。

「文則様っ……」
「触れて欲しいか?」

私の切羽詰った声を楽しむように、意地悪く問われる。恥ずかしくて消えてしまいたい。それでも、体は正直だ。

「……はい」
「ならばそう言え」

言うが早いか、彼は乳首を口に含んだ。待ち侘びた刺激に思わず体がぴくりと跳ねる。

「あっ! ……んん、ああ……」

舐め転がされ、文則様の舌に翻弄される。吸われるたびに嫌でも体が反応してしまう。切なさに支配され、早く早く文則様を、と子宮が悲鳴をあげる。

なんて淫らな心と体。だけど知っている。彼はじっくりと私を焦らし、甚振るのだ。

文則様の手が下方へ伸び、割れ目をなぞった。ぴちゃりと濡れた音に耳を塞ぎたくなる。何度かそこをさすった後、彼の指がゆっくりと侵入してきた。

「ぅ……あっ」
その感触に一気に下腹が熱を持つ。指の腹が私の一番いい場所を擦り上げる。

「んあっ! ……あっ、だ、だめ」
決して激しくなく優しい愛撫のはずなのに、息もできぬほど追い立てられる。

「だめ……だめです、文則様」
頭を振りかぶり、彼の腕へ手を重ねた。

「構わん、達せ」
その言葉を待っていたかのように、眼前が白く光る感覚に襲われる。

「……あああっ」

ひくひくと膣内が収縮しているのを感じた。全身の力が抜け、気だるさに抗えず布団へと体を沈ませる。呼吸を整えようと大きく息を吸ってみるがあまり意味はない。

「なまえ」
優しい声で呼ばれ、頭を撫でられる。

「大丈夫か?」
その問いかけに笑顔で返し、文則様の少し乱れた前髪をすくい上げた。

綺麗な鎖骨や逞しい胸板がふいに目に入り、なんとなく気恥ずかしい。

「文則様……どうか、なまえに文則様をください」

自ら乞うなんて、という思いが頭の片隅によぎるがそれ程までに体が火照って仕方がない。

勇気を振り絞って伝えたのだが、文則様は動かれる気配がない。もしやはしたないと嫌われたのかと不安に駆られた。

「どこでそのような物言いを覚えてきたのだ」

文則様の眉間には皺が寄せられ、呆れたようなその声にさらに不安が増幅する。

「お前のその言葉、挑発と受け取る。生憎、今宵は理性というものを持ち合わせておらんぞ」

そう言われるが刹那、文則様自身に貫かれた。唐突すぎる快感に頭がついていかない。

「ひ……ああっ!」
激しい律動に勝手に嬌声が漏れ出す。手で口を塞ぎ、押さえ込もうと試みるがその手は文則様の腕で布団へと縫い付けられてしまった。

「我慢などする必要はない。その声を存分に聞かせろ」

幾度となく最奥を突かれ、幾度となく達する。最早恥じらいなどない。文則様にされるがまま嬌声をあげ、痴態を晒す。何一つ考える余裕など与えられない。

「あっ! やっ、ああっ!」
「っ……はっ……」

眉を顰めているが、それは普段の厳格さとは違う。文則様の切なげな表情に、更に高まりを覚える。彼の背中へと掴まり、誘われていく。

「なまえっ……!」

文則様は達し、私の中に熱いものが注ぎ込まれる。その感覚に私もまた達した。


    *


隣で規則的な寝息をたてる文則様を見つめながら、その髪を撫でる。眠っていてもどこか厳しい姿に笑みがこぼれてしまう。

先程の情事を思い出し、今日もされるがままだったと少しばかり悔しく思った。けれどいつかは、彼を惑わし翻弄してみたい。

そんな事を考えてはいけませんか?文則様の唇に口づけを落とし、その腕の中へ身を寄せる。

久しぶりに一人ではない夜に、文則様の温もりを感じながら、瞼を閉じた。
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