「なまえ、来るか?」
来るか?なんて、いやな言い方。
来いでもなく来てくれでもない。私に選択権を与えるような言葉なのに、その実そんなものはない。なにしろ情事の真っ最中だ。行かないとは言えやしない。
曼成は当然のように布団の上に仰向けになっている。本当にこういう所が腹立たしい。
不満を押し殺して彼の上へと跨り、彼自身を中へ招き入れる。慣れた行為に私のそこはそれをすんなりと受け入れた。
瞬間曼成の顔が恍惚としたものに変わる。それを見た所で私の気分が高まる事もない。やけに冷静な思いで腰を動かす。
早く終わればいいのに。そうも思ってしまう。
いつからこの行為が苦痛に変わってしまったのか。始めの頃はどちらかと言えば肌を合わせる事が嬉しかったし、気持ちいいとも思っていたはずだ。
いつ、という明確な線引きはないのだろう。いつの間にか変わってしまったんだ。彼も私も。
曼成は私を喜ばせる事を止め、自分本位な情事を繰り返す。私は彼の愛撫や存在に慣れ、高まりを忘れてしまった。
長く一緒にいると自分が一人の女だという事を認識できなくなる。喘いだり達したり、そんな自分を見せる事に戸惑ってしまうのだ。
それでも彼の誘いを拒絶するのも億劫でそれに乗る訳だけど。
曼成は気づいているのだろうか。私はこんなにも変わってしまった。好きだと言ってくれたあの初な女はもういないという事に。
「……んっ」
それでもまだ取り繕うように声を出す。気持ち良くなんてない。
それでも関係が悪化する事に比べれば容易いと思う。いっそすっぱりと終わってしまえば楽なのに、そうもいかないからやっぱり億劫なのだ。
ああ、もう疲れた。早く終わらせたい。その一心で腰を振り続ける。膣が痛くなる頃、やっと曼成は達した。
「気持ち良かった?」
満足げに問う彼にええ、もちろんと答える。
心の中で私は独り善がりな行為はもうたくさんと悲鳴をあげる。それを口にする事はきっと一生ないだろうけど。
情事さえ除けばうまくいってる。彼は優しいし、私を愛してくれているし。だから大丈夫。この瞬間だけ、がまんすればいい。
それでもまだ心が喚く。彼は私の事なんてもう愛していない。存在に慣れ、惰性と妥協で持った細い糸みたいな関係だ。そんな二人に曼成は気づいているんだろうか。
それでも今はこのままでいい。いつか綻び始めたらその時考えればいいのだ。
再び熱を持った曼成に組み敷かれながらそんな事をぼんやりと考えていた。