▼ 泡恋
転入の挨拶もすませ、大阪にきて最初の授業を終えて一息をつく。
大阪の女の子はとにかく気さくで、隣になった子は両方ともすぐ仲良くなれた。
「白石くんかっこいいなあ」
「やろ?転入クラスがここで良かったなぁ。蔵がいるクラスは毎年羨ましがられるんや」
「そうなんだ...」
こわいくらい整った横顔が視界のすみにうつる。
アイドル的存在になってもおかしくないのに、本人の気さくさのおかげで、クラスの女子は全員彼に言われたとおりの「蔵」呼びだ。
彼を好いている女子も彼の性格ゆえか臆することなく彼と他愛ない話を展開させている。
私が元いた立海ではテニス部には女子はあまり話しかけられなくて、なんというか、イケメンゆえの距離感があったけれど...。白石くんはすごいなあ。
彼は誰にでも優しく、分け隔てなく接するという。
それが彼の良いところで、彼の優しさの証でもある。
「なんや、転入生か?」
じっと見つめていたら、白石くんのまわりに集っていた同じ部活のお仲間さんが、こちらに気づいた。
「せや。今朝転入してきたダイヤモンドさんや」
「へええ。俺は忍足謙也っちゅーねん。よろしゅう」
白石くん、私の名前覚えてくれてたんだ。
差し出された忍足くんの手を握って、宜しくお願いします、と言う。
忍足くんは人懐こい笑顔で「おん」と返事を返した。
「ダイヤモンドさん固いで。もっと力抜いたらええ」
白石くんが吐息で笑う。
男臭い声が、耳を震わせた。
「ご、ごめん...」
「ええって、謝らんといて」
「白石くんって、優しいね」
「蔵でええよ」
「蔵くん」
「ははっ、なんやダイヤモンドさんはかわええなあ」
ぽんぽんと頭を撫でられる。
ああ、駄目だ。
泡恋
(彼の特別になりたい)