▼ におうまさはるというやつは4
デートとかいっておいて、次の日にはけろりと何もなかったように登校してきた仁王にちょっと苛ついて、やっぱりしたじきで髪をさらに逆立ててやった。
それから、一週間後。
ざわざわ。
今日は校舎が一段と喧しい。
子供、社会人、この学舎に似つかない人たちが廊下の半数以上を占めている。
「い、った...いっ!」
四方にぶつかりながら、人混みに流される。
膝に何かが当たり、カクリと崩れ落ちそうになったが、なんとかこらえた。
背をまるめた私は必然的に背が小さくなって、人混みに埋まってしまう。
空気が吸えない、苦しい!
「っは、」
ああもうだめだ、意識が、と思った瞬間、
横からグイッと強く腕をひかれた。
ドン、と誰かの胸板にぶつかる。
「大丈夫か」
「、にお、」
人混みから外れて、空気が肺に入ってくる。
ぜえぜえとあらい呼吸の合間に、仁王の名前を呼ぼうとするが、仁王がそれを手で制した。
「落ちついてからでいい」
「はぁ、はぁ...仁王、なんで、」
「いつもよりちっこいおまえさんが見えたんでな。それより危ないから俺と手をつなぎんしゃい」
「え、」
「嫌なんか?」
「いや、嫌じゃないけど、」
私の返事を待たず、仁王は手をぎゅ、と掴んだ。
手をつなぐなんて、どういうつもりだろう。
いくら危ないとはいえ、普通男女がそんなこと軽くするのかな。
ぐんぐんと歩を進める仁王の顔を、窺い知ることができなかった。
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広いグラウンドについて、一息をつく。
相変わらず海原祭はすごい。人の多さはどこにも負けないと思う。
「焼きそば食うか?」
仁王が屋台を指差しながら問う。
たしかに昼を食べてないとうなずくと、仁王は屋台に向かって歩いていった。
ああまたはぐらかされた。
好意をにおわす行動に、はぐらかす態度。本気なのかわからない言動と、見えない真意。
駆け引きなんて私は得意じゃない。
単純だから、好意を貰えば嬉しく、はぐらかされれば悲しいだけなのに。
「えろう遅くなってしまったぜよ」
「仁王」
ガサリと、仁王がビニール袋をかかえながらこちらへ歩いてきた。
そのまま私の隣へ座る。
「ただいま」
「...ん、おかえり」
「新婚みたいやのぉ」
「...」
ニヤニヤしながら仁王がからかってくる。
本当に、この人は。
「腹がへって機嫌悪いんか?」
「仁王は、よくわからないよ」
「...なんじゃ、突然」
「どうして私を混乱させるの?」
ピタリと、仁王が動きを止めた。
少し悲しそうな、よくわからない表情。
「...なんでじゃろうな」
ピヨ、と一言呟いて仁王は歩いていってしまった。
残された焼きそばが冷たくなるまで私は仁王が去った方向を見つめていた。
におうまさはるというやつは