短編 | ナノ


▼ におうまさはるというやつは3

「はぁ〜〜...」

テストを倒して、夏休みを楽しくだらだらと満喫し、そして秋。
今日一日の授業はまったく頭に入ってこなかった。

「だらしないのう」
「仁王...」

久しぶりに会った仁王は、変わっていない。
...ようで、変わっていた。
時おり切なそうな、悲しそうな顔をする。

「仁王?」
「なんじゃ、くん付けやめたんか? 可愛いげがひとつ減ったな」
「はぁ〜〜...」
「いじりがいがないナリ」
「だって夏休み気分が抜けなくてさあ」
「夏休み気分ねえ...」

そういってまた悲しそうな顔をする。
視線はコートを射抜いていた。

「...」

これは聞いた話だけど、仁王は八月に行われた全国大会決勝で負けたらしい。
もともと常勝にプレッシャーを感じているようなそぶりは無かったが(感じていたかどうかは本人にしかわからない)、練習も努力も、見えないところで積み重ねていたのは本人の実力を見ればわかる。
試合に負けてくやしいという気持ちはあるだろう。

なにより、彼も立海の勝利を望んでいた筈だ。
もっとも、勝利が当たり前すぎて、望みもしなかったのかもしれないけれど...

ゴツ。

「あいたっ」
「人の話をききんしゃい」

仁王のチョップは割りと痛かった。

「なにか話してたの?」
「...」
「ごめんごめん」
「...帰りなんか食っていかんか?」
「え?いいけど...」

めずらしい。
仁王から遊びのお誘いとは。

「何食べるの?」
「そうじゃのう...おまえさんは何が食べたい?」
「そーだなー...31とか? まだ暑いし」
「決まりじゃな」


---

「おいしい!」
「涼しいのお」
「仁王暑いの苦手だっけ」
「雅治でいい」

思わずアイスのスプーンスカートにおとした。汚い。

「まーくんでもいいぜよ」
「いや...それはいいや...」
「雅治かまーくんかどっちか選びんしゃい」
「あはは、なにそれ。幸村くんみたい」
「...」
「え?」

急に仁王の機嫌が悪くなった。
くるりとわたしに背をむけてアイスを食べ始める。
ゆらゆら揺れてるしっぽがちょっと可愛い。

「ちょ、ちょっと仁王。なにすねてんの?」
「デート途中に他の男の話をされてすねない男は真田だけナリ」
「っは?」
「デート途中に...」
「わ、わかった。わかったから繰り返さないで」
「プリ」

なに。なにそれ。
これ、デートだったっていうの?
仁王はほんとにわけがわからない。
そして、嫌な気持ちじゃない自分も。

「好きな子ほどいじめたくなるって言うたじゃろ?」

におうまさはるというやつは
(可愛いのかかっこいいのか)


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