綺麗なひと | ナノ


▼ すずらん

しかし、一年間空気でいようと、遠目から見つめていようと決めた相手と隣になってしまうなんて、不思議な話だ。

授業中でも幸村くんは麗しく、視界の端にあの細くごつごつとした指が映る度にわたしはニヤニヤして大変だった。
それを隠すのも大変だし、なにより隣だと見つめられない。やっぱり後ろの席になりたかった。後ろなら授業中ずっと見ていられるのに。


幸村くんと話すようになってからわかったことがある。
幸村くんは相手の目を見て話す。私は幸村くんから目線を逸らして返事を捻り出すので精一杯だ。

幸村くんだけなのだ。
幸村くんが好きだから。幸村くんがかっこいいから。
自分が恥ずかしくて、たまらない。
わたしにもっと幸村くんに釣り合うような容姿があっら、積極的になれたのに。

こんなに接する機会が増えれば、それだけ恋心を気付かれる可能性も増える。
醜い私から好かれているなんて気付いたら、幸村くんも気持ち悪いと思うに決まっている。
そう考えたら、心がスッと冷えていくようだった。

涙が出そうになるのを、必死にこらえる。
こんな思いをするなら、名前も知られていないようなクラスの女子Aのままがよかった。密かに、想っていたかった。

「...さん、苗字さん」
「はっ、はい!?」

物思いに耽っていたら、幸村くんに肩を叩かれた。
ああ幸村くんに触られてしまった。すみません、と心の中で謎の謝罪をしながら返事を返す。

「プリント、まわしてくれるかな」
「う、うん。わかった」

横から回すなんて珍しい。
束になったプリントから一枚を抜き取って、すぐさま左へまわす。

「どうしたの?体調悪い?」
「うっ、ううん、別にそういうんじゃないから、気にしないで」
「そう?ならいいけど...」

ああ、この優しさは見てるだけじゃわからない。
胸に暖かいなにかが溢れて、さっきとは違う涙がこぼれそうになった。




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