綺麗なひと | ナノ


▼ アネモネ

ざわざわとクラスがざわめく。
今日の席は適当で、明日からはくじ引きで席を決めるらしい。
私は窓際に腰をおろして、頬杖をついた。

「静かに! 今から教科書を配る。手伝ってくれるやつは前に出てくれ」

しん、とクラスが静まる。
ちょこちょこと立つ者も出たが、依然人数は足りないようだ。

仕方なく立つ。ただ教科書を配るだけなのだ。
別に苦でも何でも無い。

ガタンと椅子が二脚分の音を立てた。

「あ、」

幸村くんだ。
幸村くんももう一つの音を聞いてこちらを振り向く。

「、」

にこりと。
幸村くんは綺麗に微笑んだ。

恥ずかしくて顔を伏せてしまった。
ああだめだ。もっと欲しくなってしまう。
幸村くんは、ずるい。

「今日はこれで終わりだ。明日から授業が始まるから、遅刻はするなよ!」

教科書を配り終わって、担任が号令をかけた。
途端にクラスにざわつきが戻り、各々帰宅の準備を始める。

「クラスのLINEをつくろう」
「じゃあ私がつくるね」

そんな会話が後ろで聞こえたかと思うと、
目がぱちりと開いた可愛い女の子に話しかけられた。

「今、クラスのLINEをつくったから、入ってくれる?」
「うん、わかった」

LINEのIDを交換し、クラスのLINEに入る。
教室のあちこちで招待が行われていて、続々と新しい名前がグループに登録されていく。

ここはみんなを友達登録しておくのが礼儀というものだろう。
そのうち何名か友達欄に登録され、一息ついたところに、「幸村精市」の文字が飛び込んできた。

反射的にそれを押すと、「友達追加」の文字が現れる。

どうしよう。
ここで登録したら、あちらの友達追加欄に私の名前が現れてしまう。

たっぷり30秒考えて、追加を押した。
スマホの画面を消して、目を閉じる。
幸村くんが、こんなにも近くに感じる日がくるなんて、思わなかった。

ゆるむ頬を必死に押さえながら、私は帰路についた。


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