綺麗なひと | ナノ


▼ すいせん

今日は一限目から英語だ。
なんとなく気が重く感じつつ、自分のクラスへ歩を進める。
教室の扉を開くと、既にクラスの大半が集まっていた。

席について、隣をみやる。
幸村くんはまだ着いていないようで、そこにはただ茶色の机がぽつんとあるだけだった。

なんだか寂しさを感じて、ため息を吐く。
するとうしろから声がかかった。

「やあ、苗字さん。元気ないみたいだね」
「ゆっ...!!」

心臓が止まるかと思った。
驚きと緊張で言葉が出ない中、話しかけた本人である幸村くんは「おはよう」と爽やかに笑った。

幸村くんは朝から美しい。
朝練の後なのか、汗で髪をしっとりと濡らしている。

「よかった。間に合わなかったらどうしようと思ったよ」
「あ、朝練...?」
「そう。新学年にも慣れたし、そろそろやらなきゃなって思ってね」

朝から良い汗がかけたよ、と幸村くんが笑った。
汗をかいているはずなのにふわりと花の匂いが香る。

「そう、なんだ」

お疲れ様も言えない自分に、腹が立った。


---

鐘がなり、授業の終わりを知らせる。
最後に、と教師は課題を押し付けてきた。

「p17の...」

ルーズリーフの端を破り慌ててメモをとる。
汚い字だけれど、自分が読めれば問題ないだろう。
ガリ、と最後の文字を書き終わり、教室を見渡す。
クラスメイト達は次の授業の教室へと移動し始めていた。

「名前、一緒にいかない?」

教室の一番うしろから、みゆきの声が響く。
私は勢いよく頷いて、メモはそのまま教科書にはさみ席を立った。

---

その日の夜、課題をするため机に向かうと、メモが無くなっていた。
教科書にはさんだはずの小さな紙は、いくら探しても見つからない。
バサバサと教科書を上下にゆするけれど、出てくる気配は無かった。

「うそ...」

自分の無精を本当に呪う。
仕方なくスマホを手に取りロックを外す。
LINEを起動して、みゆきのトーク画面を開いた。

メモ無くしちゃった!課題どこだっけ?、と入力する。
送信を押そうとして、前の画面に戻ってしまった。

「あっ、...」

友達一覧画面からみゆきを探す。
山田、山田...と呟きながら下にスライドしていくと、幸村精市、の字が現れた。

「...」

幸村くんの、LINE。
いつも、これを見るたび、幸村くんとLINEしてみたいと思っていた。

勿論幸村くんに、「ごめん課題教えて」などという馴れ馴れしいLINEなどできるはずがない。
「課題教えてくれないかな」も何で俺なんだ、といぶかしむに決まっている。

だけど...


さきほどみゆきに送るつもりだった文面をコピーして、幸村くんのトークに貼り付ける。
震える手でそのまま送信を押した。




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