▼ 04
正直、嫌な予感はしていた。
「へえ。転入生か」
「明日からの転入手続きをしにきたのだろう」
「にしてもこの時期に?手続きも随分急なんだね」
絡まれてる。
青髪と糸目に絡まれてる。
幸村精市と、柳蓮二...
実際会ってみるとイケメンすぎた。
イケメンというより美形かな...いや幸村さんに至っては彫刻みたいなんだけどマルス像かよ
正直心臓もたないから早くここから去りたい。
仁王はもうコートに戻っているし。
「ああ、すまない。俺は幸村精市。君の前にある部室はテニス部のものでね。見知らぬ子がいたから気になって」
「あ、こ、こちらこそすみません...校舎に行きたかっただけなんです」
「仁王に案内されてきたのか?」
「そ...あ、えっとに、におう...とは...」
「ああ。あの銀髪の猫背だ」
「あ、そうですそうです」
「そうか。うちの部のものが迷惑をかけてごめんね」
「あっ大丈夫です...」
「職員室の場所もわからないだろ。案内させるよ」
「...」
たしかに知らない...どうするべきか。
イケメンにはあんまり関わりたくないんだけど...
迷うのも嫌だし、ここは甘えておくかな...
「お、おねがいします」
「うん、了解。 おーい、柳生!ちょっとこっちにきてくれないか」
「はい。何か用ですか?」
柳生!柳生さん!!
眼鏡逆光だ!!
姿勢が良すぎてスラッとした長身が一層に映えている。
きっちり分けられた前髪と惜しみ無く撫で付けられた後髪が洗練された雰囲気を醸し出していてともかくかっこいい。
これがテニスで乱れたらたまらんだろうな。ギャップといいますか。
「ちょっと頼まれてくれるかい」
「はい。構いませんよ」
「そこの...えーと?」
「...」
な、名乗りたくねえ...!
「すまないが、名前を教えてくれないか?」
「うっ...」
柳さんの目が爛々と輝いている。データとりたくてたまんないんだろうな。
まあでもこの大きな学校で私一人の名前なんかが特別印象に残ることもないだろう。
「苗字...名前です」
「苗字か。...良い名前だな」
「あ、ありがとうございます...」
ちょっと嬉しかったのは内緒だ。
「柳生、苗字さんを職員室まで案内してあげてほしいんだ。転入生らしくてね」
「わかりました」
柳生は一つ返事で了承すると、改めてこちらに向き直った。
「こんにちは」
「こ、こんにちは」
「柳生比呂士と申します。宜しくお願いします」
「あ、こちらこそ宜しくお願いします...」
「では、行きましょうか」
「っ...!」
スマートに手をとる柳生。
紳士なのにいいのか、いや紳士だからこそのエスコートなのか。
汗ばんだ手にすこしドキドキしながら私は柳生と職員室へ向かった。
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