▼ 16
転校して、幾日が過ぎた。
教室の窓際に席を確保した私は、よくベランダに出て校庭を眺める。
ジワジワと蒸し暑さに拍車がかかり、放課後になっても日はなかなか傾かず。
からっぽの家に帰っても何もすることはないので、今日もベランダに出て、放課後の練習に勤しむテニス部を見ていた。
あれからテニス部とは大きい関わりはなく、真田や柳生と同じクラスの人程度に話すくらいだ。
パコン、と小気味の好い音がグラウンドに響く。
ひじをついてぼーっと見ていたら仁王くんと目があった。
ばちん、と完璧なウィンク。
思わず顔が赤くなるのがわかった。
顔を隠しあわてて教室に帰る。
ピシャリと戸を閉め、ため息をついて鞄を背負った。
テニス部を遠くから眺めたい。
それは自分の素直な願望だし、こうしてベランダから眺めているのは楽しい。
けれど時たまこうやって構ってもらえるとーーそれも私にだけとわかる局面でーーやっぱり嬉しくて。
もっと、と思ってしまう自分がいた。
未だに幸村くんの優しいぬくもりが忘れられず、手を擦り合わせた。
---
門の前に立つ。
ここを通ったら明日までに立海には来ないわけで、テニス部とも会えない、わけで。
ぶんぶんと首をふる。
なにをいってるんだ。傍観を望んだのは自分のほうじゃないか。下手に関わって女子の反感を買うのも怖いし、会ったところでイケメンすぎて話せないのがオチだ。
俯いて、門をくぐる。
すると後ろから声がかかった。
「あれ、苗字さん」
あわててからだごと振り返る。
透き通った声の主は、幸村くんだった。
「ゆ、幸村くん」
「今帰りかい?」
「う、うん。そうだよ」
そっか、と幸村くんは笑って、ジャージのポケットから小さな紙を取り出してひらひらと泳がせた。
「今から買い出しに行くんだけど、どう?暇なら一緒に行かない?」
「...!」
目に涙がにじむ。
うん、と首を縦にふって、幸村くんの隣にならんだ。
ああ、とっても嬉しい。
「フフ、やっぱりこうしてお話するほうが楽しいだろう?苗字さんさっきベランダにいた時よりいい顔してるよ」
幸村くんがぽんぽんと私の頭を撫でる。
目からぽろりと涙が落ちて、頬を伝う。
胸に暖かい気持ちがぶわりと広がった。
prev / next