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「失礼しまー......」
保健室にはなんと丸井ブン太がいた。
一人で傷の手当てをしているあたり、先生はいないらしい。
「ん、お前あん時の、」
「アッ...忘れ物しちゃった...ウッカリ...」
そう言って保健室のドアをしめて廊下を全力でダッシュ。
なんでいく先々テニス部がいるの!!
しかも夢小説みたいなシチュエーション付きで!!
ぜえはあいいながらとにかく走っていたら真田に会った。
「こら!!廊下を走るとはたるんどる!」
「ヒッ」
「キエエエエ!!!」
奇声を発しながら追いかけてくる真田。実に素晴らしい競歩。速い。怖い。
「ど、どうしよう...」
真田がこられない場所。
うるさい人がこられない場所。
「...図書室!!!」
---
「苗字が図書室に逃げ込む確率100%」
「...。」
確率たかっ...。
今現在わたしは柳にうしろから腕を捕まれている。
図書室にいる女子はテニス部にはさして興味がないのか、こちらをちらりと見やったあと、自分の読書へと戻っていった。
「うっうっ...」
「苗字。お前はなぜ俺たちテニス部から逃げる?」
「うっうっ...」
イケメンだからだよ!!!!!
イケメンは遠くから見るものだってばっちゃん言ってた。
イケメンなんて恥ずかしくて話せないし顔見れないし遠くから見てにやにやするのがいいんだろうがバカタレっ...!!!
「ばかたれ...」
「ほう」
「ヒンッ」
開眼いただきました。
「もうすぐ精市がくる。観念するんだな」
「いやだ...」
と、そこで柳の拘束がゆるまる。
チャンスだ!と思いそのまま柳をふりきって走る。
ドンッ
と、そこで誰かの胸板にぶつかった。
「図書室で走るなんて困った子だね」
さようなら。
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「苗字さん」
「はい…」
「こっちみて」
「う…」
「俺と目。あわせて?」
ぐいっと顎をつかまれ、顔を上げさせられる。
おそるおそる幸村さんの方を向くとそれはそれは笑顔全開な幸村さんがいた。
「どうして、一緒に食べてくれなかったの」
「体調…」
「悪かったの?」
「う…はい」
「それならなおさらだよ。体調悪い時に一人でいたら危ないんだ。悪かったなら、ついていてあげたのに」
「ごめんなさい…」
ああ、私はなんて悪いことをしてしまったんだろう。
幸村さんたちは、私が来なかったことを、心底心配していたんだ。
「教室まで迎えにいこうかと思ったけど、逆に嫌われてしまうんじゃないかって思ってね。結局二日目いったけど…俺たちを避けているようだし」
「ち、ちが…」
「違うくないよね?」
「う…ごめんなさい。悪意はないんです」
「…フフ。もういいよ。こちらこそ悪かった」
「いやっ…幸村さんたちは、別に、なんにも、」
「いいんだ。じゃあ俺たちは戻る。蓮二、いくよ」
「ああ」
「待っ…」
慌てて手をのばす。
キュッと上履きが音をならし、そのまま体は傾いて水色のベストに体当たりをした。
どうして、どうしてこんな時にかぎって廊下が綺麗に磨かれているんだろう。
それも、今いる図書室前の廊下だけ。
泣きそうになりながら、水色ベストをつかんで体勢を安定させる。
もう演技と思われてもおかしくないくらい転んでいる気がする。
「えっ」
さすがに驚いた幸村さんだけど、すぐに体勢を安定させていた。
「待ってください」
「う、うん。落ち着いて、苗字さん」
「あの、あの、私、あなたたちが、その、違、つまり、」
「うん」
「遠くから見ていたいんです!!!!!!」
柳さんが持っていたノートを落とした。
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