▼ 08
「うわあ...」
グラウンドのすみは、大量の黄色で埋め尽くされていた。
練習が終わったテニス部の皆さんが砂漠から帰還した賢者の如く水を欲して喚いている。
「おい!」
後ろからジャッカルの声が聞こえて、ふりかえる。
ジャッカルは眉根を下げてため息を吐きながら、「だから言ったのによ」と笑った。
...イケメンだ!
「この時間は皆水を浴びるから混むんだよ」
「すみませんよく聞こえてなくて...」
「はは、まあこのあとミーティングがあるし、すぐ使えるようになると思うぜ」
「ありがとうございます...」
ジャッカル優しい。ジャッカル優しい。
まだ目腫れてると思うのに、一切触れないところ、すごく素敵です。
「おーい、ジャッカル!」
ひょっこりと、黄色の集団から目立つ髪色があらわれた。
この声、あの赤毛。見覚えありすぎて、困る。
遠くからでもわかる整った顔立ち。女の子のようにくりっとした目。
ま、
ま、
丸井ブン太だーーー!!!
丸井ブン太はそのまま汗をキラキラ散らしながらこちらへ走ってくる。
反射的にずり、と私は後ずさって、逃げの体制に入った。
「何してんだよぃ、レギュラーミーティング始まんぞ...って誰だそいつ?」
「ああ、何か水道使いたいらしくて」
「...!」
ブン太がこちらをみて驚愕といった表情をする。
ジャッカルと私を交互に見て、
叫んだ。
「ウワーーー!!!ジャッカルが女泣かせたぁぁあーーー!!!!!」
隣から、「ぇ?」というか細い声が聞こえて、平穏が崩れたことを悟る。
私は再び涙を流した。
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