an onlooker | ナノ


▼ 06

よかった。職員室に無事につけた。

...とはいったものの。

私は気がついたら立海のグラウンドにいただけで、自分が転入生かどうかもわからない。
なりゆきで職員室まできたは良いけれど、もしかしたら転入生じゃなかったらどうするんだ。っていうかどのクラスだ。家はどこだ。

とりあえず職員室に入ってみよう。
制服も本当に真新しいし、それに転入生説を信じるしか今は道がない。

「失礼しまーす...」

ノックをしてから、そろりと扉を開ける。
教師全員の視線をモロに浴びてとっさに扉をしめようとするが、笑顔の男教師に迎えられてそれは叶わなかった。

「おお、苗字名前さんだね?よくここまでこれたなあ」
「は、はあ...テニス部のみなさんに案内していただけたのでなんとか...」
「うんうん、ともかく無事に会えて良かったよ。書類は持ってきたかな?」
「は、え...書類!?」
「うん、書類」

書類?書類!?
なんの!?
っていうかやっぱりわたしは転入生なの!?

「カバンの中探すなら、この机つかっていいよ」

そういって、無駄に広い職員室の中のテーブルに案内される。
たしかに、カバンをわたしはもっていた。
指定のカバンなのか、質素で普通のスクールバッグだ。

入れた記憶も、むしろこのカバンを背負った記憶もないけれど、とりあえずカバンの中身をテーブルの上に散らしてみる。
なんだか今さらながらわけのわからない恐怖が押し寄せて、涙がこぼれそうになった。
知らない学校に、知らない制服、知らないカバンに、知らない自分の家の存在。
家族も友達も、ここに存在しているのだろうか?

「よかった。持ってきているね」

ひょいと散らしたプリントの一つを取って、目の前の男教師は安堵の息をもらす。
どうやら私の個人情報がしたためられているようで、字は間違いなく私のものだった。

「うん、不備はないね。明日から君は晴れて立海大附属中学校の三年生だ。クラスはAね。じゃあ、今日はこれで」
「ま、まってください」

慌てて制止する。
個人情報が記されているなら、住所も、家族の有無ものっているはずだ。

「うん?」
「もう一度確認していいですか?」

手渡されたプリントに目を通すと、家の住所は変わっていた。立海にほどよく近い。
家族はいなかった。
そして保証人は見知らぬ女性の名前だった。

「大変だよなあ、苗字も。できるかぎりサポートしてやるからな」
「...」
「でも、保証人の方、製薬会社の社長さんなんだろ?奨学金も借りる必要ないし、生活金もおくってくれるんだってなあ」
「え...」
「まあ中学生は働けないし仕方がないか。高校になったらすこしは自分で働くようにな」
「...」

そんなうまい話が、まかり通っているとは。
その保証人は名前も知らない人だが、ともかく金銭面は安心してよいようだ。

「...」

この世界にお母さんやお父さんはいない。
だけれど、きっと元の世界で元気にしているはず。

教師とわかれて、来た道をトボトボと力無く歩く。
涙がこぼれたけれど、ぬぐう気力はなかった。




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