生まれて17年。俺は恋というものをしたことがない。誰かと付き合った事もないし、もちろん肌を重ねたこともない。
誰かと…言ったのは俺の姉…不本意ながら双子の姉である凛が腐女子と言うやつで「景吾は俺様生徒会長受けにになるべく生まれた!」というので仕方無く女ととは言わないでおく。
容姿については自覚済み。双子の姉である凛とは二卵生双生児でありながら似ていて…いやそっくりだが、凛はキレイだと思うから。
しかし、この容姿で女と付き合った事がないのでホモなんじゃないか…と噂されているらしい。だからといって好きでもない奴と付き合えるほど俺は安い男のつもりはないので付き合う気はないが。別にホモが駄目と言いたい訳ではない…悪友の宍戸と宍戸の大型犬、鳳。それに女のような容姿でありながら中身は男前な向日と時期部長の日吉は男同士で付き合っているからだ。
おかげで凛の萌 とやらを聞かされる事になるが彼女は楽しんでいるようなので悪いとは思わない。彼らは見る限り幸せそうだし、彼らの幸せそうな顔を見る
のも心地よい。
だからと言って凛のように萌える訳でもないが。


 そんなことを考えていた昼過ぎの生徒会室の話だ。

彼がやってきた。黒いもっさりした髪の毛と伊達眼鏡の関西弁またの名を氷帝の天才…そう、忍足侑士。彼の事は嫌いじゃない。彼が隣にいるのは落ち着く…むしろ心地よいと言っても良い。


「よぉ、忍足。わざわざ生徒会室に何のようだ?」


きっと気付いているのだろう。仕事が増えているこの時期、睡眠時間が減っていることを。だから、きっと仕事を手伝おうとする。彼は優しいから。



「仕事、手伝おうと思てな。手伝う事ある?」


ほらな?こいつは誰にでも優しいから。


「お前にやってもらう程でもねぇよ。それでも手伝いたいならコーヒー淹れろ。」


こんな可愛くない事言ってもやるんだろう?


「ん。ちょおっと待っとき。淹れたるから。」

「砂糖とミルク忘れんなよ?」


彼は優しいから誰にでもこうだ。それは相手が俺であろうと。


「ん。出来たで、どうや?」


コーヒーのほろ苦い香りが鼻腔をくすぐる。


「なかなかじゃねぇの。」

「ありがとさん。」


この空気。雰囲気。流れる時間は好きだ。


ガチャ


不意に扉の開く音が聞こえる。


「失礼します。…やほー!景吾!…忍足も来てたんだ?手伝いありがとねー」


こいつは凛、上で言ったとおり双子の姉だ。長いストレートの蜂蜜色の髪をポニーテールにした前髪ぱっつん。吸い込まれそうな程の蒼い瞳、右ではなく左目の下にあるチャームポイントである泣きボクロ。



「お、凛ちゃんやないか。おおきに。何か飲むか?」


そう、もちろん相手が俺でなかろうと優しい。


「んー。hot chocolate!!」

「あー。ココア
やな?」

「そう、それ!」


でも、優しさを独占したい、と願ってしまう。


「凛ちゃん、出来たで?どうや?」

「流石だねー。忍足。美味しいよ。」


片割れである姉に、名前で呼ばれる凛に嫉妬する。


「ん?景吾、大丈夫か?考え事?眉間に皺よっとるで?」

「本当だ。大丈夫?」


凛といる時だけ混同しないように名前を呼ばせているだけなのに、少し心配してくれただけなのに自然と緩む頬。


「あんまり、眉間に皺寄せてると別嬪さんが台無しやで?」


と言いながら眉と眉の間を触れてくる、そこに持つ熱。



俺はこんな事は知らないけれど、この感情は…




たぶん、恋

(何でもねぇよ。)
(ホンマに?)
(…!忍跡!!!)
(おしあとって何や?)
(忍足、気にしなくて良い。あと
、凛落ち着け。)
(景吾、また眉間に皺よっとるで…)