白染さんから



なんだろうか。
なんだか元気がないように見える。
そんな背中をした男が廊下の先を歩いていた。

「サーカズキッ」

いつものように首に腕を回して明るい声をかけてから顔を覗きこんで、あっ、と声が出た。
なんて酷い顔しているんだコイツ。
目の下に色濃い隈ができ、眉間の皺なんていつもの倍以上深くなり、その顔を隠すためか普段より下げられた帽子のつばの影にいる瞳の暗さといったらない。

「なにかあったの。」
「・・・なにもない・・・なんでもないんじゃ・・・」

吐き出された声の力の無さよ。
ちょっとした騒音がしたら掻き消えてしまいそうなその声にクザンは一瞬思考し、そして回したままの腕を使ってサカズキを自分の執務室へと誘導した。
室内に入り会釈する部下達を追い出し二人きりの空間を作ると大人しい彼をソファに座らせて、己の定位置である隣に腰を降ろす。
カチカチと時計の音が響く室内でクザンは何も言わなかった。
決して短くない付き合いをしている相手のことを全て知っているとは言わないが、それでも他の人間よりは理解していると自信がある彼はよく知っていた。
無理やり話させていい場合と、自発的に話させた方がいい場合。
いまは明らかに後者なのだ。だから待つしかない。ありがたいことに自分は気が長い性質であるからそれが苦になることはない。

「・・・のう、クザン。」
「なあに?」

そうしてようやく出た言葉に日常と変わらない声で返事をすればサカズキは少しだけ顔を上げて彼を見た。相変わらず酷い顔をしていたが、その目はしっかりとクザンを見つめていた。
ああ、なんて可愛い人なのだろう。と抑えきれない恋人の欲目を何とか飲み込みながらクザンはサカズキの手を握った。
大丈夫だと。焦らなくていいのだと。言葉にしなくても伝わるように願いながら。

「・・・お前は、わしでいいのか・・・」
「あらら。急に変なこと言うじゃない。」
「・・わしは・・・お前でなきゃ、いやじゃ・・・っ」

握った手が強い力で握り返されクザンは内心痛みを訴えそうになるが、一度だけゆっくりと瞬きをしてそれをごまかす。

「おれがサカズキは嫌だなんて言ったことある?」
「ない。じゃが・・・」

不安なのだ、と紡いだ口に引き寄せられるようにキスをした。触れるだけのハズがよくよく考えればこうしてキスをするのは一週間ぶりだったことに気付いたクザンは角度を変え、手法を変えて愛しい相手の唇を味わう。息苦しいのを好かないサカズキのため気を遣いながらするキスはとても楽しい。付き合い始めて長いのにいつまでも初心な反応をしてくれる相手に彼は心底惚れていた。

「サカズキ。俺もね、お前じゃなきゃ嫌だよ。」
「クザン・・・」
「嫌っていうか駄目っていうか・・・おれの全てはサカズキのためにあるんじゃないかって思うんだよねー」
「・・・ばかもの・・・」

笑ってくれて嬉しいと思う気持ちは素直に表現しなくてはと思ったクザンは再び顔を近づけたがそれはサカズキの手によって阻止された。
何で?と首を傾げれば右に左に視線を泳がせていたサカズキの顔が目の前にあった。
なるほどと理解したクザンは薄く笑みを浮かべながらゆるりと圧し掛かってくる体重を受け止めるため、片手を大きく広げた。
もちろんソファに倒れ込んでも二人の握った手が離れることはなかった。

「それで、一体なにがあったのよ。」
「・・・海兵達が噂しとってのう・・・お前がCP9の長官とデキてるっちゅう話じゃ。」
「・・・ないわソレ。ないない。」
「でもお前、若いの好きじゃろう?」
「それは否定できないけど、いま!おれが!好きなのは!サカズキなの!!」
「・・・恥ずかしいやつじゃあ。」
「そこは『嬉しい!わしも好き!』って続くとこじゃない?」
「・・・それこそないわ・・・」
「えぇー、可愛いと思うけどなー」

まあでも。とクザンは心の中で続ける。
そんな噂話を気にして睡眠不足になるぐらい自分が愛されていることを再認識出来たのはあの長官のおかげかもしれないと思うと、今度のボーナス査定は少し甘めにしてあげてもいいかもしれない。
そこまで考えたクザンは現在自分の株が上がったことを知らないだろう人間をあっさり思考から忘れ去ると、腕の中にいる恋人をこれからどうやってベタベタに甘えさせてやろうかと考えることにした。


白染さんから相互感謝として頂きました!
リクエストは「やたらイチャイチャするクザサカ」でした。
ハァハァ・・・萌える!長官とデキてる・・・!
ちょっと前までサカズキのモデルが「こんなん山方の女とデキちょるんか・・・」って言ったからリアルに妄想出来てよかったです。
こんなクザサカいいよね。大好きだ愛してる。
本当にありがとうございますっ!


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(10.07.04)




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