OPEN HEART / クザサカ



クザンとサカズキの性格が正反対であることは二人を知る者ならば全員が知っていた。
仕事は真面目で徹底した正義を貫く赤犬と、サボリ癖がありだらけきった正義がモットーの青キジ。
しかしだからだろうか。二人の関係はかなり長続きしている。
ケンカはしょっちゅうあるがそれでも二人の仲がこじれたことは一度もない。
それは二人の微妙な駆け引きのおかげであるとも言えよう。


「ねぇ。サカズキ」

「何じゃ」

「サカズキと食事に行きたい」

「っ・・・!」


クザンが自分の意見を言うとサカズキは一瞬書類にサインする手が止まった。
動揺していると悟ったクザンは人知れず笑って、話を続ける。


「こないだ美味しいお店見つけてさ・・・」

「断る」

「えぇ!何でよ!」

「お前とは行かんわい」


サカズキにはトラウマが一つあった。
以前食事に行こうと誘われて、サカズキのためにだの何だの甘い言葉に気を許して着いていった後、酔い潰されてそれは散々な目に遭ったのだ。
それ以来、サカズキはクザンとの食事に消極的になった。
実際は胸中では我ながら何を怯えているのだろうかと思い、完全に消極的なわけではないのだが。


「せっかくサカズキのために調べたのに・・・」

「その口説は聞きあきたわ。わしを食事に誘いたければもっと精進せい」


そう言ってサカズキは書類のサインをまた再開させる。
どうやらもうサカズキのためという口説き文句は一切通用しなくなったらしい。
しかしあえてクザンはその手段を貫いてみることにした。


「ねぇ・・・オレだってサカズキのために本当に一生懸め」

「その頑張りを仕事に活かせ。この給金泥棒が」

「その給金はほとんどサカズキのために使ってるん」

「迷惑じゃ。違うことに使え」


それでもサカズキは全く釣れない・・・ように見えた。
しかし恋人の些細な異変に気付かぬクザンではない。
先ほどからしきりに手の甲を掻いたり、視線が泳いだりしている。
このサカズキという男は仕事では演技をするのもごまかすのも得意だが、一転自分の前では感情がすぐに態度に出て、ある意味女よりも分かりやすい。
しかし何を言っても否しか言わないため、そこだけは自分の話術の全てを使う。


「迷惑・・・か」

「・・・あ?」


そうサカズキの言ったことをオウム返しをすればサカズキはクザンの顔を見た。
そこで心底悲しそうな顔をすれば、サカズキは少し焦ったような顔をする。
それを見計らってからクザンは顔に見合った声色でポツリと呟いた。


「・・・そんなにオレのこと嫌い?」

「べっ、別にんなことは言うちょらんじゃろうがい・・・っ!」


サカズキはそう言いながらもぷいっとそっぽを向いた。
顔は少し赤く、何か言いたげに口が半開きになっている。
クザンは溜息を吐いてもう少しだと詰んでいく。


「素直に言いなさいよ」

「言わん・・・・」


サカズキの言わないと言うことは言えないに匹敵するのはもう知っている。
おそらく言うのが恥ずかしい。照れくさい。
そんな理由だろう。
しかしそれでは常に言っている自分が何やら一方的のように感じてしまう。


「じゃないと伝わらないよ?オレは心網使えないんだからね?」

「わ・・・分かっとるわい・・・じゃけェ今言わんでもええじゃろうがっ・・・!」

「やだ。だって聞き捨てならないよ。オレの愛を迷惑だなんて」


そう言えばサカズキはうつむいてしまった。
そろそろとどめを刺せば言ってくれるだろうと予測してクザンは最後の究極の言葉を口に出してみることにした。


「じゃあサカズキがオレのこと嫌いなら・・・オレも嫌いになっちゃうかもね」

「っ・・・!」


うつむいた顔を勢いよく上げてサカズキはクザンの顔をもう一度見た。
その顔はそれだけは嫌だと言わんばかりの顔でクザンは笑いがこみあげて来るのを必死で堪える。
サカズキはしばらく何か言いたげに口をぱくぱくさせたり、うつむいたりしていたが、ようやく覚悟が出来たのか椅子から立ち上がりクザンの目の前まで歩み寄ってきた。
そしてためらいがちに腕を上げて、一瞬止める。


「ん?何?」

「くっ・・・・・この・・・ばかたれが・・・っ!」


最後の虚勢を張って、サカズキは勢いよくクザンに抱きついた。
一度抱きつけば恥ずかしさは少しかき消えたらしい。
あれほどためらっていた腕は簡単にクザンの背中に回せた。
クザンの肩に自分の顎を置いて、ぎゅっと服を握ればクザンは嬉しそうに笑う。


「何笑っちょるんじゃァ・・・」

「いやぁ・・・愛されてるなってねぇ」

「っ!調子に乗るなァ!」


しかしクザンの言葉でせっかく静まった羞恥心がまた蘇ってきたらしい。
サカズキはクザンの腕の中から抜けだそうと暴れた。
しかしせっかくサカズキに抱きしめてもらうという展開に至ったのだ。
もう少しこのままでいたいと思っているクザンが離すわけがない。


「あ、あとチューもしてよ」

「お前は何様じゃァっ!誰に命令しとるんじゃっ!」


完全に調子に乗っているクザンの言葉を聞いて、サカズキは肩から顔を離してクザンの顔を見て怒鳴った。
するとクザンはまた得意の笑みを浮かべて当たり前だろうと言わんばかりの顔と声色で自称既成事実を言ってのけた。


「あらら、クザン様の言うことは聞かなくちゃあいけないんだよ?」



三時間クォリティサーセン。
ツンデレサカズキ書きたくて。今度はドSクザン書きたい。

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(10.07.17)




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