全自動冷却機能付マッサージ器 / クザサカ



サカズキは最近肩がこって仕方がなかった。
元々こりやすい体質だったのかもしれないが、最近の激務でさらに悪化したらしい。
我慢すれば何でもないがやはり痛いモノは痛い。


「どうにかならんか」

「それをわいに言われてもなぁ・・・」


悩んだ末にサカズキが相談した相手は戦桃丸だった。
別段他意はなく、誰かに相談しようと思った瞬間目の前に彼がいたから聞いただけだ。
戦桃丸は少し悩んでから、一つ提案をしてくれた。


「あぁ・・・そういやパンクの野郎が良いもん作ってたなぁ・・・医療部隊にやるヤツで治療器具みてぇだったが・・・今持ってるから使ってみるか?」

「ほぉ・・・医療部隊にか」


海軍の医療部隊は世界でも屈指の医療技術を誇る。
それは当たり前と言えばそうだろうが、その医療技術を支えるのも科学部の役目でもある。
医者から要望を聞き、それを叶えるのもベガパンクの仕事の一部だ。
もっとも本人はやる気がないように見えるが。
それでもそんな医療部隊に使われる器具を貸してもらえるのだから自然と期待してしまう。


「これだ」


戦桃丸が懐から出したのは細長いマイクのような形をしたモノだった。
自分が想像していたモノと違ったため、サカズキは物珍しそうにそれを見た。


「電動でスイッチを押すとここが振動して凝りがほぐれるらしい」

「なるほど・・・画期的じゃのォ」

「そうかぁ?わいから言わせりゃあ、人にやってもらった方がいいと思うけどなぁ」

「いや・・・やってもらおうにもやってくれるヤツがおらんけェ。使ってみるわい」

「おぅ。効能あったら教えてくれよな。今後の参考になるかもしれねぇ」


仕組みは分からないがそんな画期的な道具にいささか興味を引かれたサカズキはそれを使ってみることにした。



◆◇◆




「あっ・・・」

「・・・・・・・・・」

「あ・・・い・・・っ」


部下達はひどく困っていた。
今は休憩時間なので、仕事はしなくともよい。
しかし流石はサカズキの部下とも言うべきか、仕事をしている海兵も少なくはない。
それでも休憩時間と銘打っているためサカズキは例の電動器具を使っていた。
確かに効果は抜群だ。流石だと言わざるを得ない。
しかしサカズキは楽でも部下達はそうでもないようだ。


「あぁ・・・気持ちええもんじゃなァ・・・」

「そっ・・・それはよかったですね・・・」

「いっ・・・ただちぃとばかし強いのう・・・当たり所が悪いと変な風になりそうじゃァ」

「そ・・・・そうですか・・・・」


部下が訊けばこの器具の感想を述べてくれるが言い回しが多少卑猥だ。
それに加えて時折口から漏れる感嘆の声と、微妙な音量で聞こえる振動音がまだ若い海兵達にとっては刺激が強い。
勿論本人にそんな意図はないのだからより悪質だ。
海兵は少し断りを入れてから、こそこそと集まった。


「おい。誰だよ赤犬さんにあんな兵器渡したやつ・・・」

「戦桃丸だよ・・・あの科学部隊長の」

「あぁ・・・やりそうだなぁ・・・何せ結構お人好しだからなぁ・・・」


海兵達がそう話し合っている間にもサカズキはお構いなしに続けている。
ちらりと見ればそれを左手で持ちながら右手で書類を見ていて、かなり気に入ったことが伺えた。
この上司は自分のしていることがどれだけ罪深いかを理解出来ていない。
それゆえに自分たちは日々苦行のような我慢をしいられているのだ。


頼むから誰かこの状況を変えてくれ。


そう海兵達の胸中に共通の思いが宿った瞬間だった。
ドアが開き、救世主とは思えない男が現れた。


「サカズキ元気ー?」

「・・・・・・お前か」

「あらら。ひどい言い方だこと」


現れたのは予想通りクザンだった。
いつものようにへらへらと笑っていて、サカズキの機嫌が悪くなる。
海兵達はこの際クザンでもよかった。あの兵器を止めてくれるのならば、誰だっていい。
そして案の定クザンはサカズキがその器具を使っているのを見て、突然顔色が変わった。


「ちょっとサカズキ!」

「うぉっ!何じゃァっ・・・」


突然叫ばれてサカズキは驚きのあまりビクリと身体を震わせた。
そして何事だろうかとクザンを見る。
どうやらクザンはこの状況を瞬時に理解出来たらしい。


「なっ何やってんの!それどうしたのよ!」

「あ・・・あぁ・・・これか?戦桃丸から貸してもらったんじゃァ」


サカズキはそう少し自慢げに見せる。
その動作が少し子供っぽく、海兵達は後ろでまだ止めなくてもいいかもしれないなどと都合のいいことを考えていた。
しかしクザンはそんな海兵達を睨み付けて、再びサカズキに視線を向ける。


「そんなに肩凝ってるなら人に頼みなさいよ!」

「じゃけェ。やってくれるヤツがおらん」

「ならオレがやってやるよ!もう駄目!こんな器具使っちゃ駄目!」

「あ・・・あぁ・・・」


クザンにそれを取り上げられてサカズキは残念そうな顔をしたが、クザンの言葉に気圧されて返事をしておく。
とにかく取り上げた器具を海兵に渡しておこうと振り返って、クザンは思わず顔をしかめた。


「赤犬さん!何なら俺が揉みましょうか!」

「こう見えて俺おばあちゃんっ子でしたから!全っ然問題ないですよ!」

「青キジさんよりは上手いはずです!」

「なっ・・・お前らっ・・・!」


サカズキのやってくれるヤツがいないという発言に海兵達は沸き立ったらしい。
我こそが肩もみをと次々に名乗り出てきたのだ。
勿論下心あってのことだろうがサカズキはそれに気がつかない。


「ほうか・・・お前らにそんな特技があるとは思いもせんかったわい」

「えっ・・・!」


そう言ってサカズキは感心したように海兵達を見る。
完全に空気が海兵に肩を揉んでもらう流れになってきたためクザンは焦った。
せっかく自分が揉んでやると宣言したのに何故その特権を海兵達に回すのか。
クザンは海兵達を睨み付けたが流石はサカズキの部下だ。全くひるむ様子がない。
しかしサカズキは思いもよらないことを言ってのけた。


「じゃけェのう・・・お前らの手を煩わせんでもここにいいマッサージ器がおるわい。気にせんでええ」

「え?」


サカズキの意外すぎる言葉にクザンはそう素っ頓狂な声を上げた
しかし自分以外のことを言っているわけではないらしい。
現にクザンの肩を叩いているのだ。そのいいマッサージ器とは自分のことなのだろう。


「分かったら仕事せい。ほれ、その書類を持って行くんじゃろうが」

「う・・・は・・・はい・・・」


サカズキにそう言われてしまえばもう反論も出来ない。
海兵達は渋々自分の書類を持って部屋から出て行った。
最後の一人が出て行き、ドアがしまって、サカズキは溜息を吐いた。


「いいの?せっかく言ってもらったのに」

「あぁ。部下に頼るわけにもいかんけェのう」


真面目なサカズキらしい回答だと思った。
しかしその言葉が自分の首を絞めていることにまだ気付いていないらしい。
クザンは口元をつり上げて、サカズキの肩を抱いて引き寄せた。
椅子が少し動いてサカズキの鼻の先にクザンの顔が迫る。


「なっ・・・何じゃい」

「いや?何かのろけられちゃったなぁと思ってねぇ」

「っ・・・んなことしちょらん・・・」


そう言われても照れくさそうにそっぽを向かれては説得力がない。
部下には頼らないと言うほどの真面目なサカズキのその言葉は自分だけは頼ってくれているという表れに他ならない。


「本当にオレ愛されてるなぁ〜まさかサカズキが部下の前でのろけてくれるなんてねぇ?」

「じゃけェのろけてなんぞおらんっ!」

「いやいや。のろけてたね。海兵君の顔見たでしょ?」

「っ・・・じゃかしいわ!さっさと肩揉んで帰らんか!やるんじゃろうが!」


ようやく本題というか目的を押しつけてサカズキは椅子を回転させてクザンに背を向ける。
本当に素直じゃないなと思いつつもクザンは気前よく返事をしてサカズキの肩に手を載せる。
そして手慣れた手つきで揉みほぐし始めた。


「んっ・・・意外と上手いじゃあないか」

「ね?オレに任せた方がよかったでしょ?」

「そ・・・そうじゃな・・・」


確かにクザンの腕は豪語するに値するものだった。
手つきが手慣れていて、何より場所が的確で心地よい。
やはり戦桃丸の言うとおり人にやってもらった方がよかったかとサカズキは思った。


「のう。クザン」

「ん?何?」

「・・・・・またいつか頼んでもええか」


サカズキの意外な言葉にクザンは一瞬動きを止めた。
しかしすぐに動かして二つ返事で承諾する。
そうすればサカズキは安堵したように声を漏らして、また前を見る。
しばらくお互いに沈黙が続いて、クザンは疲れたのか肩もみを中断した。


「すまんのう。だいぶ楽になったわい」

「それは何より」


どうやら本当に効いたらしくサカズキは立ち上がって肩を回した。
先ほどよりずっと軽く自分の肩が楽になったことを改めて実感する。
そして仕事に戻るため椅子に座ろうとした瞬間だった。


「うぉっ・・・?」


クザンがそれを引き留めた。
流れるような手つきでサカズキの腰に腕を回したかと思うとそのまま引き寄せる。
サカズキは何が何だか分からないというような顔でクザンを見た。
するとクザンはいつもの笑みを浮かべていつもと同じことを言ってのける。


「じゃあ次はオレのこと気持ちよくさせてよ」

「あぁ!?」


サカズキは先ほどとは打って変わった乱暴な返事をしたがクザンは気にもせず話を続ける。
その間もサカズキの腰をしっかりと抱き寄せたままだ。


「オレだってサカズキのこと楽にさせてあげたんだからさ。ね?」

「っ・・・ことわ・・・っ!」


断ろうとしたが、断る前にクザンはサカズキを床に押し倒していた。
どうやら断る言葉すら言わせてもらえないようだ。
しかしここで食い下がるわけにもいかないとサカズキは意思を強く持ち、クザンを睨み付ける。


「あ、丁度良い所に良いものがあるじゃない」

「っ!?」


クザンが取り出したのは先ほど自分から取り上げたマッサージ器だった。
海兵に預けようとしたがあのようなことが起こり、渡せずに机の上に置いたままになっていたのだ。


「じゃけェ・・・それは戦桃丸から借りたもんじゃァ!汚せんじゃろう!」

「でも効能を知りたがってたんでしょ?なら丁度良い機会じゃないの。さ、脱いで脱いで〜」

「こんのクソバカタレェエエエ!!」


クザンの嬉しそうな声と、サカズキのそんな悲鳴にも似た怒声をドアの外で聞いた海兵は今日は誰も部屋に入らないように通告しておこうと電伝虫をポケットから出した。



おまけ。


「お、あれはどうだったよ?赤犬さんよ」

「・・・・・いらん。返す」

「何だよ・・・その反応からして効果なかったかぁ?」

「あぁ。なかった。もういらん」

「んな淡々と言われてもなぁ・・・もうちょっと詳しく・・・」

「ないと言うたらない」

「・・・・・お、おぉ」


戦桃丸君が偽物で申し訳ないと思ってる。
最近また文の書き方が変わってだんだん初期のクザサカに戻りつつある・・・


----------------
(10.07.07)




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -