策士とおよび / クザサカ



今日という今日こそはもう我慢の限界だ。
クザンはそう思った。
ここ最近サカズキの仕事が突然増え、構ってもらえない日々が続いているのだ。
思えばここ数週間、唇も肌も重ねていない。
会っても挨拶こそすれど部屋に入ることもなく、ちゃんと会ってしゃべる暇もない。


「ほらァ〜サカズキがいなくてもちゃんと仕事してねェ〜」

「はいはい・・・」


サカズキと会えない以上仕事をするしかない。
そう思ったクザンは渋々仕事を暇つぶしの一環としてしていた。
それをサカズキが知ればクザンの心中を知って怒るか、行動だけは認めてくれるか。どちらかだろう。


「あぁ・・・だりぃ・・・」


クザンはそう呟いて机に突っ伏したまま書類をやる気なさそうにさばいていく。
しかし今日という今日は決意をしたのだ。
もう我慢の限界だと、もう誰がなんと言おうと会いに行くと。
そして最後の書類にサインをした瞬間、クザンは椅子から勢いよく立ち上がった。


「・・・・・よし」

「あ!ちょっ・・・ちょっと!青雉さん!どこに行くんですか!」


そして部下のそんな悲痛な声も無視してものすごいスピードでドアから出たのであった。




◆◇◆





「サカズ・・・あれっ!?」


走ってサカズキの執務室へ向かいドアノブを握り、ひねったがドアは開かなかった。
一瞬何故だろうかと思ったが普通に考えれば鍵がかかっているからであろう。


「あっちょっと!サ、サカズキ!?サカズキさん!?」


そう言ってドアを激しく叩く。
しかし返事は来ない。
それでもクザンは諦めなかった。
確かに蹴破ることも出来るが修理費が自分の給料から差し引かれるのは少し痛い。
ピッキングも出来ないこともないがこれは海軍仕様のドアだ。それは出来ないだろう。
しかしクザンには秘密兵器があった。


「オレだって腐ってもサカズキの恋人なんだからね・・・」


そう意味ありげに呟いてクザンはポケットから鍵を取り出した。
それはこの部屋の合い鍵で、サカズキは勿論持っていることを知らない。
本人が中にいる前でこれを使うと後々の言い訳に困るが、今はこれを使う以外に方法はないとクザンは合い鍵を鍵穴に突っ込み回した。
ドアはいとも簡単に開き、クザンは望み通り中に入る。
するとサカズキはひどく驚いたような顔をしていた。
いつもなら固く閉ざされている口も今は半開きだ。
おそらく何故開いたのか皆目見当もつかないのだろう。


「サカズキひどいよ。鍵かけるなんて」

「・・・・・・仕事はどうした」

「もう終わり」

「・・・・それでもわしは忙しいんじゃ。帰れ」


この会話自体はいつものことだが今日のサカズキは何やら冷たく言葉の端々にトゲがあった。
そのせいで今日は機嫌でも悪いのだろうかと不安になり、思わず声がうわずってしまう。


「どうしたの?」


クザンは首を傾げてサカズキに聞く。
しかしサカズキは今度は無視をすることに決めたらしい。
無言になり、書類の整理を再開する。


「ねーねー何で怒ってんのよ」

「・・・・・・・・・」

「ねぇ・・・」

「・・・・・・・・・」

「サカズキぃ〜・・・」

「・・・・・・・・・」


完全に無視をされてクザンはうつむいた。
傷つけてしまったかとサカズキは少し自責の念にかられたが、こればかりは仕方ない。
少しぐらいきつく言わないとこの男は帰らないのだ。
しかし少しくらいは優遇してやるかとサカズキは立ち上がりドアの前に立つ。


「ほら行け」


そう念を押せばクザンはしょんぼりとしてドアまで歩いて行く。
そして帰るのかと思われた瞬間だった。


「何て素直に帰れるかっ!」

「ひゃあ!?」


クザンは人知れず手の中に作っていた手のひら大の氷のボールを投げてサカズキの背中に入れた。
別段特に他意はなく、気を引きたいがためにやったことだ。
しかし突然のことに驚いたサカズキは思わず妙な声をあげてしまった。
そして背中をつたう冷たい感覚に慌てふためき背中を触って氷の位置を確認し始める。


「うわっ・・・あ・・・おっお前は・・・っ!何すんじゃい!」


取る前にサカズキの異常な体温で氷は跡形もなく消えたらしい。
冷たい感覚がようやく消えたところでサカズキはクザンの胸ぐらを掴んでそう怒鳴った。
クザンはサカズキの意外な反応に頬がゆるみそうになったが、ここで笑えばさらに怒りを煽ることになるだろうと必死に堪える。


「だってだって!サカズキかまってくれないじゃないの!仕事仕事で!」

「じゃかしいわ!仕事じゃけェ仕方なかろうが!」

「仕事仕事・・・仕事とオレとどっちが大事なのよ!」

「大体お前こそ仕事ばかりしちょるじゃあないか!」

「オレは強制的だよ!サカズキは自主的でしょうが!」

「っ・・・」


そうもめて、先に黙ったのはサカズキの方だった。
それはクザンにとっては意外だった。
てっきり当たり前じゃだとかお前もやれだの言われるかと思ったがサカズキはそれを言わない。
むしろ何やら意外そうな、何故そんな事を言うのかとさえ思っているような顔だ。
そんな顔を見てクザンはふと状況に予測がついた。
ひょっとして、もしかして。


「・・・サカズキも強制的に仕事させられてんの?」

「っ・・・仕事じゃけェ。頼まれればやらにゃあいけんじゃろうが」

「じゃあ頼まれて仕事してるの?」

「ここ最近は・・・な」


サカズキの発言を聞いてクザンは一つ、状況の予測が仮説に変わった。
てっきりサカズキは仕事が"増えた"ため忙しいのかとばかり思っていた。
しかしサカズキの発言から察するにサカズキは仕事を頼まれてやっているらしい。
ようするに増えたというより"増やされた"という表現に該当するわけだ。
つまり強制的とは言わないものの自主的にやっているわけでもない。
思えばサカズキは仕事をきっちりやるタイプだ。
自分のように仕事が増えることはまずないだろう。増やされることはあるだろうが。


「だ・・・誰に頼まれたのよ」

「センゴク元帥に決まっとろうが。お前もじゃろう?」

「え?いや・・・オレはただ普通に溜まってただけだけど・・・」

「・・・・・・」

「そんな顔しないでよ!ちゃんとやったんだよ!」


とりあえずそう言っておいて、クザンはとりあえずごちゃまぜになった頭を整理する。
最近サカズキが忙しかったのはセンゴクから仕事を増やされたからで。
それにより自分と会う暇がなくなって、クザンからサカズキと会うという時間を引けば残りは仕事と日常生活しか残らない。
そのため暇つぶしとして仕事をするしかない。しかし溜まった仕事がすぐに終わるわけもなく結果として会えない時間が募るだけになる。
つまりセンゴクがあえてクザンから貴重な時間を奪い、結果的に仕事をさせたわけだ。
それを自分もサカズキも知らず、ただお互いにあいつは仕事ばかりしているなと思いながらも、自分の仕事に追われていたという事になる。


「・・・え。なに?結局センゴクさんがオレ達のことはめたわけ?」

「元帥相手に何ちゅう言いぐさじゃァ・・・お前が仕事をするために策を講じたのじゃろう?策士と呼ばんか」

「仕事させるためにこんなことすんの!?」


それは裏を返せばそれほどクザンの仕事が溜まっていたということになるのだが、サカズキはあえて言わないでおいた。
自分自身もそんな事情があったとは知らずに仕事をただ受けていたのだ。
結果的に自分も騙されたようなものだが、あくまで仕事なので怒りも何も感じない。
しかしクザンはサカズキと会える貴重な時間をセンゴクによって奪われたことに憤りを感じているようだ。


「ひどい。仕事してほしいなら言えばいいのに!」

「言うても聞かんけェ、こんな事されたんじゃろうが!これからは真面目に仕事せぇ!バカタレ!」

「うっ・・・」


確かにそう言われてしまうと反論の余地がない。
そう黙っているとドアがノックされた。
一応部屋の主であるサカズキが返事を返せばドアが開く。


「青雉じゃないか。何をやっているんだ」

「センゴク元帥」


現れたのは今回の黒幕というにふさわしいセンゴクだった。
これは好都合だとクザンはたった今発覚した話に関して文句を言おうと口を開こうした。
しかしその前にセンゴクが話を切り出す。


「赤犬。仕事は終わったのか?」

「えぇまぁ・・・たった今終わったところですがのォ・・・」

「そうか。青雉は終わったからここにいるんだろう?」

「当たり前じゃないですか。あ、センゴクさん!オレはねぇ」

「そうか。じゃあお前もだな」

「え?」


クザンはセンゴクの言葉に思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。
何が自分もなのだろうか。まさか遠征に行けとでも言われるのだろうか。
そう不安になり、センゴクの顔を見るとセンゴクはニコリと微笑んで紙を二人の目の前に突きつけた。
それはクザン、もとい海兵にとって貰えば嬉しい書類だった。


「・・・休暇届・・・?」


上に書かれた文字をそのまま読むとセンゴクは頷いた。
下の方にはセンゴクのサインも書かれている。
つまりこれは今自分がサインをすれば今からでも休めるのだ。


「・・・これは・・・サカズキに?」

「いや。お前もだと言っただろう。私の手が間違っていなければ二枚ある」


そう言ってセンゴクは重なっていた二枚目を出した。
そこにもセンゴクのサインは書かれていて、この二枚を二人に渡すということはこの二人はセンゴクお墨付きの休みが貰えると言うことだ。


「いいんすか!?」

「あぁ。今までお前らが仕事した時間を計算すればな。たったの二日だが好きに使え」

「よっしゃ!センゴクさん大好き!」

「分かったから早くサインして私によこせ。私も忙しいんだ」


先ほどまでセンゴクに対して恨み言をほざいていたのはどこのどいつだ。
そう思い呆れながらもサカズキはその書類にサインをする。
二人分の休暇届を受け取り、センゴクはそれを確認して一言断りを入れてから部屋を出た。
センゴクがいなくなり、クザンは先ほどまで堪えていた笑みを浮かべながらサカズキを見る。


「・・・はめられたんか・・・」

「はめた?策士と呼びなさいよ。失礼じゃないの」

「っく・・・」


わざとサカズキの言ったことをそのままそっくり返せばサカズキは黙り込む。
さぁ久々の休みだ。何をしようか。
そう考えてクザンはふと良いことを思いついた。


「そう言えばサカズキ・・・さっき可愛いこと言ってくれたよね」

「・・・あ?」

「仕事とオレどっちが大事なのよって言った後だよ」

「・・・・・っ!」


一瞬悩んでから、サカズキは思い出したのかさっと顔を赤らめた。
そして右手で顔を覆いながらうつむいてしまった。
いい反応だと思いながらクザンはまたいつもの調子を取り戻して攻めていく。


「あの言い方だと・・・サカズキも同じようなこと言いたかったじゃないの?」

「んなわけなかろうがっ・・・!」

「あらら〜?声が小さいよー?」

「じっじゃあかしいわ!仕事しとったんじゃろう!?確認じゃァ!」

「へぇ・・・確認ねぇ・・・」


そう言いながらサカズキをジロジロと見ているとますます顔が赤くなっていく。
この反応を見る限り、存外寂しくて死にそうだったのは自分だけじゃなかったらしい。
しかしサカズキは苛ついてきたのかクザンをキッと睨んだ。
そしてまたいつものように怒鳴りつける。


「じゃあかしいわ!もういい!早く帰って一人で明日の予定でも立てちょれ!」

「りょうかーい。じゃあ明日はプッチのホテルで一日・・・」

「っ!やっぱりいい!わしが立てるけェ!お前は仕度でもしちょれ!このバカタレっ!」


やはりサカズキもクザンに頼むととんでもないことになると判断したのだろう。
クザンは少しがっかりしたがあのサカズキが立てた予定通りにデートが出来ると思うと気持ちが高ぶり、眠れなくなりそうだと顔をほころばせた。


おまけ


「センゴクさん。わっしにはないんですかァ〜?」

「一日ならな」

「じゃあわっしも休むんでェ〜書類にサインお願いしますねェ〜」

「その代わりあいつらとは別の日に休めよ。一日大将不在では困る」

「分かってますよォ〜。じゃあこの日は戦桃丸君も休みなんでェこの日に・・・」


何やらいちゃいちゃさせたかったようです。

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(10.07.04)




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