縁起 / クザサカ



おせちという物は正月に火を使うと火の神が怒るため正月前に日持ちする料理を作り、三が日台所で火を使わないようにするために作るものらしい。
中には正月くらい女性を休ませるためだとかそういう説もあるが、クザンにとってそんな説など無駄な知識以外の何者でもなかった。
特に、今は。


「今年の正月は幸せだわ・・・・」

「何故じゃ。昨年と変わらんじゃろう」

「だってサカズキがおせち作ってくれたんだから・・・そりゃあオレだって喜ぶよ」

「・・・・・・ほうか」


幸せそうな笑顔でおせちをつまむクザンを見てサカズキは嬉しそうに顔を赤らめてうつむいた。
作ったと言ってもおつるの手伝いの一環として作ったものを少し持って帰って来て、それらしく重箱に詰めただけなのだが、それでもクザンは嬉しそうに笑っている。
相変わらず同意する点が少ない考えを持っている男だなと思いつつ、雑煮に手をつけた所で突然クザンが何かを思いついたかのようにあっと言った。


「知ってる?昆布巻きってね喜ぶから来た縁起の良い食いもんなんだよ」

「知っとるわい。ならお前は伊達巻きでも食うた方がええんじゃないか」

「え?何でよ?」


突然のクザンのうんちくをサカズキは一言で終わらせた。
どうやら今のはクザンが唯一持っていたお節の豆知識だったらしい。
ならば余計に食わせねばとサカズキは鼻で笑ってから説明を始めた。


「伊達巻きちゅうのはな。巻物のような形をしとるけェ知識が増えるようにと願う縁起物じゃ」

「へぇ・・・・・って何それ。オレが馬鹿だって言いたいわけ!?」

「あと黒豆も食うておけよ。マメに働けるようにな」

「だから黒豆多いのかよ!」


サカズキの言葉に憤慨そうに溜息を吐くクザンを見てサカズキは勝ち誇ったように笑みを浮かべる。
今日は調子がいいようだ。何せあのクザンを珍しく言い負かせたのだから。
それだけで幸先よく感じてしまう辺り自分も意外と人が悪いのやもしれない。
一方完全に言い負かされたクザンは何か食べて落ち着こうと箸をのばし、近くにあった魚卵を食べていた。


「ったく・・・・・・ん?何これ。うめぇ」

「そいつは数の子じゃ」

「へぇ・・・・ポリポリしててうめぇなァ」


多少グロテスクな見た目にそぐわぬ味に驚いているとサカズキはそう説明してくれた。
数の子など初めて食べたがなかなか美味しい。
今年の三が日はこれを中心に消費していこうかとなどと考えながら食べているうちに、またこれも縁起物の類なのだろうかと気になってきた。
何せ魚の卵だ。これは縁起物に例えるのも難しそうだ。


「数の子は何の縁起物なの?」

「子孫繁栄じゃ。その里芋も同じ意味じゃけェ」

「へぇ」


なるほど。数の子と里芋に子孫繁栄を願ったとは先人も考えたものだ。
よほど昔は子宝に恵まれなかったのだろうかと先人の苦労をねぎらっていながら
今年もサカズキと変わらず子作りに挑戦していこうなどワケの分からぬ抱負を心で述べているクザンを尻目にサカズキはぽつりと言葉を一つ漏らした。


「先人もよう考えるのう・・・昔はそんなに子宝に恵まれんかったのかのォ」


どうやらサカズキも同じことを考えていたらしい。
しかし同じ思考でも無論クザンはサカズキのように先人を心からねぎらい今を真面目に生きていこうなどという事は一切考えていない。
クザンはサカズキのそんなぼやきに相づちを打ちながらさり気なく立ち上がり、サカズキの横に座った。


「ならさ。サカズキ」

「ん?」

「先人達の発想に習って張り切って作っちゃおうよ」

「っ!」


クザンの言葉にサカズキはカッと顔を赤くしたがたちまち眉間にしわがより、怒りの形相となる。
この空気はくだらんと罵られるか、バカタレと一蹴され文字通り一蹴りくらわされてしまう流れだろうか。
なんらいつもと変わらぬ展開だとクザンは降りかかる暴言か蹴りに対する覚悟を決めた。
しかし。


「・・・・・・・?」


サカズキの拳はいつまで経ってもクザンの顔面はおろか身体にさえめり込まなかった。
無論いつものあの言葉もいつまでも経っても降り注がない。
怪訝に思いサカズキをよく見ると先ほどまで赤かった顔は変わらずだったが怒りの形相であった顔はどこか柔らかみが出ていた。
しばらくしてからようやくクザンが怒りのあまり顔を赤くしているのではないことに気がついた、その時だった。


「秘め始めまで・・・待っとれ・・・」

「え」


サカズキの口から出たのはいつもと違う言葉だった。
思わず聞き返しそうになったが、それではせっかくの空気が水の泡だ。
それだけは勘弁したい。


「じゃあそれまで里芋と数の子食べてるよ」

「っ・・・・おぅ」


縁起物だとか火の神だとか。
クザンにとってそんなものなど無駄な知識以外の何者でもなかった、が。
意外と火の神も縁起物も捨てたものじゃないらしい。
特に、今は。


某所で七草粥の話をしてる時に思い付いた正月ネタ。
今さら?ナンノコトダカ サッパリ←

○派生ルート
七草粥食べるよ

張り切って作っちゃうよって返信しようと思った

あ、クザサカ・・・

脳内でサカズキと張り切って子作りするクザン降臨

何やかんやで正月ネタ

相変わらずソースが分からないことに定評のある豆助の脳内です

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(11.01.07)




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