君に熱中症 / クザサカ



「あっぢ〜・・・」


クザンはそう言って書類をうちわ代わりにしてあおぐ。
今日はやけに暑く、湿気も相成って氷結人間のクザンにとってはかなりきつい状態だ。
冷房も壊れた今、海軍本部の中で一番暑い部屋は間違いなくここだろう。


「あっぢ〜な・・・」

「おい!クザン!仕事しちょるん・・・っ!?」


どうやらその言葉が廊下まで聞こえたらしい。
サカズキが怒鳴りながらドアを開けて入ってきた。
しかしすぐに言葉を切ってしまう。
それを不審に思い、振り返ればサカズキは取り乱したような顔でクザンを見ていた。


「どしたの?」

「っ・・・おっお前は・・・何ちゅう格好をしちょるんじゃァ!」

「へ?」


サカズキはそう顔を少し赤くしてクザンを指さした。
そんなに変な格好をしているかとクザンは自分の服装を確認する。
今日は暑いためいつものジャケットは着ていない。
ネクタイも面倒だとせず、ワイシャツも先ほどまで着ていたが暑くなり脱いだ。
そして極めつけはチャックもボタンも開けっ放しにしたスラックスであろう。
確かにはたから見れば職場でする格好ではないが、クザンは全く気にしていなかった。
がしかし、サカズキは別だったらしい。


「だって暑いんだもん」

「それでも少しは自粛せい!ちゃんと服を着ろっ!」


まるで初めて男の身体を見た少女のような初々しい反応にクザンはふっと笑った。
鍛練してる時の海兵達だって半裸だし、それをサカズキは何百回も見ているはずだ。
なのに自分の前だけではこの反応なのが堪らなく愛しい。


「だってこんなに暑いんだよ〜?」

「なら自前の氷で何とかすりゃええじゃろうが!ち、近寄るな!」

愛しさゆえに近付けば直視できなくなったのかついには顔を背けられてしまった。
愛しい愛しいと今度は抱き寄せてみる。
するとまたサカズキの顔が赤くなり、今度はワケの分からぬうめき声をあげながらグイグイとクザンの身体を押し始めた。
こんな暑い部屋でも今はこの温もりが愛しい。


「ん〜・・・・サカズキぃ」

「あ、あっち行けっ・・・・触るなァ・・・・」


ぎゅうぎゅうと力を込めて抱けばだんだん熱くなってきた。
そしてしゅうしゅうと何か妙な音がする。
それを愛だ愛しさだと言うには少し違うような。
そう自覚したら最後、だんだん意識がもうろうとしてきた。
そして。


「ク、クザ――・・・・」


サカズキの不安げな声を聞く前にクザンの意識はぷっつりと切れてしまった。



◆◇◆




身体は少し冷たかった。
それがすぐに上から冷房が当たっているせいであることに気がつく。
クザンの執務室の冷房は壊れている。だとすればここは執務室ではない。
そう気がついて目を開ければ白い天井が目にうつった。


「・・・ん?」


そのどこかで見たような白い天井はすぐに医務室のモノだと判断出来た。
医務室、ということは誰かが運んできたのだろう。
誰がと思い横を向けばその誰かがすぐに分かった。


「サカズキ・・・?」

「おぅ・・・・目が覚めたか」


横にはサカズキが窓を開けて風を入れていた。
椅子が用意されている辺り、運んでくれたのはサカズキで、ずっとここにいたらしい。
そんな事実にクザンは嬉しくなりふっと笑った。


「何?運んでくれたの?」

「あぁ・・・急に倒れたけェの。熱中症じゃあ言われとったぞ。こんのヘタレめが」

「仕方ないじゃない。氷結人間なんだから」


そう言い訳すればサカズキは珍しく納得して黙った。
クザンはとりあえずずっといたこともからかっておくかと、また口を開く。


「ずっといてくれたんだ」

「バカタレ・・・今さっき来たんじゃ・・・」


サカズキはそう言ったが何故かそっぽを向いてしまう。
自信があるなら堂々と言えるはずだ。ずっといてくれたのは事実だと思ってもいいらしい。
しかしせっかくだからもっとからかっておこうとクザンはその減らず口をまだ叩き続ける。


「じゃあ何で椅子が用意されてんの?看護師のお姉ちゃんが用意してくれたんでしょ?」

「っ・・・知らんわい!勝手に置いてあっただ」

「しっ。ここ医務室」

「くっ・・・!」


サカズキが声を荒げたのでクザンはそう言ってなだめた。
本人は黙ったが納得いかない顔で睨んでいる。
事実確認を終えて、ふと視線を下げるとサカズキの手首に見慣れないブレスレットがあることに気がついた。


「何それ?」

「あ?あぁ・・・これは海楼石の装飾品じゃ。医務室で暴れんようにとな・・・わしゃあ暴れなどせんが」

「へぇ・・・」


どうやら看護師はクザンの看病を買ってて出たサカズキがクザンに怒って文字通り大噴火をしないようにと渡したらしい。
医務室の看護師の言うことは例え大将でも聞かなくてはならないのがこの海軍の暗黙の了承だった。
何せ自分らの身体を診てくれているのだ。反抗しても損をするのは自分達である。
しかしクザンはその海楼石のブレスレットをしている事実を知り、良いことを思いついた。


「ねぇ。サカズキ」

「何じゃァ」

「ちゅーしたい」

「っ・・・せんわ!バカタレっ!」


今度はわりかし小さい声で怒鳴られてしまいクザンは困ったように眉を下げる。
そして寂しそうな顔を見せ、無言でねだればサカズキは溜息を吐いた。
大部屋ではあるがベッド自体はカーテンでしきられていて覗きにでも来られない限り見られることはない。
それにキスぐらいならすぐ終わるだろう。
サカズキはそう思い、クザンに近付いた。


「一回だけじゃけェのお・・・!」

「うんうん。一回だけね」


そう宣言してサカズキはクザンに覆い被さり、軽くキスをした。
すぐに離せばクザンは少し物足りなさそうな顔を見せる。


「・・・一回だけじゃあ言うたろう」

「・・・早い。せめて10秒ぐらいは欲しいよ!」

「あぁ!ワガママ言うなら仕事してからにせい!」


面倒になってきたサカズキはそう言って怒鳴る。
もうここは医務室だからという言い訳をしても無駄なようだ。
それじゃあ別の屁理屈でもごねようかとクザンは笑って言った。


「じゃあ仕事終わったらワガママ言っていいわけだ」

「っ!・・・お前は・・・!」


サカズキはそう言って顔を赤くさせた。
今にも殴ってきそうな勢いだったためクザンは少し歯を食いしばっておく。
すると意外にも拳は飛んでは来なかった。
その代わり飛んできたのは期待していなかった希望通りの言葉で。


「・・・っ・・・仕事が・・・終わったらだぞ!」

「・・・うん。じゃあ今日は仕事頑張るよ」

「明日も、の間違いじゃろ」


そう訂正を促されてクザンは不服そうな顔をする。
しかしそれが仕事である以上サカズキもおいそれと引き下がるわけにはいかない。
同じくらい不服そうな顔をして、クザンを睨んだ。
するとクザンは仕方なく折れる。


「分かったよ。明日もする」

「当たり前じゃ」

「その代わりキスしてよ?」

「あ!?今日だけじゃあ言うたろうがっ!」


てっきり今日の仕事を頑張ればやるつもりだったサカズキは思わず素っ頓狂な声を上げる。
そしてそう言えばクザンはニコリと笑って、いつもの屁理屈を言った。


「仕事が終わったら、キスしてくれるんでしょ?」

「っ・・・!」


それがイコール毎日という理屈になったのをようやく悟ったサカズキはしまったと思いながらも一度言った言葉を違えたくなかったのか悩んでから肯定の意味を込めて、うつむいた。



乙漢大好きやねん

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(10.07.04)




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