伝染未遂 / クザサカ



「おかしいのう・・・馬鹿は風邪をひかんというが」

「オレ馬鹿じゃないんだわ・・・よかっゴホッゴホッ!」


サカズキの呆れたような声にクザンはそう返しながらベッドの上で咳き込んでいた。
海軍内で風邪が流行っているのは知っていた。
海兵達がマスクをつけて、一般市民にうつさないように努力しているのを見ていたからだ。
しかしまさかこの自分がかかるとは思ってもいなかった。
クザンのそんな言い訳にサカズキは怠慢という二文字を使い、説教をしたのは言うまでもない話だ。


「・・・・わしには絶対にうつすなよ。キスもするんじゃない」

「えぇっ!寂しい時はどうすんのよ!」

「そんなに口寂しかったら布団でもしゃぶっとれ。バカタレが」


そう言い捨ててサカズキは正義のコートを羽織る。
これから仕事に行くつもりらしい。
サカズキのことだ。いくら寂しいだの側にいてくれだの頼んでも了承してくれないだろう。
そう思った瞬間、クザンは急に孤独感を強く感じ思わず力ない声でポツリと独り言を呟く。


「オレと仕事・・・・どっちが大事よ」


どうやら聞こえてしまったらしくサカズキは歩みを止めた。
サカズキに行ってほしくなくて、まだいてほしくてそう言ったのは事実だがまさかそれに反応してくれるとは思わなかった。
てっきり無視ぐらいされるものだとばかり思っていたが。

「・・・・じゃ」

「え?」

「そんなもの命の方が大事じゃっ・・・ばかたれっ!」


てっきり仕事だと即答されるかと思ったら今嬉しい言葉が聞こえたような、そう思いクザンはサカズキを呼び止めようとベッドから身体を起こした。
しかしその顔を見る前にサカズキは照れくさそうにさっと踵を返して、ドアを勢いよく閉めて出て行く。
頑張れば追いかける気力も出たが、妙な満足感とサカズキの顔を想像すれば追いかけるという選択肢はすぐにこのまま幸せに浸るという選択肢に変えられた。



◆◇◆




いつもより早めに上がれたがいつもの男は隣りにすらいない。
それに若干寂しさを感じながらもマリンフォードの市場の道を歩いていると、店主達の活気のある声が飛び交っていた。
市場には色とりどりの果物や海王類の肉が売られている。

そうだ、風邪をひいているのだから。何か買っていってやらなければ。

そう思ったサカズキは店の中に入ったがすぐに一つ問題にぶち当たった。
思えば病人でも食べられる物をサカズキはあまり知らない。
とりあえず自分が食べられそうな物を買って食べられないと言われたら自分で食べよう。
そう安直に考えながらサカズキは適当に果物をかごに入れて会計に出した。



◆◇◆




「邪魔するぞ」


そう言って居間に行くが誰もいない。
自室かと思い、廊下を歩いていくが人の気配がまるで感じられない。
クザンが寝ている自室にたどり着き、中をノックした上で入りのぞくが当の本人は留守のようだ。
サカズキはそのまま部屋の奥まで進み辺りを見回す。


「クザン?アイスがあるぞ・・・っ!?」


元気になって散歩にでも出かけたのだろうか。そう思いながら声を出した瞬間だった。
サカズキは突然後ろから抱きしめられてバランスを崩した。
そしてそのままベッドにダイブする。


「おい!」


確認しなくても分かる。クザンだ。
しかもいくらベッドでも不意打ちだったため受け身が取れなかったらしく少し痛い。
少しもがいてみたがクザンの微熱を持った身体は意外と力があり自分を離してくれなかった。


「おかえりー」

「挨拶が間違うとるぞ。わしは同居人じゃあない」

「あらら何言ってんの。同じようなものでしょ」

「やかましいっ!ええからどけっ!」


サカズキがそう怒鳴るとクザンは渋々どいた。
起き上がって勢いで落としてしまった物を探すと床に無造作に転がっていた。
それを拾い集めているとクザンがしゃがんでその光景を見つめる。


「あら、何か買ってきたの?」

「あぁ。何か食わんと治るもんも治らんじゃろうと思うての」


そうもっともらしい言い分をつけて果物を手渡せばクザンはそれを受け取る。
そして中身を確認しながらサカズキと会話を続けた。


「熱は下がったのか」

「薬が効いてるみたいね。もう元気」

「腹は」

「空いてる。何か作ってよ」


クザンの言葉にサカズキは溜息を吐いた。
わしはお前の家政婦じゃないんだと言いたいが今は病人だ。多少のワガママには目をつぶらないとやっていけない。
粥か何かでも作ろうと部屋のドアへ近付くと突然身体の動きが止まった。
溜息を吐けば後ろからクザンの声が返ってくる。


「おかゆ以外にも何か作ってよ?」

「何がええんじゃ」

「肉食べたい」

「風邪っぴきが胃に悪いもんを食うな・・・・」


そう警告した後、前へ進もうと歩を進めるとクザンが自分の首に腕を回したままついてくる。
サカズキの歩幅に合わせて歩いているようだが、歩き方がフラフラしていてまだ完全に回復したわけではないようだ。


「ねぇ」

「・・・・分かった分かった。肉料理を作りゃええんじゃろう」


耳元で肉肉と騒がれ面倒になったのだろう。サカズキはそう渋々承諾した。
するとクザンはにぱっと笑いサカズキの背中から離れ、前へ回り込んできた。
目の前に立ち塞がれて通行の邪魔だったため、サカズキは横を通ろうと身体を少しひねる。
しかし通り過ぎるより早くクザンの角張った指がサカズキの顎を絡め取った。


「おい・・・邪魔じゃ・・・っん」


そう罵ろうと口を開いた瞬間、その口はいとも簡単に塞がれてしまった。
一瞬何がと判断に苦しんだサカズキの脳だったが、すぐに唇を奪われたことを判断したらしい。
しかし判断されたと知ったのかクザンはすぐに唇を離した。


「ばっ・・・!何を・・・っ!」


キスをしただけでここまで動揺するのだから、この男は大層初心なのだろう。
そう改めて実感した所でへらっと笑ってみると、すぐに顔面にサカズキの拳がめり込んできた。


リメイク第二弾・・・
元現パロです。はっ恥ずかしいーっ!

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(10.12.01)




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