Tenth Kiss / クザサカ



やってしまった。サカズキはそう思った。
前に二人で出かけた時に二人でおそろいの物を買おうと言ったクザンに流されて買った湯飲みを割ってしまったのだ。
悪意があってやったわけではないため言えば許してくれるだろうが、サカズキ自身は悪意がないことを理由に開き直ったような謝り方をするような性格ではない。
むしろこの状況をクザンが怒ることを前提で考えていた。


「怒る・・・じゃろうな」


どうせ怒られるのならば潔く謝った方がいいだろうという結論に至ったサカズキは覚悟を決めて部屋にいるクザンの元に行った。
すると扉が向こうから開く。どうやら音を聞きつけたらしい。


「どしたの?何か割った?」

「すまん。あの湯飲みを・・・割ってしもうて・・・」

「え・・・っ!」


さぁ何と言う返事が返ってくるのだろうか。サカズキは少し顔をこわばらせてクザンが口を開くのを待つ。
するとクザンは顔色を変えてサカズキの肩を強く掴んだ。
突然掴まれたせいかサカズキは思わず身体がビクリと跳ね上がってしまう。


「大丈夫!?けっ怪我とかない!?」

「あ・・・あぁ・・・まぁな」

「そう・・・あー・・・よかったぁ・・・」


クザンの言葉はサカズキにとって意外なものだった。
てっきり何で割ったのだと怒るか、大層落ち込むかすると思っていたサカズキはクザンの顔をじっと見た。
顔は心底心配していてサカズキに怪我がないか自身の目でも確認しようとしている。
そんなクザンを見たままサカズキはおずおずと口を開いた。


「・・・・・怒らんのか」

「え?」


むしろ理由を問われてサカズキは困った。
なぜと言われてもそれは一つしかないだろう。
自分は大切な湯飲みを割ったのだ。
それは自分のミスで、ミスをすればそれについて怒るのが普通だろう。
そんなことを手短に言うとクザンは何だそんなことかと言わんばかりの顔で溜息をついた。


「だってコップはまた買えるけど・・・サカズキが怪我したら大変でしょうが」

「じゃけェ・・・」

「顔に傷とかついたら大変じゃないの。お嫁に行けなくなるよ」

「なっ・・・女じゃあるまいし・・・んなわけあるかっ!それにわしゃあ男じゃァっ!」


相変わらずなクザンの扱いにサカズキは先ほどまで抱いていた罪悪感はどこかに消えてしまった。
やっぱり謝りに来るんじゃなかった。
そう思いながらまだ途中だった湯飲みを片付けに行こうと踵を返すと、それはクザンの手によって強制的に阻止されてしまった。


「なっ・・・なんじゃ・・・」

「でもサカズキが怪我してないかすごく心配した」

「は・・・はぁ・・」

「だからお詫びに何かして」


クザンはそう真面目な顔で言った。
突然の要望にサカズキは呆れたように溜息を一つはいた。
こういう時は断っても難癖をつけられて逃れることが出来ず悔しい思いをして従うしかなくなるという展開に陥るのは火を見るより明らかだ。


「何をすればいい」

「キス10回分。全部別の場所によろしくね?」

「っう・・・・・・」


サカズキはじわりと顔を赤らめて俯いた。
そういうことを言うとは思っていたがいざ言われるとやはり気恥ずかしい。
しばらく黙り込んでからようやく覚悟を決めたのか、あえて急かすこともせずぼぅっと立っていたクザンの頬をその温かい両手で覆い唇に軽くキスをした。


「あと9回」

「分かっちょるわ・・・っ」


サカズキはそう言って今度は頬にキスした。
そして次はもう片方の頬に、次は額に、次は首筋に。
5回終わらせた所でサカズキはクザンの肩の服を握って俯いた。


「・・・・・・もうええじゃろっ・・・!」

「あと5回」

「ほっ・・・他に口付けるとこなんぞありゃせんじゃあないかっ!」

「あるって。ほら」


そう言ってクザンは両方の手のひらを差し出す。
するとサカズキは驚いたような顔でクザンを見た。
そしてもう自棄になってしまったのか口付けを再開する。
次は右手にそして左手に。
そして次は右の手のひら、そして左の手のひらにキスを落とした。


「あと1回」


クザンにそう急かされ、サカズキは一度動きを止めた。
もう本当にネタ切れだ。
足なんてしたくもないし、それ以外の場所となればもっと嫌だ。
しばらく悩み、ふっと顔を上げてクザンの顔を見て、サカズキは一つひらめいた。


「ひぇ?」


サカズキの腕が首に回り、舌にキスをされたと同時にクザンは珍しく情けない声をあげてしまった。


リメイク版企画第一陣!
懐かしい〜とか言われたらどうしよう・・・!(ゴクリ

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(10.11.20)




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