テクニック・オフ / クザサカ



「これはどうですか?」

「む・・・何にも感じんな」


そう言うサカズキに船医である海兵は困ったように眉を下げた。
しかしそんな顔をされても自分ではどうにも出来ないのだから仕方がない。
今サカズキは遠征で立ち寄った島の妙な花粉に当てられたらしく五感の一つである触覚がなくなっていた。
そのため海兵がどんなに手の甲をつねっても、背中を叩いても触られた感覚がないのだ。
しかしさすがは海兵。肩を叩かれるほど近付かれればすぐに分かるため日常生活において支障はない。
それでも船医の心配はまだ収まっていないようだ。


「困ったものですねぇ・・・」

「戦闘には困らん。気配は感じ取れるけェのう」

「痛みを感じないということは怪我をしても分からないということですよ?分かってらっしゃるんですか!?」


船医の言葉にサカズキは思わず押し黙る。
怪我が分からないということは、もし重傷を負っても気がつけず手遅れになってしまう可能性があるのだ。
しかしそこまで重傷を負うようなことは戦争でも起きないかぎりないだろう。
そう判断したサカズキはコートを着て、椅子から立ち上がった。


「まぁ心配はいらん・・・怪我を負うような任務にはなるべく出んようにするけェ」


そう言えば満足するだろう。そう考えたサカズキはそう心のこもらない声を船医に聞かせておいた。



◆◇◆




夜も更けた頃。久しぶりに帰ってきた我が家の前でサカズキはふぅっと溜息を吐いた。
やはり本当に心も体もゆっくり休めるのは家以外では出来ない。
そう思いながら久しぶりの戸を開けようとするとふいに玄関に人の気配を感じた。
出る前は確かに鍵を閉めたのだが、最近は鍵をしめても開ける泥棒がいると聞く。
大将の家に泥棒に入るとはいい度胸をしている、そう思いながらサカズキは勢いよく戸を開けた。


「おい!誰じ・・・!」

「うぉおっ!」


玄関先にいたのはクザンだった。
突然目の前に現れたサカズキに驚いたのかそんな声をあげて尻餅をついている。
一方サカズキは泥棒でないことに安心はしたが、なぜいるのだろうかと疑問を一つ持てば泥棒よりタチの悪いやつがいるという事実に気がついてしまった。


「なぜここにおるんじゃ」

「え?いやぁ・・・サカズキ帰ってくると思って待ってたん・・・」

「勝手に上がり込むなっ!バカタレ!」


そう怒鳴られてしまいクザンはがっくりと肩を落とす。
しかし怒られてもめげるような性格ではない。
落ち込みながらもすたすたとサカズキの後をついて行き結局居間まであがってきた。


「わしは疲れてるんじゃ・・・」

「だろうねぇ・・・・」


一刻も早く座りたいサカズキはさっさと座布団をひいて座った。
相変わらず感覚がないため慣れない感覚を覚えるがもう半日も経てば慣れてしまう。
しかし船医の密告のせいで当分任務はなしだ。
そんなことをしている場合かと苛立つ心を落ち着けるために茶でも飲むかと考えていると突然クザンが隣りに座ってきた。


「・・・何じゃ」

「いいじゃない。オレが隣りに座っちゃダメなの?」

「・・・・・・・・」


まず座ることに関しては何の不満もない。
しかしクザンが自分の隣りに座るということは何かしら始める気でいることである。
しばらく真意を探ろうとクザンを睨んでいたがやがて面倒になったサカズキは茶を取りに行くふりをして置いていこうと立ち上がろうとした。
その瞬間だった。


「うぉっ・・・・・」


突然クザンはサカズキを抱き寄せた。
予想通りな展開に思わず溜息を吐くが存外それが感覚をなくした身体でも心地よかったため抵抗することはしない。


「何じゃァ・・・・」

「何って久しぶりに会ったから・・・ね?」


そうこれから事に及ぶことをにおわせたと同時にクザンはサカズキの服の中に手を突っ込んだ。
そして胸板を撫で回し乳首にそっと触れ愛撫を始めた。
そうすればサカズキの甘い声が漏れる・・・はずだった。


「・・・・サ・・・サカズキ?」

「何じゃい」


しかしサカズキは全く感じていないかのように平然とした顔でクザンを見ていた。
いつもなら愛撫によがりながら可愛らしく鳴くはずなのに。
サカズキのそんな予想外の反応にクザンはショックを受けた。


「え・・・何で・・・いつもならここ触ったらひんひん鳴くじゃない・・・」

「うるさいぞ・・・っ」


クザンの恥ずかしい言葉にそう言い返したがふっとこの状況が自分にとって大変有利な状況であることに気が付く。
事情を知らないクザンはかなり戸惑っていて、自分の技術を疑っているように見える。
これは普段の”やりかえし”をするのに丁度よい機会だ。


「ねぇ何で!?何でよ!」

「うぉっ・・・なぜと言われても・・・」


焦れたのか突然激しく胸を揉みしだかれるが感じないのだから何の反応も出来ない。
クザンの目をよく見るとショックが大きいのか今にも泣きそうだ。
そんなクザンを見てサカズキはニタリと口元をつり上げて得意げに言葉を一つ言ってみた。


「お前が下手くそになったとしか言いようがなかろうが・・・のォ?」

「うっ・・・・・!!」


その言葉が相当心に刺さったらしい。
クザンは頭に巨大な石を落とされたかのように一瞬固まり、ついに目に涙が浮かんだ。
そして突然立ち上がりひとしきり目を潤ませてわなわなと震えた後。


「うっ・・・サっ・・・サカズキのバカぁああああ!!」


そう怒鳴って部屋を出て行ってしまった。
一人取り残されたサカズキは少しやり過ぎたかと思ったが、すぐに今までの苦労を思い出してその考えを頭からかき消した。



◆◇◆




それからしばらくして徐々に感覚が戻って来て、次の日の夜にはもう感覚はすっかり戻っていた。
明日には任務に復帰出来るだろう。そう安堵しながら居間で茶をすすり溜息を吐く。
そう安堵した途端ふっとサカズキの頭に昨日の出来事が思い浮かんだ。
そういえばあれ以来クザンを見ない。
ショックを受けて寝込んでいるのだろうか。そう思うといい気味だと思う反面少しやり過ぎたかとさえ思う。


「明日謝っておきゃあええわい」


散々考えた挙げ句そんな結論に至ったサカズキはゆっくりと立ち上がって寝室へ移動した。
寝室の戸を開ければ中は足下も見えぬほど暗かったが電気をつけるのは面倒だと感じ、慣れた室内を勘だけで歩き布団にたどり着く。
そして布団に潜り込んで一つ違和感を感じた。
何かが布団の中にあるらしく足がそれ以上伸ばせない。
疑問に思って起き上がり布団をめくろうとした瞬間だった。それは突然動きだした。


「うぉおお!?」


思わず悲鳴をあげるが辺りが暗いためそれが何なのか判断がつかない。
するとそれは布団から這い出てサカズキを再び布団の上に押し戻す。
そこでようやく目が慣れてそれが何なのかが分かった。


「クザンっ・・・!?」

「どうもこんばんは。サカズキさん?」


クザンの突然の登場にサカズキは動揺を隠せない。
なぜここにいるのか、なぜ布団の中から出てくるのかと疑問はたえないがひとまずこの体制から問い詰めようとサカズキは言葉を脳内で組み立てる。
しかしそれが上手く組み立てられない。


「なっ・・・何で・・・」

「いやね。昨日あんなに侮辱されちゃったから出直して来たんだけども」

「あぁ!?」


どうやら昨日のことをまだ根に持っていたらしい。
出直して来たという辺り嫌な予感をぬぐいきれないが負けじとサカズキは反抗する。


「まだ根に持っちょるんかァ!しつこいぞ!」

「オレを泣かせた罪は重いからね。しつこくもなるよ」


何と手前勝手な理論だろうか。
自分は散々泣きたくなるようなことをしておいて、いざ泣かされれば仕返しに来るのか。
しかし大層傷ついたことは事実らしい。
ならばそこだけでも謝っておかなければとサカズキは抵抗を続けながら口を開いた。


「わっわしが悪かったけェっ!ちぃとからこうただけじゃァ!」


そう謝るとクザンは一瞬だけ止まった。
伝わったのかという期待と、ダメだろうかという落胆がグルグルと頭を巡る。
しかしクザンはニコリと笑った。


「うん。じゃあ」


その続きが容易に判断出来たサカズキは言葉が先に終わる前に長い長い夜の始まりが幕を開けたのが分かった。


不感症サカズキ書こうとひらめいたけど技術が追いつかなくてごめんね!

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(10.10.24)




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