ヒロインはギリギリになって頑張るんだ / クザサカ



「青キジ大将!お誕生日おめでとうございます〜!」

「これ私達からです!」


そう言いながら複数の女性職員がクザンを取り囲む。
クザンは満更でもなさそうな笑顔で応対して女性達が手渡したプレゼントを受け取った。
その光景を窓の上から見下ろしてサカズキは忌々しそうに舌打ちをする。


「ったく・・・だらしない顔をしおって・・・」


そう呟いてサカズキは窓から離れて、ソファにどかっと座った。
今日がクザンの誕生日なのは前々から知っていた。
一ヶ月前になってクザンがおもむろに主張し出したのでちゃんと事前にプレゼントも用意した。
しかしそれ以前に自分には大きな問題があったことに今更ながら気がついたのだ。


「・・・どう渡せばええんじゃい」


自覚はしているが、自分はこういう色恋沙汰のイベントに関してかなり弱い。
恋人の誕生日、バレンタインデー、ホワイトデー、その他諸々のイベントがあるたびに毎度毎度どう渡せばいいのか悩みに悩んでしまう。
そして結局はクザンから言い出されて、罵詈雑言を吐き捨てながら手渡して終わるのが常だ。
今回こそはあの女性達のように素直に普通に誕生日おめでとうなどと言ってやりたい。


「・・・・・・」


しかしそう思ってもやり方もいい言葉も思い浮かばず、今も悩みは堂々巡りのままだ。
こういう時だけ女性の押しの強さに感服してしまう。
何故ああも惜しげもせず自分の気持ちを素直に言えるのか。
それが疑問でなおかつ羨ましい。


「・・・・・・・ハァ」


サカズキはそう溜息を吐いて机の上に置いたクザンへのプレゼントの箱を軽く撫でた。



◆◇◆




クザンは女性陣からのプレゼントを両手に抱えながら廊下を歩いていた。
もう夕方だが、さすがに執務室に置けなくなったため、自分の部屋に置こうと考えたのだ。
この数だけ人に愛されているのだと思うとやはり嬉しくなるが、すぐに気持ちがしぼんでしまう。
肝心のサカズキからはまだ何も貰っていないのだ。
毎年毎年こちらから言い出してサカズキが渋々渡してくるという展開が多いため、今年はあえて声をかけずにサカズキから言い出すのを待ってみたが、サカズキは午後になっても来る気配がない。
こうなるとやっぱり毎年無理をして渡していたのか、と考えてしまうがすぐにそんなことはないという結論に至り、こちらも悩みは何度もループしている。


「ちょっと忙しいだけだろうな。うんうん」


そう言いながらクザンはプレゼントを自分の部屋へ運んでソファの上に置く。
とりあえず仕事に戻らねばと部屋を出て、執務室へ向かう途中だった。
廊下の角から突然人が出てきて軽くぶつかってしまった。


「あ、ごめ・・・・あら、サカズキじゃない」

「んっ・・・何じゃ。サボリか」

「違うよ!麗しのおねえちゃん達からのプレゼントしまってきたんだよ」


クザンはわざとサカズキの神経を逆なでするようなことを言ってみた。
するとやはりサカズキは眉をひそめてクザンを睨む。
しかしクザンを責めるのはお門違いということを分かっているため何も言わなかった。


「いやぁ誕生日はいいね。色んな人から愛されてるなぁって実感出来るし」

「・・・・・・・・」

「それにきれいなねえちゃんに囲まれるのも悪くないしね」

「・・・・・・・・」


クザンが嬉しそうに持論を話しているのをサカズキは込み上げる激情を抑えながら聞いていた。


何が綺麗な女じゃ、何が愛されとるじゃ。


だがクザンに悪いところなど一つもないのは分かっている。だから怒鳴ることはしない。
ただ苛立ちが隠せず、どんどん顔が険しくなっていくのが自分でも分かる。
それでもクザンは、と納得出来ない事を何度も繰り返し頭の中でループさせる。
しかしそれとは裏腹にサカズキの腕は今にも上がりそうだ。


「やっぱりいいね。誕生日は」


そんな言葉と笑顔がサカズキの理性を切るのには丁度よかったのだろう。
サカズキは腕を素早く上げた。
突然のことにクザンはサカズキの怒りを認識し、同時にしまったとわざとらしく言葉を吐いたことを後悔した――・・・・が。


「っん?」


サカズキの腕はクザンの顔面やみぞおちにめり込むことはなかった。
その代わりサカズキの腕がしたことは、自分の背中に回してサカズキと自分をしっかりとくっつけてくれたのだった。
突然抱きつかれてクザンは状況が理解出来ずにいたが、とりあえずクザンはサカズキの背中に腕を回しておく。


「・・・サカズキ?」


そう優しく名前を呼べば、返事の代わりに腕の力が強くなる。
先ほどの激昂とは裏腹に突然大将赤犬ではなく、ただのサカズキという個になった恋人の甘えにクザンは顔をほころばせながら背中を優しく撫でてみる。
少しいじめ過ぎたかもしれない。何か言っておこうか。
そう考えているとサカズキが何やら前に進み出した。


「えっ、お?ちょっ・・・サカズキ?」

「・・・・・・・・・・・」


クザンはサカズキに抱きつかれているのだから、サカズキがクザンの方へ歩けばクザンもその方向へ押されてしまう。
クザンの戸惑いに構わずサカズキはどんどんクザンを押して前へ進み、気がつけば先ほど出たばかりの自室の前まで来ていた。
そこでようやくサカズキは動きを止める。
しかし相変わらず抱きついたままで表情が読めず、この行動の意図が分からない。
とりあえずいつもの調子で言葉を吐いておこうとクザンは口を開いてみた。


「ん?まさかお誘い?」

「っ・・・・・!」


お誘いという言葉に動揺した辺り、本当にそうなのだろう。
そう判断したクザンは後ろ手でドアを開けようと取っ手を掴んだ。
しかしその瞬間サカズキはゆっくりと離れ、睨むようにしてクザンを見た。
今の動作がご機嫌を損ねてしまったのかと思ったが、表情からして別にそういうわけではないようだ。
どうしたのだろうかと無言でサカズキを見つめ返していると、サカズキはギリッと歯ぎしりを立てた後口を開く。


「っ・・・クザン!」

「はい!?」


覇気のこもった怒鳴り声に思わずクザンは背筋が伸びた。
相変わらずこの声だけは不思議と畏怖してしまうが今はそれをしみじみと感じている場合ではない。
何を言われるのだろうかと黙ってサカズキの言葉を待っていると、サカズキは突然懐から何かを取り出した。
小さな箱で綺麗に着飾られている辺り、これが今日サカズキがクザンに渡したかった"誕生日プレゼント"というやつなのだろう。
サカズキはしばらくそれを持ったまま黙っていたが、やがて観念したかのようにそれをクザンの目の前に突き出した。


「サカズキ・・・これ」

「・・・・・・・・」


どうやら誕生日プレゼントであることは間違いないらしい。
しかしクザンはあえて受け取らなかった。
まだ。まだ一番聞きたい言葉を聞いていない。


「・・・・・・」

「・・・・・・」


クザンの期待の眼差しとサカズキの言うのをためらっている沈黙が相成って長い沈黙が廊下に漂っていた。
そして、やがてクザンの眼差しが期待から落胆の色に変わろうとした瞬間。
サカズキはその小箱をクザンの胸にぐいっと押しつけた。
形が変わる前にそれを受け取るとサカズキはクザンの目をしっかりと見て、今日一番言いたかった言葉をようやく言ってくれた。


「誕生日・・・来てよかったな・・・」


待ち望んだ言葉は、結局他の何よりもクザンを笑顔にさせてくれた。


クザンハピバー!というわけで今回もイラストではなく小説!
こっちの更新が久々過ぎて泣ける・・・
何はともあれおめでとう!クザン!

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(10.09.21)




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