救いのお姫様 / クザサカ



※暴力表現注意


何という失態だろうか。
クザンはそう思いながら自分を嘲笑した。
口の中は血の味しかせず、身体中はひどく痛む。
座っているのが疲れたので床に寝ればひやりとした感覚に牢獄に合った冷たさだと納得する。


「あ〜・・・いってぇなぁ・・・」


クザンはそう牢の中で呟いた。



◆◇◆




海兵から連絡が来たのはつい先ほどのことだ。
革命軍の暴徒に拉致された貴族の娘を助けに行く任務に出たクザンの部下からで、その息も荒い声はとんでもない事態であることを教えてくれた。


大将青雉が、身代わりとして捕まってしまったと。


誰もが耳を疑う事実だった。
しかしあのクザンが捕まったということはどうしようもない要求でも出されたのだろう。
代わりに貴族の娘は保護することが出来たそうだ。


「・・・本来ならば見捨てることも出来るが・・・何せあの青雉だ。見捨てることは到底出来ん」

「じゃあどうするんじゃ。センゴク」


ガープとセンゴクはクザンを救出することを大前提に考えていた。
しかし相手は海賊ではなく、革命軍だ。
おそらく海賊よりも厄介な相手だろう。
何せデータにないのだ。
どんな武器を所持しているのか、どんな戦力を持っているのかさえ不明である。


「よもやドラゴンが指示しとるとは思えん・・おそらく末端の奴らの独断じゃな」


ガープの見解にはセンゴクも同意だった。
革命軍と言えども末端の中には海賊同然の思想を持った者もいる。
そんな者達は大抵革命軍から切り捨てられて、"自称革命軍"と成り下がるのだ。
そのため気にせず討ち滅ぼせるのだが、一つ問題があった。
クザンは海上で軍艦から相手の船に乗せられたため、今どこに囚われているのか分からないのだ。
どこにいるのか分からない以上、何も出来ない。
すると電伝虫が鳴り響いた。
それをセンゴクは素早く取る。


「何だ」

『元帥!今回の革命軍の元一味がインペルダウンにいることが判明しました!』

「何・・・?」


センゴクは驚いてから少し記憶を巡らせた。
そういえば以前何故かやる気を起こしたクザンが遠征で自称革命軍の一味を一網打尽にしたことがあった。
そしてインペルダウンへ放り込んだのだ。


「分かった・・・で、今どこにいるんだ」

『インペルダウンの尋問室に・・・いつでも尋問出来る準備は出来ています』

「分かった」


そう言って受話器を切り、ガープにその旨を伝えればガープは愉快そうに笑った。
だとすれば今回クザンを身代わりに要求したのは報復のためなのだろうかとも考えられるがそれはどうでもよい。
今は尋問部隊の要請をしなくてはならない。


「ガープ。この事を赤犬と黄猿にも伝えろ」

「言うたら二人が尋問部隊に志願しかねんぞ?ぶわっはっは!」


ガープはそう面白そうに言って部屋を出て行った。



◆◇◆




思った通り、革命軍の元一味は簡単には吐かなかった。
仲間意識やくだらない誇りが相成って冗談を言うばかりで本題すら話さない。
時間ばかりが過ぎていき、相手は完全に海兵達が諦めることを期待していた。


「くそっ・・・あいつ・・・なめやがって!」


交代になり海兵は忌々しそうに歯ぎしりをした。
せっかくインペルダウンから借りてきたのに全く話さない。
インペルダウンとは仲間とは言えども仲良くやっているわけではない。
時間内に返せという規約はないが、海兵には出来なかったのでインペルダウンの皆さんにお願いしますという結果だけは海兵にとって屈辱的だった。
自分はあの大将赤犬の部下だ。こんな雑務が出来ないでどうすると自分を叱咤していると後ろで足音が二つ聞こえた。


「オ〜・・・荒れてるねェ〜」

「・・・・・・・・」

「あっ!きっ黄猿殿っ!赤犬さんっ!」


自分の見苦しい姿を見られてしまったと海兵は慌てて敬礼をする。
しかしそれと同時に海兵は戦慄した。
ボルサリーノはいつものようにニコニコとしていた。
しかしサカズキは違う。
いつも以上に不機嫌で、視線だけで人を射殺せそうだ。


「・・・まだ吐かんのか」

「はっはい・・!」


サカズキの声は表情に見合った低音で殺気がこもっている。
そういえばサカズキとクザンは懇意であることを海兵は思い出した。
これは部下ならずとも海軍全体が知る周知の事実だがサカズキはそれを知らない。


「っ・・・・・」


そうだ。自分の上司のためにも是が非でもやらねば。
そんな使命感に駆られて海兵は大将たちに一礼してもう一度とドアノブに手をかけた。
しかしその手を誰かが優しく掴む。


「あっ赤犬さん」

「いい。わしがやろう」


その殺気のこもった声に逆らえる者がこの世のどこにいようか。
海兵は慌てて手を離して後ろに下がった。
するとサカズキは代わりにドアを開けて中に入る。
それを見届けた後。ボルサリーノが海兵に話しかけた。


「君はいいのかァい?」

「えっ・・・」

「中で書き留めるぐらいは手伝いなよォ」

「はっ・・・はい!」


それもそうだと海兵は今度は自分でドアを開けて、中に入る。
サカズキは椅子にも座らず男の横に立っていた。
海兵は慌てて机の上にあった紙を取り、サカズキが聞き出したことを一言一句もらさず書き留めようと構える。


「何だ。今度は新しい海兵さんかい?」

「・・・・・・」

「だんまりかよ・・・今度は引いてみる作戦に出たわけか?なぁ?」


革命軍の男はそう大口を叩いて下卑た声で笑った。
海兵はちらりとサカズキを見たがサカズキの目には怒りも何もない。
ただ無表情に相手を見下している。


「・・・貴様に聞きたいことは一つだけじゃァ」


サカズキの低音を聞いても革命軍の男は口元に笑みを浮かべたままだ。
状況を理解出来ていないのかと海兵は哀れに思った。


「お前らの本拠地は、どこじゃ」

「本拠地なんていっぱいあるからよ」


それは嘘だとすぐに分かった。
この程度の革命軍が本拠地を二つも持っているはずがない。
おそらくどこかの無人島かどこかなのだろうが、相手はそれを喋らない。


「聞いたことにゃあ答えんかい」

「だから答えてんじゃねぇか。本拠地は・・・」


そう同じことを言おうとした瞬間、目の前が一度赤くなった。
それからしばらくして男の右腕が溶けて、消えた。
海兵は一瞬何が起きたのか分からなかったが、サカズキが左腕を下ろしたため彼の能力で男の右腕が消えたのだと知る。
しかし男は何故自分の腕が消えたのか分からなかったが、すぐにやってきた激痛に悲鳴をあげた。


「場所を言うてみい。知らんわけなかろう」

「っぐ・・・・言うか・・・!」


先ほどまで余裕だった男は突然現れたこの男に初めて畏怖を抱いた。
今までの海兵ならば自分が死ねば困るのだから殺しはしないだろうと高をくくれた。
しかしこの男は違う。
嘘を少しでも言えば、冗談を少しでも言えばたちまちこの右腕のように溶かされてしまうだろう。


「あ・・・赤犬さん・・・」

「あぁ。右腕を溶かせば錠をかけるのが大変じゃのォ・・・」


海兵がおそるおそる声を出してもサカズキはわざとそう言った。
しかし顔も声も笑ってはおらず殺気は全く消えていない。
そして男の右腕を噛みきった自分の左腕を下ろし、今度は男の首を掴んだ。
突然掴まれて男はうっとうめく。


「ならば両足だけは残しといてやらんといけんわい・・・あぁ、あと口もないと困るのォ」


そうサカズキは提案したがそれに賛同する者は一人もいない。
海兵はサカズキの行動に完全に怯えていて、男は怯えるどころか生命の危機を痛いほど感じていた。
しかし最初から賛同されるつもりもなかったサカズキは自分が宣言した通りに男の左腕を右手で掴む。
触れられたことで恐怖を覚えた男は大きな声で泣き叫ぶように悲鳴をあげた。
その悲鳴に海兵は一瞬同情したが、サカズキはまるで鳥の鳴き声をうっとうしがるように眉をひそめる。


「じゃあかしいわい。静かにせんかァ」


まるで子供を宥めるような言葉を変わらない低音で呟いて、サカズキは男の左腕も溶かした。
溶岩で溶かされる痛みを海兵は知らないが、男の発狂しそうなほど痛々しい悲鳴をあげて泣き叫ぶ姿を見る限り尋常じゃないほどの痛みなのだろう。


「・・・顔もないと困るか・・・あとのうなっても困らん部位は・・・どこにあるかのう」


サカズキはそう言って床でなくなった両腕を抱えて涙を流して痛みに耐える男を見下す。
そして、また彼らしい言葉を男に投げかけた。


「ほうじゃァ・・・お前は罪人じゃけェ・・・のォ?」


その言葉は死刑宣告だった。
サカズキの言葉は脅しでも何でもない。
ただこれからやることを口に出しているだけだ。
ならばこのまま自分はこの痛みに包まれて死んでしまうのだろう。
そんな恐怖心で男は自分の命を守るために、本拠地を大声で言った。


「・・・・・・ほうか」


サカズキの手が一度止まった。
そして海兵をふと見る。
海兵は丁度書き留めた所でサカズキに聞こえた事をジェスチャーで伝えた。
それを確認してから、サカズキは溜息を吐く。


「それでも人間は正しくなけりゃあ生きる価値なぞ存在せん」


その言葉に男は目を見開いた。
最期にうつったのは赤い手で、男が最期に残した言葉は懺悔の声だった。


「・・・あ。赤犬さん・・・どこへ?」

「決まっとろうが。艦を出してその島に行って来るわい」


男がいなくなってサカズキはコートを直して足早にドアへ向かう。
先ほどと違う少し余裕のない歩みに海兵は少し驚いた。
しかしサカズキは気付かずに荒々しくドアを開けて出て行ってしまう。


「オ〜・・・終わったのかい?随分騒いでたけどォ」

「わしは騒いどらんわ・・・どいてくれんか」


廊下にまだいたボルサリーノを見てサカズキはそう言い、ボルサリーノの横を通ろうとした。
しかしボルサリーノはサカズキとまだ話したいらしく付いてくる。


「何そんなに急いでるんだァい?あとは海兵に任せなよォ〜」

「それは出来ん」


確かにこの一件は本来なら海兵に任せるべきだ。
サカズキは大将なのだからこの本部から二人も大将が消えるわけにはいかないのだ。
それは分かっているはずだがサカズキは早歩きで自分の艦へ向かう。


「・・・あぁ〜・・・そうかァ」

「・・・何じゃ」


ボルサリーノは今気がついたかのように装ってそう呟いた。
サカズキはそれを聞くためなのか一度止まってくれた。
そしてボルサリーノの顔を見る。
きょとんとした顔を見てボルサリーノはもうすでに分かりきっていることを今更分かったように言った。


「クザン君のことが心配なんだねェ〜?だからあんなおっかない拷問したわけかァ〜」

「っ!あいつが心配なわけじゃないわい!大体大将として尻ぬぐいぐらいしてやらんといけんじゃろうが!それだけじゃァ!」


長い言い訳が逆にそれを露呈させていることをサカズキは知らない。
顔も真っ赤で本当にからかうのが面白い同僚だとボルサリーノは笑う。
その笑顔にサカズキは頭に来たのかコートをひるがえして踵を返す。
今度はボルサリーノは追いかけては来なかった。


「いってらっしゃ〜い」

「うるさい!お前は仕事しちょれ!」


そう怒鳴られてボルサリーノは肩をすくめる。
そしてサカズキが完全に見えなくなった所で言われた通りに仕事をするべく踵を返した。



◆◇◆




クザンは痛々しく青くなった頬をそっと撫でた。
青キジの頬が青いだなんてどこかで面白おかしく言えないだろうか、なんて意外と馬鹿らしい事を考えていると突然爆音が聞こえた。


「うぉっ!?何?」


その異常な破壊音に床で寝転んでいたクザンは慌てて飛び起きる。
するとまた爆音が聞こえ、床が揺れた。
地震でも起きているのかと思うほど揺れたがすぐにその爆音の中に大砲の風切り音が混ざっていることに気がつく。
どうやらこの島に大砲が打ち込まれているらしく、それがイコール助けが来たということはすぐに分かった。


「・・・でもどう出ればいいんだよ」


クザンは枷こそされてはいないが、牢屋の中におり格子は海楼石で出来ているのか出ることが出来ない。
このまま沈められてしまうのではないかと思った瞬間だった。
クザンのいた建物に砲弾が当たったらしく、大きな爆音と揺れでクザンは思わず転んでしまった。
それからほぼ同時に崩れた建物の瓦礫が上から降り注ぐ。
しかし幸い自然系のクザンは無傷でいることが出来た。


「ちょっ・・・殺す気か!クラァっ!」


そう怒鳴って上を向くと空が見えた。
どうやら建物は半壊して、役立たずとなってしまったらしい。
檻も純正ではなく粗末な物だったらしくほとんど崩れていた。
これならば逃げることが出来そうだ。


「誰だか知らないけど・・・もし部下だったら給料はずんであげよ」


クザンはそう呟いて瓦礫の山をひょいひょいと歩き出した。
そして岩ばかりの道を歩いて行く。
傷は相変わらず痛々しいが身体は少し元気だ。
砲弾の飛び交う中を慣れた足取りで歩けばすぐに海岸に出た。


「うぉっ・・・!」


海岸から見える光景にクザンは驚いた。
そこにはまるでバスターコールの命でも受けたかの如く狂ったように大砲を撃つ一つの軍艦があった。
一つはサカズキの軍艦で奥の方にクザンの軍艦が停泊している。


「ありゃあ・・・やり過ぎだろ・・・」


たかが大将一人を連れ戻すために島まで沈めるか。
もしこの島が間違っていたらどうするつもりだったのだろうか。
もしこの島が無人島でなく民間人も住んでいたらどうすつもりだったのだろうか。
相変わらずある意味後先を考えない行動力に溜息が出てしまう。


「あんバカ・・・・おい!オレはここ――・・・!」


そう伝えようとした瞬間。
目の前でじゃりっと足音がした。
まさかと思い頭を上げればそこには。


「誰が・・・・バカじゃと?」

「うぉっ・・・あ、」


クザンはそう言葉を途中で切った。
遅かったとか、何やってんだとか言おうと思っていた口はサカズキの意外な表情でかき消されてしまう。
サカズキの顔はいつもの怒りもなく、いつもの呆れもない。
今までの緊張がやっと解けたような、やっと安堵出来たようなそんな表情だった。


「・・・何じゃァ・・・」

「・・・・・・いや、バカスカ撃ってるあれは何かなって」


言葉に詰まり、あれこれ悩んだ末にクザンはとりあえず大砲を連発する軍艦の意味を聞いた。
するとサカズキは振り返りそれを一瞥した後、答える。


「わしが連絡するまで撃ち続けろ、という命令に従っとるだけじゃ」

「やり過ぎでしょうが」

「大体大将が捕まるなど失態を犯すお前が悪いんじゃろうが。こっちの身にもなれい・・・・」


こっちの身にもなれ。
その言葉を待っていたかのようにクザンはニヤリと笑った。
そんな笑みにサカズキはビクリとして自分が何か変なことを言ったかと疑る。
しかしもう遅い。言質は取った。


「・・・サカズキも心配してくれたんだ?」

「しっ、しとらん・・・!」


せっかく否定出来てもサカズキは顔を横にそむけてしまった。
顔も赤く本当に感情を隠すのが下手だと笑ってしまう。
とにかくここで礼の一言でも言わないと今度は島に置いて行かれそうだ。


「ありがとう。嬉しかったよ」

「っ・・・」


そう笑えばサカズキは照れくさそうにうつむく。
そして突然右腕を突き出した。
あまりにも素早く出されたため驚いたクザンはすぐにはその手を取らずにサカズキの顔を見た。
サカズキはまだうつむいたままで表情は帽子のつばが邪魔でよく見えないが、耳を見る限りそれと同じくらい赤いのだろう。


「・・・怪我・・・しちょるんじゃろ」

「え?」

「医者も連れてきたけェ・・・早よう乗れ・・・!」


サカズキの震える声にクザンはまた笑った。
何だ。何だかんだ言って心配してるんじゃないか。
怪我自体は見た目は派手だが大したことはない。
が、この恋人に心配され気遣われるのは滅多にないのだ。ここは甘えておこう。
そう思い、クザンはその手をしっかりと握りしめた。


職場じゃ威厳見せるためにかっこいいけど、クザンの前じゃあただの乙女です。(^p^)
砲弾ぶちかましたのは革命軍達を潰すためとクザンをいぶり出すためです。
革命軍に関しては捏造です。多分そんな自称革命軍もいるんじゃないかなと思ったんです。

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(10.07.04)




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