動物占い / クザサカ



最近海兵の間では占いなるものが流行っていた。
いわゆる相性占いのようなもので、自分と相手を特定の動物に当てはめて相性占うという簡単なものだ。
それは誰が広めたのか知らないがあっという間に海軍に広がり、知らぬ者はいなくなるほどの評判だった。
しかし海軍唯一の占い非推奨派であるサカズキは女子供じゃああるまいし、いい歳した男がそれを本気でやるのもどうかという理由から手を出していなかった。
占いなんぞ所詮お遊びに過ぎないだろう。それを真面目にやるなんて。
そう考えながら執務室に戻ると中で部下の騒がしい声が聞こえる。
まだ休憩時間のため騒ぐことに問題はないのだが、何をしているのか少し気になり、サカズキはそっと部屋に入り部下の輪を遙か上から見下ろしてみた。
すると。


「・・・お前らもそういうのが好きなのか」

「あっ・・・赤犬さん!」


部下達が輪になって見ていたのは例の占いの本だった。
まさか自分の部下までやるとは思ってもいなかったサカズキは呆れたような口調でそう言う。
すると部下達は慌ててそれらを隠して敬礼した。


「別に構わん。仕事に支障が出なきゃあええわい」

「あ・・・はい・・・」


部下達はそう言ってすごすごと持ち場へ戻った。
厳格なサカズキの前でこのようなことにうつつを抜かしているのが恐縮だったのだろう。
全員が出て行ったところでサカズキは溜息を吐いてソファに座った。
そしてふと視線を下げればソファに本がある。
どうやら部下が忘れていったようだ。
本には動物占いと書かれていて、見た目はシンプルな雑誌のようだ。


「占い・・・か」


実際興味もないがそこまで人の心を掴む占いとなれば少し気にはなる。
おもむろにページを開けば占いのやり方が出てきた。
別段面倒なことはなく、質問に答えて自分が当てはまる動物を決めるだけだ。
暇つぶしには丁度良いだろう。そう思いサカズキは質問に答えていった。


「えぇっと・・・結果は・・・うさぎ?」


意外と可愛らしい動物に当たりサカズキは少し結果を疑った。
うさぎと書かれた欄には性格などが書かれていて、合っていると言えば合っているし間違っていると言えば間違っているような結果だ。
所詮暇つぶしとサカズキは続きのページをめくった。
するとうさぎと相性のいい動物がイラストともに載っていた。
相性がいいのはねずみ、猫、犬に該当する人物らしい。
クザンはどれなのかなどと無意識に考えながら次のページに目を移せば、逆に相性が悪い動物もあった。
相性が悪いのは鷹、狼、カエルに該当する人物らしいが信用出来るほどの物ではないと分かっているためあまり気にせず読み流す。
すると部屋の戸がノックされて、返事を返す前に誰かが入ってきた。
こんな入り方をするのは海軍では彼以外いないだろう。
そう思ったサカズキは雑誌から目を離さずに、返事をする。


「勝手に入ってくるな」

「いいじゃないの。オレとサカズキの仲なんだからさ」

「親しき仲にも礼儀ありじゃ」

「その割には嫌そうに見えないけど・・・ん?何それ?」


勝手に入ってきたことを正当化しながら、クザンはサカズキが持っている雑誌をのぞき込む。
別段見られたところで何も困るものはないため、サカズキは素直にその本を見せた。


「占い?あらら〜サカズキもこういうの好きなんだ」

「違うわい。部下が置いてったやつじゃ」

「ふぅん・・・あ、オレもそれやったわ。同じ雑誌じゃないの?」

「そうなのか?」


それは意外だった。
まさか同じ雑誌をクザンが持っているとは。
だとすれば相性を確認することも出来るだろう。
そんな思いつきのままサカズキは結果を訊こうとクザンの方へ振り向いた。


「お前は・・・その・・・何だったんじゃ?」

「え?オレ?ええっと・・・確か・・・あぁ狼だったよ」


それを聞いてサカズキはさっと何かが引いていくのを感じた。
確か狼は自分の結果とは相性が最悪だったはずだ。
てっきり自分とクザンの相性はいいという類の結果が出るとばかり思っていたサカズキは動揺を隠せない。
しかし今それを確認すると自分のが知れてしまうため、サカズキは生返事だけを返して雑誌を閉じた。


「結構合ってるよね。面白かったよ」

「・・・・・・」

「・・・サカズキ?」

「くだらんこと言うとらんで仕事をして来い」


サカズキはいつもの調子でいつもの言葉を吐いたつもりだった。
しかしクザンから見れば明らかに声はうわずっていて、黙っていた方が得策だっただろう。
ただ何かに腹を立てたことは分かったがそれが何なのかいまいち掴めなかったため、クザンははいはいと返事を返して仕事に行く仕度をする。
こういう時はそっとしておくのが一番だ。


「じゃあまた来るわ」

「仕事が終わったらじゃァ」


そんないつもの言葉にはいつもの力強いものは欠片もなかった。



◆◇◆




今日は珍しくクザンは大人しくしていた。
サカズキと同じベッドには居るが行為に及ぶこともなくただ隣で互いに背を向けて寝ている。
理由は至極簡単。サカズキの機嫌が悪いからだ。
何かに腹を立てて行為に及ぶ気になれないことと、それに関して自分は関係ないのは今の状況で確信している。
もしあれば同じベッドはおろか部屋にすら入れてもらえないだろう。


「ねぇ・・・・どうしたの?」

「・・・・・」

「・・・・・水でも飲む?」


そう聞けばサカズキはこくりと頷いた。
それを視認してから、クザンはベットから起き上がりテーブルに置いてあったコップに水を入れる。
名前を呼んでからサカズキに渡せば、サカズキは後ろを向いたまま受け取り起き上がって飲む。
そんなに顔を見たくないのかとショックを受けたが、こればかりはサカズキの機嫌が直るまで待つしかない。
そう思いながらおもむろにテーブルに目を向けると雑誌が置かれていた。
確か例の占いの本で、昨日の夜に読んでいたのを置きっぱなしにしていたのだろう。
思えばこれを読んだ後にサカズキが機嫌を悪くしたような。
そんな気がしてクザンは雑誌をめくる。
そして。


「あ」


適当に動物の一覧を見ていて、クザンは気がついた。
今日狼と相性の悪い動物が一匹だけいた。
それはうさぎで、クザンは少し考えて残された証拠からようやく仮説が一つ立った。


「サカズキ」

「何じゃ・・・」

「まさか占いをマジにしてるの?」

「っ!」


表情が一瞬にして変わったため、図星だと分かったクザンはからかってやろうと口を開こうとした、瞬間。
サカズキの表情が今度は今にも泣きそうな顔になってしまった。
そんな表情を見せられてはさすがのクザンも言葉が引っ込んでしまう。


「え・・・・と」

「・・・・・バカらしいなどと思うちょるんじゃろ・・・」


たっぷりの沈黙の後、サカズキはそう恥ずかしそうに呟いた。
所詮占いは占いということは分かっているのに、どうしても気になってしまう。
それがひどく腹立たしい。
一方クザンはサカズキの泣きそうな表情を何とか和らげようと必死に言葉を探している。


「思ってないよ」

「・・・・・・」

「ただちょっと・・・心外だなって」

「あ・・・?」


心外という言葉を使われて、サカズキは今度は少し憤りを感じたような表情に変わる。
しかしクザンは少し口元をつり上げたまま、ひるむことなく言葉を続けた。


「サカズキとオレの仲を占い如きに判断されるなんて・・・腹立つなぁ」


そう言いながら頭をぼりぼりと掻いたクザンの表情は苛立たしそうだ。
ただそれを露骨に出さないように取り繕っている辺り相当苛立ったのだろう。
サカズキはしばらく考えたように黙り込み、例の雑誌をクザンの手から取り上げた。
そしてそれを自身の能力で無きものにする。


「あらら」

「・・・・・・もう寝るけェ・・・!」


何故かそう吐き捨ててサカズキはぷいっとそっぽを向いて寝てしまう。
暗闇に慣れた目で見ても耳は真っ赤でその赤みがサカズキの心情をありありと伝えてくれる。
自分がくだらないことに腹を立てていた羞恥心や、クザンの言葉に対する照れくささが主なのだろう。
そんなサカズキを見てクザンはふっと笑い、四つん這いでベッドの上を移動してサカズキの近くまでやってきた。
そしてそっと肩に触れてこちらを向くように促す。
抵抗するだろうと思っていたが、意外と素直にこっちを向いてくれた。


「っ・・・・・サカズキ」

「何じゃい・・・うぉ!」


心底恥ずかしそうな赤い表情を見て、強烈な愛情に襲われたクザンは衝動的にサカズキを抱きしめた。
温かいぬくもりと共にサカズキの特徴的な匂いがクザンの鼻孔をかすめて脳内に幸福感を生んでくれて、幸せな気分に浸りながらクザンはサカズキをきつく抱きしめる。
すると答えてくれたようにサカズキもクザンの背中を軽く握ってくれた。


おまけ

「・・・ねぇ。起った」

「くかー・・・」

「ねぇ・・・サカズキ・・・?」

「くかぁー・・・」

「ね、ねぇ!ちょっ、ちょっとォ!」


占いをマジにするサカズキもいいなぁと・・・
ここからどう行為に繋げようかと思った矢先にサカズキ睡魔に負けました

----------------
(10.09.08)




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -