ヒーローは遅れて来るもんだ / クザサカ



カレンダーについた印を見てクザンはニコリと笑った。
印は8月の16日についていて、その下の欄には"サカズキのバースデー"と書かれている。
そう。あともう少しでサカズキの誕生日なのだ。
誰よりも早くおめでとうと言って誰よりもいいプレゼントを渡してあげなければとクザンは数ヶ月前から作戦を練っていて、それとなく要望を聞いてみたりしながら計画を立ててきた。
サカズキはそこらの女と違い、プッチのおいしいレストランで食事をしても、どこぞのブランドの物を渡しても喜びはしないことなどクザンはとっくに知っている。


「やっぱりこう・・・素朴な物がいいんだろうな」


そんな結論に至り、クザンは数ヶ月かけてプレゼントを考えに考えた。
そしてギリギリになって思いついたプレゼントを今日用意するつもりだ。
これならあのサカズキも喜んでくれるだろうと機嫌良く部屋の外を出る。
すると真っ先に部下に呼び止められた。


「何?」

「青キジさん。急遽任務が入りました!」


任務。
そう聞いてクザンは眉をひそめた。
まさか遠出をするような任務ではないだろうなと。
もしそうだとすれば確実にサカズキの誕生日に間に合わない。


「・・・それは・・・いわゆる遠征ってやつか」

「えぇ。場所は偉大なる航路ですし・・・時間がかかりますから遠征ですね」

「・・・・・・」


こういう時に限って自分の職業が嫌になる、と言うより海賊が嫌になる。
自分の都合も考えずに好き勝手に暴れ回る海のクズがと普段なら口にしないようなひどく自己中心的な罵詈雑言が浮かぶ。


「ボルサリーノに頼んでよ」

「青キジさん・・・黄猿殿も任務中ですよ。お忘れですか」


そうさり気なくボルサリーノに仕事を回そうとしたが部下にそう言われてしまえばもう逃げ場がなくなってしまう。
クザンは深く溜息を吐いて、状況をポジティブに考えることにした。
もし早く終わらせてすぐに帰ることが出来れば何とか間に合うだろう。
幸い自分は嫌なことをすぐに終わらせることは得意だ。


「分かった。仕度する」


クザンはそう言って部屋にまた戻った。



◆◇◆




サカズキはいつもの通り、仕事をするべく部屋へ入った。
そして戸を開けて部屋に入った瞬間だった。
ぱぁんと爆音が響き渡り、サカズキは思わず立ち止まる。
すると遅れて部下がニコリと笑って一年に一度しか言わない言葉を言った。


「お誕生日おめでとうございます!赤犬さん!」

「っ・・・あ?た、誕生日?」


部下達の異様なテンションに引きながらも、サカズキはそれだけを言った。
するとソファに座っていたボルサリーノがゆっくりと立ってサカズキに近づく。


「8月16日は君の誕生日でしょォよ。まさか自分の誕生日を忘れちまったのかい?」

「あ・・・そうじゃったな・・・覚えてくれたんか・・」


そうサカズキは照れくさそうに頭をかく。
部屋をぐるりと見渡すと部下だけではなく日頃世話をしてやっている海兵もいて、わざわざ祝いに来てくれたらしい。
真ん中の応接用の机を見ればケーキや包装された箱が置いてあり、机に乗り切らない物はソファに置いてあった。


「すまんのォ・・・気を遣わせてしもうて・・・・」

「いいってェ〜本当に君は真面目だねェ」


ボルサリーノはそう言ってニコリと笑う。
サカズキとは同期で昔からの友人だ。
そのため毎年誕生日を祝うがサカズキはいつもそう言う。
サカズキらしいと言えばそうだが、気をおくような仲ではないのだからそんなことを言うこともないのにと思ってしまう。
しかしクザンと違ってボルサリーノは細かいことは気にならない上に、サカズキもボルサリーノの好意を本当はありがたく思っているのだ。
だからその件に関して何か言うことはない。


「しかし・・・お前がおると言うことは・・・クザンもおるのか?」

「あぁ・・・」


サカズキの質問にボルサリーノは言葉を濁した。
そして言いにくそうにクザンが今遠征でいないことを告げる。
するとサカズキは一瞬寂しそうな顔を見せた。


「でも今日帰ってくるとは言ってたよォ」

「ほうか・・・まぁあんなヤツに祝ってもらいとうないわい。祝う暇があるならば仕事をしてほしいもんじゃァ」


そう言うサカズキの言葉はどこか切なげで、ボルサリーノはクザンが早く帰ってきて今年もサカズキにとって楽しい誕生日になるようにと祈った。
一方サカズキはどこか力がないような手で机の上にあるプレゼントに触れる。
大小様々な箱があり、何やらシックなデザインの箱から男が買ったとは思えないほど可愛らしい箱まで沢山ある。


「お前からのはどれじゃ?」

「わっしから?わっしからはねェ〜・・・あぁ、これだねェ」


サカズキに訊かれて、ボルサリーノはしばらく視線を泳がせた。
そして見慣れた箱を見つけてそれを指す。
するとサカズキはそれを手に取った。
重さを確認したり、外見を確認したりして中身を特定しようとしていたが分からなかったらしく元に戻す。


「じゃけェこれでは仕事が出来ん。全部ソファの上に置いといてくれんか」

「はいっ!」

「あと食い物は冷やしておけ。今日の夜に食うけェ」

「はいっ!!」


部下達の元気のいい声にサカズキはふっと微笑んだ。



◆◇◆




仕事が終わって、帰る頃には自分のプレゼントは朝の倍は増えていた。
目の前に広がるプレゼントの山を自分の部屋で見つめながら、サカズキは溜息を吐く。
こんなにも沢山のプレゼントがあって、嬉しいはずなのに、何か切ない。
その理由をサカズキは明確に理解していた。


「・・・・・・・・」


クザンからは何の連絡もなく、そろそろ12時になり16日が終わってしまう。
今年は初めて間に合わなかったのだなと思ったと同時にまだ諦めるのは早いという悪あがきのような衝動が頭によぎる。
そしてその衝動に任せてサカズキはゆっくりと立ち上がり、部屋を出た。
少し暗い廊下を歩いてクザンの部屋へ向かい、戸をノックする。しかし返事はない。
戸を開けると鍵はかかっていなかった。


「・・・不用心じゃな」


サカズキはそう呟いて、戸を開けて中に入った。
電気を付けて、物を蹴らないように気をつけて歩く。
そしてソファにそっと座って、ころんと寝転んだ。
ソファはすっかり冷えていて何の温もりも感じない。
ただ少しだけクザンの匂いが漂ったような気がして、サカズキはそっと目をつむった。
そして溜息を吐く。
あと少しで12時の鐘が鳴り日付は17日になってしまうだろう。
ついに今年は初めて間に合わなかったなと思い、寂しい気持ちを少しでも逃がそうと溜息を吐いた、瞬間だった。


「ん・・・?」


ドタバタと廊下で騒がしい音がした。
何ごとだろうかと身体を起こすと、その音はこちらに近付いて来て部屋の前で止まる。
そして戸が勢いよく開いてサカズキは驚いて身をすくめてしまった。


「くそっ!もう間に合わねぇよ!」


部屋には誰もいないと思っているクザンはそう独り言を言って部屋に転がり込む。
そして無意識に視線をソファに向けて、今度はポカンとだらしなく口を開けた。
目の前にいるのが同じくポカンとしているサカズキだと知った瞬間、クザンは大層驚いた。


「え、何でいんの?」

「っ・・・」


何故いるのかと言われてサカズキは思わず言葉に詰まった。
お前からプレゼントがもらえないからだとか、寂しいからだの言えばすぐにからかってくるに決まっているだろう。
何を言えばいいのか迷っているとクザンはゆっくりと歩いてサカズキに近寄り、隣りに座った。
迷いに迷って、サカズキはごまかすようにしてわざと質問で返した。


「・・・今日はどうしたんじゃ」

「あ・・・遠征で遅れちゃって・・・ごめんね」


クザンはすぐにサカズキが怒っているのだと分かった。
しかしサカズキ自身は怒りなどあまり感じていない。
先ほどまではクザンだけが自分を祝ってないことに切なさを感じたが、今は存外そうでもない。
来てくれたことが純粋に嬉しい。それだけだ。


「・・・早よう言わんか」

「え?」


突然サカズキがうつむいたままそう言った。
クザンは意味が分からずにそう聞き返す。


「あと50秒足らずで・・・・・17日じゃけェのお・・・」

「あっ!」


そう言えばクザンは慌てて時計を確認した。
そして騒がしくサカズキの前に座り、すっと息を吸い、今日一番言いたかったことを一番言いたい相手に言った。


「誕生日。おめでとう・・・っ!」


その瞬間時計が17日を告げる鐘を鳴らした。
最後の言葉と時計の鐘がかぶったもののサカズキにはちゃんと聞こえたらしい。
クザンはサカズキの顔を見ながら、もう少しムードのある場所で言えればいいのにだとかプレゼントを何も用意していないことを歯がゆく思った。


「で・・・わしをここまで待たせたからにはそれ相応のプレゼントはあるんじゃろうな」


実際プレゼントなどどうでもよかったがサカズキはあえて聞いた。
するとクザンは言葉を濁して、うつむく。
その態度からしてプレゼントを用意していないことを悟ったサカズキはしめたと思った。
これならいつもの仕返しが出来そうだ。


「・・・用意しとらんのか」

「よっ用意してるよ!」

「そう言うわりには何も持っちょらんじゃあないか」


サカズキの言葉にクザンは慌てて考えを巡らせる。
せっかく用意しようと思っていたケーキも花も急に入った仕事のせいで全部駄目になってしまった。
何かこの場ですぐに用意出来るものはないかと考えて、クザンはふっと思いついた。


「じゃあ・・・」


そう言いながらクザンはそっと手を伸ばしてサカズキの胸の薔薇に触れた。
そしてそれを服から外して自分の頭に当てて、苦し紛れだなと思いながらも今用意出来る精一杯のプレゼントを渡す。


「オレがプレゼントってことで、許してくれない?」


ニコリと得意の笑みでそう言えばサカズキは照れくさそうにうつむく。
まさかそう言われるとは思ってもいなかったのだろう。頬が少し赤い。
クザンはこれはチャンスだと思ったらしい。
気付かれないように口元を少しつり上げて、言葉を続けた。


「だめ?受け取れない?」

「いや・・・」


そう急かすようにして言えばサカズキはゆっくりと手を伸ばした。
そしてクザンの腕に触れて、弱々しく握った。
待ち遠しかったその温もりが皮膚から心へ伝わってくる。


「まぁサカズキのことだろうからオレよりもいい物貰ったんだろうけどね」


クザンはわざと自嘲的に言ってみた。
するとサカズキは思いきり顔を上げてそんなことないと言わんばかりの表情を見せる。
その表情が愛しくてクザンはそっとサカズキを抱き寄せた。


「・・・そう言うならどの物よりも良いことをして見せんかい・・・ばかたれがァ・・・」


そう呟いたと同時にクザンはサカズキの珍しい腕に導かれて、サカズキを押し倒していた。


サカズキ誕生日おめでとう!ということで遅れましたが書きました。
途中で体調を崩してしまい、見事に駄文になりました。ちくしょう!
たまにはサカズキが誘ってもいいじゃないか。ということでクザサカクザ仕様になってます。俺得サーセン!
とにかくサカズキさんおめでとう!

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(10.08.16)




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