私の名前 / センサカ



随分と遅くなってしまったとセンゴクは時計を確認した。
今日は珍しく自分が宣言した時間通りにあがれそうだと思っていたが緊急の用事が入り、結局その時間を過ぎてしまっている。
自分の待ち人は自分の事情をよく知っているため、遅くなったぐらいでは怒りはしないが少しへそは曲げるだろう。
何せ宣言した時間を三時間も過ぎているのだ。
今頃ベッドの上で膝でも抱えて待っているんだろうかなどと都合のよいことを考えながら、センゴクは正義のコートを脱ぎいつもの帽子を取る。
そして早々に外を出た。
しばらく歩いて、ようやく自分個人の部屋に戻る。
しかし部屋の中には誰もいない。
居間にいないとなれば寝室だろうかとセンゴクは寝室の方へ出向く。


「すまない。遅くなった」


そう中にいるであろう人物に詫びの言葉を言いながら戸を開ければ、敷かれた布団の上で予想通りサカズキが座って待っていた。
膝は抱えてはいなかったものの、いつもの和服に着替えて寝そべっていて枕に顔をうずめている。
しかしセンゴクの言葉を聞けばすぐに起き上がってセンゴクを見た。


「元帥・・・」

「名前を呼ぶ前に言うことがあるだろう」

「お・・・おかえりなさい・・・」


言われてからサカズキはそう照れくさそうにうつむいて言った。
それに満足してからセンゴクは戸を後ろ手で閉めてサカズキに近付く。
布団の上に足を踏み入れて、目の前で膝を折ってサカズキと目線を合わせればサカズキはゆっくりと手を伸ばしてセンゴクに抱きついた。


「遅かったですけェ・・・心配しちょりましたよ」

「そうか。すまんな」


そう言って背中を撫でてやれば嬉しそうに微笑む。
撫でられるのが好きなのか、センゴクが撫でてやればサカズキはすぐに嬉しそうに顔をほころばせる。
その顔が見たくて何度も撫でてやれば、サカズキは尾でもついていればちぎれんばかりに振るだろうと思えるほど腕に力を込めてセンゴクに抱きついた。
そして甘えるようにセンゴクにすり寄る。


「元帥・・・っ」

「・・・その呼び方はどうにかならんのか。サカズキ」

「ん・・・?」


センゴクの言葉にサカズキはようやく顔だけをセンゴクから離して、センゴクを見上げた。
何を言っているのだろうかと必死で考えていることが伺える目を見て、センゴクは右手でそっとサカズキの額から頭頂部にかけて撫でる。
少し声をもらしてから、サカズキはようやく理解出来たらしい。
しかし理解は出来ても長年染みついた習性は消えないようで。


「じゃけェ・・・元帥は・・・」

「ここは海軍本部じゃない。私の部屋だ」


その言葉でサカズキは押し黙った。
どうやら言うしかないようだ。しかし何やら照れくさくて言いづらい。


「どうした。名前を呼ぶだけだろう」

「はぁ・・・じゃけェ・・・どうにも慣れとらんようで・・・」


普段は言うことを何でも聞くのに、こういう些細な事だけはなかなか聞かない。
本人がそんなことはどうでもいいのではないかと思っているゆえなのだろうが、センゴクの中では職場でも布団の中でも"元帥"では気にくわない。


「呼べんのなら、私は仕事に戻るぞ」

「は・・・まだ仕事があるんですか」


実際はない。
それでもやらなくてもいい仕事は沢山ある。
それをいかにもやらねばいけないようにすればいいだけの話だ。
しかしサカズキは仕事と聞いてひどく悲しそうな顔をした。
せっかくの逢い引きなのに、また仕事に引き裂かれてしまうのが悲しいらしい。


「お前がまだ私のこと元帥と呼ぶうちはな」


元帥とは仕事上での呼び名だ。
プライベートで呼ばれて気持ちの良い名前ではない。
ましてや恋人に言われるのならばなおさらだ。
そういう意味を込めて言えばサカズキはそれを悟ったらしい。
しばらく照れくさそうに少しうつむいたまま、視線だけをセンゴクに合わせてぽつりと言った。


「セ・・・センゴク・・・さん」

「やれば出来るじゃないか」


そう言って頭を撫でれば、サカズキは今度は恥ずかしそうに微笑んだ。
布団の上で恥じらいを持ったような動作をされては、まるで新婚初夜の夫婦のような錯覚を覚えてしまう。


「それじゃあご褒美といこうか」

「?・・・んぁっ」


一瞬何がだろうと小首を傾げたサカズキをセンゴクはゆっくりと布団に押し倒した。
押し倒した勢いで襟元がはだけて、サカズキは恥ずかしそうに視線を背ける。
センゴクはその刺青の入った胸にそっと手を這わせた。
そしてゆっくりと優しく撫でる。


「あ・・・げんすっ・・・セ、センゴクさん・・・」


危うくまた名前を違えそうになったサカズキだったが、慌てて言い直す。
そしてセンゴクの愛撫に気持ちよさそうに目を閉じる。
珍しいなと思い、センゴクはふとそれを言葉に出した。


「何だ・・・ここが気持ちいいのか」

「はい・・・・」


素直にそう言われて、センゴクは少し嬉しく思いながらも撫で続けた。
そして胸から腹へ手を移動させるとサカズキはビクリと身体を動かす。
ふと顔を見れば、先ほどとは違い顔が赤く息が荒い。
欲情してきたのかと判断したセンゴクは手をそっと離して、サカズキの上に覆い被さった。


「っ・・・センゴクさ、ん」


期待通りのことをしてもらい、サカズキは覆い被さってきたセンゴクに首に腕を回す。
そしてそう切なげに名前を呼んだ。
そんな呼ばれ方にふと思いついた案をサカズキに言ってみようかとセンゴクは口をゆっくりと開く。


「職場でもそう呼んでくれると嬉しいんだがな」

「っ・・・ええんですか・・・?」


そう聞くあたり本当は呼びたかったのか、それともただの確認か。
どっちだろうかと考えながら、センゴクは目で肯定した。


絵チャで滾った気持ちを一時間で文にした低クオリティセンサカ。
こんなセンサカもいいと思ってる。

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(10.08.01)




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