好き好き愛してる / クザサカ



「あー・・・疲れた・・・」


クザンはそう呟いて、机に突っ伏した。
溜めに溜めていた仕事はいつも定期的に激務に変わり、クザンの身にふりかかる。
それは自業自得なため、誰かが自分を気遣ってくれるわけでもない。
そして今日も先日来た定期的な激務に追われてたった今終わったところだ。


「眠ぃ・・・」


そう言って疲れた目をこする。
この激務が来るたびにクザンはサカズキに会う時間も削って仕事をするのだ。
いつもより数倍疲れてしまう。
とりあえずこの書類を持って行かせなければと部下を呼ぶために立ち上がった瞬間だった。
戸がノックされて、一人でに開く。
クザンは部下がタイミングよく現れたのかと思ったが、違った。


「おぅ。仕事は終わったんか」

「あら、サカズキじゃないの」


入ってきたのは意外にもサカズキだった。
いつもの服装であるところを見るとまだ仕事中なのだろう。
しかし仕事中なら本来は持っていなさそうな物を持っていることにクザンは気がついた。


「何それ」

「あぁ・・・仕事が終わったのならばこれをくれちゃろう思うての」

「ん?」


サカズキはそう言って持っていた紙袋を渡した。
それをクザンは反射的に受け取る。
中を見ても良いかと目で確認を取れば、サカズキはコクリと頷いた。
それを確認してから中を見るとさらに透明な袋に包まれた物が出てきた。
袋を破り、中の物を取り出すとそれは一風変わったアイマスクだった。
触ると何やら心地よい温もりを感じる。


「何?これ」

「町に売っとってのォ。目を温めて疲れを取ってくれるそうじゃァ」

「ふぅん・・・」

「お前にゃあ、あつらえ向きじゃろう?」


サカズキはそう言って微笑む。
確かに今の自分にはかなり合った物だ。
それにあのサカズキが自分のことを気遣って買ってくれたのだと思うとなおさら嬉しい。


「ありがとう。嬉しいよ」

「お・・・・そうか。んなに喜ぶとは思いもせんかったわい・・・」


そう照れくさそうに頭をかきながらサカズキは視線を下に落とした。
とりあえずいつもの言葉が聞いておきたくてクザンは言葉を続ける。


「じゃあサカズキが大好きなオレのために買ってきてくれたアイマスク付けて寝ようっと」

「なっ!だっ誰がお前のためじゃあ言うた!それで仕事がはかどりゃあええと思ったんじゃい!」

「はいはい」


クザンは今にも鼻歌を歌い出しそうなほど機嫌よく自分のアイマスクを取り、ソファに寝転がった。
そしてサカズキから貰ったアイマスクを付ける。


「あ〜・・・気持ちい〜・・・」

「おい!聞いとるんかっ!」

「んー・・・後で」


きっとサカズキは顔を真っ赤にして自分の前で怒鳴っているのだろうなと思いながら、クザンは目を閉じる。
気持ちよくて深く寝入ってしまいそうだが自分の睡眠は浅い。
すぐに起きられるだろうとクザンは遠慮なく寝入った。


「おい!クザ・・・なんじゃ。寝たのか」


クザンが寝息を立て始めたため、サカズキは怒鳴るのをやめた。
さすがに起こしてまで自分の怒声を聞かせることもないだろう。
ただでさえ今日は大声を上げすぎて疲れているのだ。


「・・・本当に仕事終わったんじゃろうな・・・」


サカズキはそう呟きながら机の上に置いてある書類の束を手に取り、一枚一枚確認する。
確かに全ての書類にサインがあり、仕事をしたことは確認出来た。
この一週間で彼なりに頑張ったのだろうと思えば、このアイマスクは渡したことは特に恥じることもないかとサカズキは気を強く持った。


『そうじゃァ。これは日頃の苦労をねぎらうために買うたもんじゃ。別に他意などない』


そう脳内で誰に言うわけでもない理論を作った後、サカズキは書類を机に置いてソファで眠るクザンに近付いた。
そしてクザンの顔をそっとのぞき込む。
利き手の側面はインクで黒く汚れていて、よく見れば少し腕が細くなっている気がする。
そう言えば食事もろくにしていなかったとクザンの部下から聞いたなとサカズキは思い出した。


「・・・・・」


一度クザンのために記憶をまさぐってしまえば、なかなか中断することが出来なくなることをサカズキはまだ気がつけない。
そしてまた無意識のうちに記憶をまさぐって、一週間しゃべっていなかった事や、肌を重ねるような事もしていなかったと思い出す。
さすがにクザンのように今すぐ行為に及びたいなどとは考えないが、そうだったなとサカズキは他人事のように思い出し、ふと熱を帯び始めた唇で実感する。


『寝とるん・・・じゃろうな』


サカズキは事実確認をするべくクザンの頬をつついた。
しかしクザンは全く起きない。
寝ているのだ。そう確信した瞬間、サカズキは誘われるようにしてクザンの頬を両手で包んだ。
それでもクザンは起きない。
サカズキはそれを良いことにそっと口付けた。
普段は自分からやらないだけに、気恥ずかしくて触れるだけで精一杯だ。
しかしいざ口付けてしまえば、もう少しだけしていたいという思いにかられて離せなくなる。
今は羞恥やら戸惑いやらでむさぼるように口付けをしようとは思わない。
ただ今はクザンと触れてるだけでいいかと少女のようなことを考えながら、サカズキはクザンの唇に自分の唇を当てていた。
するとクザンが少しうめいた。


「んっ・・・」

「っ!?」


慌てて唇を離すとクザンは少し身じろぎしただけですぐにまた寝入る。
ばくばくとやかましい心臓を押さえながらサカズキはまたそっとクザンに近付いた。
クザンは寝ているのか寝息が聞こえる。


「っ・・・紛らわしいぞ・・・」


サカズキはそう呟いて、クザンをじっと見つめた。
クザンの口は先ほどの身じろぎのせいで半開きになっていて、綺麗に揃った歯列の奥に赤い舌が見える。
サカズキは今ならクザンのたわ言に少し同意出来そうだと思ってしまった。
極力潰さないようにクザンの上に乗り、頬を両手で包んで口付ける。
クザンが寝ているという事実と今更恥ずかしがることもないという気持ちが入り交じって、サカズキはそっと舌を入れた。
全く動かないクザンの舌を撫でたり、歯列や舌の裏側を愛撫しているうちに羞恥はどこかに消えて幸福感のような快感が心を満たす。
今ならクザンが自分にやたらキスをねだるのが理解出来たような気がする。
そう思ってふっと微笑もうとした瞬間だった。


「っん・・・?」


何か違和感を感じた。
気のせいかと思ったがこの熱には覚えがある。
そう思ってふと後ろを振り返り、思わずさっと血の気が引いてしまった。
サカズキは今、クザンをまたいで腹の上に乗っている形になっている。
そしてサカズキは偶然にも丁度クザンの股間のやや上に腰を下ろしていたため、その異変にはすぐに気付いた。


「・・・おい・・・クザン・・・」


サカズキは唇を離して、クザンの上に乗ったままそう低い声を出した。
明らかに怒っているような声にクザンは思わずピクリと身体を動かしてしまう。
サカズキの突然の甘えに耐えきれなかったのであろう。
クザンのそれはすっかり起っていて、サカズキの尻に当たっていたのだ。


「お前・・・起きとるんじゃろうっ!」

「いってぇっ!」


てっきり寝ているのだとばかり思っていたサカズキは騙されたという怒りに任せてクザンの頭を引っぱたいた。
叩かれたクザンは悲鳴を上げてアイマスクを取る。
実はもうそれはすでに冷え切っており、そろそろ起きようかと思っていた矢先にサカズキから口付けを受けたのだ。


「狸寝入りとはええ度胸じゃのォ!このわしを騙しおって・・・っ!」

「痛い痛い!ちょっ・・・たんま!」


サカズキに胸ぐらを掴まれてクザンはやめるように言ったがサカズキの怒りは収まらない。今にも溶岩が飛んできそうだ。
そしてその拳が振り下ろされるのが見えて、クザンは危険を察知し、とっさにサカズキを拳ごと抱きしめた。


「っんぐ!はっ離せっ!」


突然抱きしめられてサカズキはそうクザンを怒鳴りつける。
しかしクザンはニコリと笑ったままだ。
その笑顔にまた腹を立てたのかサカズキの顔はますます険しくなる。
サカズキのその顔を自分好みの表情にさせたくて、クザンはそのまま言葉を発した。


「だって大好きなサカズキにキスされたら、起っちゃうよ」

「っ・・・!」

「サカズキだって自分からするってことは我慢出来なかったんでしょ?」


そう聞けばサカズキはかぁっと顔を赤くしてうつむいてしまった。
図星をつかれてしまい、サカズキの立場はどんどん急降下していく。
確かに言われればそうだ。
ここ一週間何もせずに過ごしてきたために無防備なクザンを見て抱きしめたくなったのも、キスをしたくなったのも事実だ。
しかしサカズキはその事実を開き直ってそうだと言えるような性格ではない。


「んなわけなかろうがっ・・・!」

「それにさっき。オレのために買ってきたことは否定したけど大好きってところ否定しなかったでしょうが」

「っうぐ・・・」


サカズキはそんなことないと怒鳴りたかったが、否定するには証拠が揃いすぎていた。
そのため黙ることしか出来ない。
するとそれをいいことにクザンの口は止まることなく動き続ける。


「サカズキも・・・オレのこと大好きなんでしょ?」

「っ・・・・・」


そうとどめを刺すように言えば、腕の中の恋人は恥ずかしそうにコクリと頷いてくれた。


定期的に訪れるサカズキのスーパーツンデレタイム。
ちなみにクザンかっこいいが実は起っているのがミソです。
うそです。途中で起たせてること忘れました←

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(10.07.27)




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