おやすみください / クザサカ



突然センゴクから電伝虫でサカズキに連絡があった。
至急来て欲しいと言われ、不安な気持ちを抱きながら焦って指定の部屋へ行けば。


「いらっしゃい。サカズキ」


ピンクの集団がいた。
正確にはピンク色のエプロンをした海兵の集団だ。
中にはサカズキの部下もいて、勿論クザンの部下も違う部隊の海兵もいる。
こんな状況を見てサカズキはすぐに面倒ごとに巻き込まれる流れだと察した。
何故元帥が協力しているのかだとか、何故この部屋にこんな集団がだの考えている場合ではない。


「帰る」

「まー待ちなさいって、ほらいい男がいっぱいいますよーお兄さん」

「わしにそんな趣味はない」

「冗談だって」


冗談。
これが全て冗談であれば何と嬉しいか。
それでも海兵達の真面目な姿を見るとどうしても冗談に思えない。
まるで自分だけがまともではないようだ。
そう呆けていれば突然クザンが抱きついて来た。


「まぁこっちの方が冗談であってほしいけど」

「んなっ!腰を触るな!変態が!」

「うーん・・・やっぱり」


そう言ってサカズキから手を離す。
そして悩むようにして首を傾げた。
何がやっぱりなのだろうかと気になる反面、それが何なのか聞きたくない自分もいる。
しかしクザンは何の遠慮もなく、自分の思ったことを述べた。


「痩せたでしょ。サカズキ」

「何を言うちょるんじゃァ」


何を言い出すのかと思えばそんなことか。
サカズキはそう思った。
最近体重は計っていないが少しは痩せたかもしれない。
原因は最近自分の仕事が激務になり、鍛錬はかかさなかったが食事をろくに取らなかったからだろう。
しかしクザンは原因を知るよしもない。
そのためサカズキは否と言い張り、この場を乗り切ろうと思った。
しかし。


「だって最近ご飯を食べていないと部下の方々から聞いたもんで」

「余計なお世話じゃァ。一週間食べなくても死にゃあせん」

「でも不健康だよねぇ」

「何が言いたいんじゃァ!」


聞きたくはないがサカズキは遠回しな言い方は好きではない。
自分が痩せたこととこの状況に何の関係があるのか。
はっきり言えと意味を込めて睨めばクザンはそれをひどく分かりやすく教えてくれた。


「いやね、サカズキにご飯食べてもらおうと思って提案したら。みんな作ってくれることに」

「いらん」

「・・・・・・」


サカズキが断った瞬間。
クザンだけではなく部下までもが悲しそうな顔をした。
おそらく心底心配しているからこそこの案に乗ったのだろう。
海兵達の座らないと末代まで祟りかねない目を見てサカズキは溜息を吐いた。


「・・・いや・・・頂こうかのう」

「やった!サカズキ大好き!」

「っ別にお前のためじゃあない!あいつらは心配しちょるんじゃろう?それにちょ、丁度腹が減っていたけェのお!」

「そんな可愛いこと言うと夜這いかけたくなっちゃうな」

「気色悪いことを言うな、変態が!」


クザンの戯言は放っておいて、とりあえず用意された椅子に座るとさっそく料理を出された。
視線を降ろしてそれを見て、これは何だろうかとサカズキは疑問に思ってしまった。
しかし紹介がされないため、一応聞いておく。


「何じゃァ・・・これは・・・」

「たしぎ少尉作のオムライスです」

「・・・これがか?」

「栄養面を考えて卵に自家製青汁入れました!」


たしぎが後ろからそう説明を入れる。
青汁と聞いてサカズキは顔をしかめた。
食わず嫌いをしているわけではない。
しかし緑色のオムライスなど人生で初めて食べる。
いかんせん嫌な方向に味の想像がついてしまう。


「自家製か・・・何を入れとるんじゃ」

「今日は我が部隊総出で作りました!おばあちゃんが育てている薬草入れました」


そのおばあちゃんが何者なのかは知らないがそれなら安全かもしれない。
サカズキはそう思ってオムライスを割ってみた。
中は普通のケチャップライスで美味しそうではある。
しかしこの緑色の卵が食欲を限りなく落としてくれる。


「それじゃあ頂くとする・・・」

「はい!」


そう言っておそるおそる口に運ぶ。
そして口に入れて舌に触れた瞬間だった。


「うっ・・・」


思わずうめいてしまった。
結論から言えば不味い。かなり不味い。
しかも舌がぴりぴりと痺れて薬草と言うよりは痺れ草のような気がした。
とにかくこれ以上食べると命の危険が及ぶと容易に判断出来る。


「どっ・・・どうですか?」

「人を殺せそうな味だな」

「それはどういう・・・」

「不味い。捨てろ」


そう真実を言って切り捨てればたしぎはがっくりとうなだれて食事を提げる。
サカズキは出だしがこれではそのうち殺されてしまいそうだと悟り、もう帰ることに決めた。


「帰るぞ」

「もう帰るんですか!もうちょっと食べたら・・・」

「これ以上いる暇も理由もなくなった」

「ちょっと!赤犬殿!」


呼び止められても止まるものかと心に誓いサカズキは歩き出す。
口の中はまだ痺れていてサカズキは舌で口の中を舐めてみた。
やはり妙な味が舌を刺すため、部屋に帰ったらまずお茶を飲もうとも決める。
しかしドアのノブに手をかけた瞬間、その手を凍らされてしまった。


「おい!離せっ!」

「だめだよ。まだデザートも出てないじゃないの」


クザンの言葉にサカズキは顔をしかめた。
もうデザートなど期待すら出来ない。
しかしクザンは凍ったサカズキの手を引いて、椅子に再び戻した。
そして無理矢理座らせる。


「それじゃあデザートに移ろうか」

「貴様ふざけるな!帰せ!」

「それじゃあボルサリーノお願いしまーす」

「オ〜・・・任せといてェ〜」


ボルサリーノがそう言って出したのは一切れのケーキだった。
生クリームがこれでもかと乗せられたショートケーキで、見た目は普通だが甘そうである。


「よもやお前まで妙な物を入れたんじゃなかろうな・・・・・・」

「そんなに疑うならオレが食べてあげましょうか?」

「いらん。ちゃんと食うわい」


そうは思ったもののボルサリーノはニコニコと笑っているだけだ。
とにかく変なものは入れていないのだろうと判断してそれを口に運んだが、すぐに止めた。
海兵達の視線が痛々しく刺さっているのだ。
おそらくちゃんと食べてもらえるだろうかだとか、また捨てられないだろうかと不安なのだろう。
しかしその視線はサカズキに取っては苦痛でしかない。


「そんなに見るな。食いづらいわ」


サカズキの言葉で全員がさっと目をそらした。
それを確認した後、口に入れて味わう。


「どう?」

「不味くはない」

「オ〜良かったァ〜」


そうボルサリーノは嬉しそうに笑った。
しかしその瞬間、サカズキの身体に異変が起きた。


「うっ・・・」


頭がガンガンし、意識が少し遠のく。
まさかケーキのせいかと思うがボルサリーノの意外そうな顔からして違うのだろう。
しかしクザンはニヤニヤとしてこちらを見ている。
だとしたらこの中で怪しいのは彼しかいない。


「あらら・・・?」

「っ・・・貴様ァ・・・!」


そう睨んでもクザンは肩をすぼめておどけてみせるだけだ。
しかし周りは気がついていないのかサカズキが突然気分を悪くしたのだと思っているらしく心配そうな目で見ていた。
戦桃丸は何やらあせったような目で見ている。


「帰る・・・もう・・・食わん・・・」


とにかくまだ歩けるうちに帰らなければ。
サカズキはそう思い、椅子から立ち上がってドアまで歩き出す。
しかし足下はフラフラとしていて、めまいがひどい。
部屋で仕事を出来る状態なのだろうかとさえ思うが、今ここで倒れるよりは自室で倒れた方がましである。


「それじゃあオレが送っていこうかな」


クザンはそう言ってサカズキの身体を支え、歩き出す。
弱々しいサカズキとクザンでは歩行速度が違うため、サカズキは追いつけずに転びそうになりながらクザンに付いていく。


「おいっ・・・いらん!自分で帰るっ・・・!」

「遠慮しないしない、さー行きましょ行きましょ」


そう言いながらクザンはサカズキを連れて部屋を出て行った。




◆◇◆





「んぐっ・・・!」


連れてこられたのはサカズキの自室でも執務室でもなく、クザンの自室だった。
しかしサカズキにはすでに物事を理解する能力は欠如していて、ただクザンが導く通りに部屋に入り、ベッドに投げ出された。


「おい・・・ここどこじゃァ・・・」

「さぁ?どこでしょうか」


そう問いながらクザンはサカズキの腹を撫でる。
別段いつものように襲うつもりはない。
しかしサカズキは薄目を開けて、クザンを見ている。
そんな仕草が少し誘われる気がするが、ここは耐えどころだ。


「みんなの作ったご飯。美味しかった?」

「・・・いや・・・ただ・・・」


美味しかったと聞かれてもサカズキはイエスとは言えなかった。
緑色のオムライスに、薬の盛られたケーキ。
何の嫌がらせだろうかとさえ思ってしまうが、不思議と怒鳴りたくなるような拒絶はしたくなかった。
やっていることは空回りしていても、ああも真面目な顔を見せられると咎められなくなる。


「・・・今度は・・・まともな・・・飯を用意してくれ」

「うん。分かった」


クザンがニコリと笑えばサカズキはそこで意識が途切れたのか目を閉じた。
とりあえず暇になったクザンは溜息を吐いて自分が提案したことを思い出した。
今回の企画は普段いつも休めないサカズキを休ませる事が目的だった。
そのためにたまたまその場にいたたしぎ少尉と戦桃丸を捕まえて相談をした。
するとたしぎは女性らしく、美味しい料理を作ってサカズキの腹を満たさせることを提案し
そして戦桃丸は普段休めと言っても休まないサカズキを無理矢理でも寝かせようとベガパンクの所から睡眠薬を持ってくると提案。
じゃあ自分は寝たサカズキを連れて行く役目をと言った矢先にセンゴクが現れて、自分が呼び出す役を買って出てくれた。
しかしたしぎの言葉でほとんどの海兵に広まり、あんな大げさな人数が集まったわけだ。
そして提案に提案が重なり、目の保養だとか言い出した誰かがピンクのエプロンをそろえてくれたのだ。


「半ばみんなはしゃぎたかっただけだよねぇ・・・」


まさか緑色のオムライスを作るとは思っていなかったが、それでも結果的には休ませることは成功したのだ。
結局は結果オーライだろう。


「まぁ・・・今度はオレが直々に作ってあげるけどね」


今度は違う薬でも入れようか、それともまともに作って喜ばせようか。
そんなことを考えながらクザンは横で眠るサカズキの頭を撫でた。


何が書きたかったのかよく分からないけれどサカズキはみんなに愛されてばいいと思うよ。
何でクザンの自室かって言うとサカズキの自室だと抜け出して仕事するからです。

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(10.07.04)




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