酒の化けの皮剥がし|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||


仕事が上手くいった後の酒は最高だ。
彼は決まって仕事が上手く行くと酒を買う。
前は苦汁を舐めたような客の顔を思い出し、肴にして一人酒を飲んでいたが今は違う。
何故なら今はいい酒の肴を作ってくれる恋人がいて、一緒に飲んでくれるから――・・・・


そう言えば聞こえはいいが、その当の恋人であるサカヅキは別に好きで付き合っているわけではない。
まさに嫌々無理矢理付き合わされているのだ。自分にだって自分の時間があるのだから。
そのせいだろうか。サカヅキのそれはいつの間にかやけ酒になっていて、飲んだ量は明らかに偽犬より多かった。


「何だ。もう酔ったんか?顔が赤いぞ」

「子供じゃああるまいし・・・酔うかァ・・・」


そんな強がりを言うが誰が見ても酔っているようにしか見えない。
ソファーにだらしなくもたれかかる姿は普段中将と呼ばれている時のとはほど遠く、普段近付くだけで嫌そうな顔をされる偽犬が隣に座っても何も言わないほどに判断力も理解力も落ちているようだ。


「まぁ今日は泊まっていけや。明日ちゃあんと家まで送ってやるけェ」

「んぅ・・・すまん・・・」


そう偽犬が肩を抱いて引き寄せるとサカヅキは肯定的な返事をしながら偽犬の肩に寄りかかり彼の右手に触れ、愛しげに撫でた。
この珍しくいい空気に偽犬は心の中でほくそ笑む。
本当に今日はいい日だ。
仕事は上手くいくわ、恋人が珍しく甘えてくるわ、明日豆腐の角に頭をぶつけて死ぬのではないか。
そう心配してしまうほどだ。


「サカヅキ・・・」


試しに優しく名前を呼びながら普段真一文字に固く結ばれたものとは違う無防備に開かれた唇にゆっくり近付きキスしたが一切抵抗されることはなかった。
舌を入れて深くゆっくりと味わおうとすると、やはり珍しく応えようと喉をのけぞらせて座高の差をうめようと努力してくれている。


「んはァ・・・・あッ・・・」


そのまま右手をサカヅキの太ももに滑らせて撫でるとまた甘美な声が漏れ、中心に集まる熱に耐えきれなくなってきたのか内股気味に足をもぞもぞと動かし始めた。
その姿から押し倒し挿入すればどれほど喘ぎ悶えてくれるのだろうか、と連想してしまえばもう終わりだ。


「待て・・・っ!」


手が性的な動きを強めたところでサカヅキは突然初めて静止の声をあげた。
この展開で伝えたいことなど何があるのだろうか。女じゃあるまいし。
しかしサカヅキの表情がこんなにも真剣みを帯びているのだからさすがの偽犬も待たないわけにはいかなかった。


「わ、笑わないで・・・聞いてくれるか・・・」

「ん?何じゃ改まって」


そうサカヅキはためらいながら偽犬を見つめる。
一体何を聞きたいのだろうか。偽犬には皆目見当もつかなかったが、この場で言うのだから大層色っぽい話に違いない。
愛の告白か。いや、優しくしてくれと言うのかもしれない。
どっちにしろ最高の答えを用意しておこうと偽犬は様々なパターンとそれに見合う同じ数の返答を頭の中に浮かべる。
しばらくしてからサカヅキは散々ためらった口をゆっくりと、開いた。


「お前・・・・名前は何と言うんだ・・・?」

「・・・・・・・・・あ?」


サカヅキの質問は偽犬が考えていたような色っぽい質問ですらなく。
あまりにも基本的で前述した恋人という言葉すら薄れてしまうような質問であった。


「お前はオレに名乗ってくれてないだろう・・・兄貴だってお前のこと名前で呼ばんから・・・名前が・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・笑うなとは言ったが・・・・怒るのもやめてほしいんだ、が・・・」


偽犬の沈黙に耐えきれなくなってきたのかサカヅキは偽犬の機嫌を取ろうと必死だ。

偽犬はサカヅキに名前で呼ばれたことがない。
しかしそれはサカヅキが自身に心を許してないからであるとばかり思っていた。
だからいつまでも“お前”だの“貴様”だの呼んでいるのかと思っていたが、どうやらただ単純に知らなかっただけだったらしい。
確かに面と向かって名乗ったことはあまりなかったかもしれないが、全く知らないとは予想外だった。
しかし。


「サカズキだ。ちゃんと覚えとけ・・・」


酔い任せの質問でも、自分の名前を聞く辺り本当は名前を呼びたかった時があったんだろう。
でも呼べなくて、でも今さら聞くのも悪い気がして・・・そんなもどかしい思いでいたのだろう。
だからそんな理性が薄れた酒の席で聞いてきたのだ。

そうだ、酒は理性を壊し本音を晒してくれるいい薬なのだから。
今日のサカヅキが普段建前に隠れた本音なのだろう。
偽犬はそう思っておくことにした。


何が書きたかったのか?
・・・・デ、デレ次男?

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(11.08.24)




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