休日の昼、部屋にて
        

休日の昼間。
サカズキとさかずきは居間で各々の時間を過ごしていた。
しかし今日はいつもの騒がしい男がいない。


「にぃにぃ。にーちゃんがおきてこないね」

「ほうじゃのぅ・・・」


サカズキは新聞に目を通しながらさかずきの言葉に相づちをうった。
あのやかましい次男のサカヅキは今日は死んだように眠っている。
昨夜長い長い遠征からようやく帰って来たサカヅキは、疲れていたのかすぐにベッドへ向かい眠ってしまった。
そして今も起きて来ない。


「エンセーってそんなにつかれるのかなぁ」

「わしゃあもう慣れたがのう・・・まぁ中将になって初めての遠征じゃけェ。色々疲れることもあるじゃろ」


兄の説明にさかずきは納得したように頷いて、またお絵かきを始める。
するとさかずきの腹がぐぅっと音を立てた。
その音に気がついたのかサカズキは新聞から目を離してさかずきに視線を向ける。
さかずきは恥ずかしそうに目をそらしてうつむいた。


「腹ァ減ったのか」

「・・・うん」


時間的にも丁度昼食の時間だ。無理もないだろう。
そろそろ作るかと立ち上がるとさかずきは今度は勢いよく頭を上げて、兄に駆けよった。


「でも!おれにーちゃんともたべたいよ!」


さかずきの言葉が心底意外だったのかサカズキは驚いたように目を見開く。
そしてニコリと優しい笑みを浮かべてさかずきの頭を撫でた。


「そうじゃな。三人で食わんとつまらんしのう」


そう言えばさかずきはニコリと嬉しそうに笑った。
その笑みを視認してから、サカズキは踵を返してサカヅキを起こすために弟の寝室へ向かう。
部屋を開ければ案の定ベッドの上に大きな塊があり、上下に規則正しく動いている。


「ったく・・・ほれ。起きろ」

「んぁ・・・」


愛しの兄の言葉も届いていないのかサカヅキはそう言って寝返りを打った。
仕事場ではフードで隠している顔が布団から覗いているが目は完全に閉じられている。
こうして黙っていれば女ウケしそうな顔立ちなのにと思いながら、サカズキは弟の身体を揺する。
しかし起きる様子はない。


「ったく・・・おいさかずき。起こしちゃれ」

「うん」


いい加減疲れて来たサカズキは弟に頼むことにした。
弟なら何かいい起こし方をしてくれるだろう。
そんな特にあても何もない思いつきだったがさかずきは嫌がることもなくその任務を引き受けてくれた。


「何してもええわい。起きんかったら乳首に洗濯ばさみでも挟んでやれ」

「えぇ?いたいよぉ」


サカズキはそう言っていたずらっ子のような笑みを浮かべて冗談交じり提案した。
さかずきもそれを分かっているため、笑いながらそう言う。
しかしやはり好奇心が勝ったらしく洗濯ばさみを二つ取り出した。
サカズキも普段のやり返しを狙ってあえて止めない。


「じゃあやっちゃうぞー!」

「おぅ。やっちゃれやっちゃれ」


兄に後押しされてさかずきは兄の腹の上に乗って洗濯ばさみを両手に持ち、ほぼ同時にサカヅキの二つの突起部分を挟んだ。
その瞬間サカヅキは期待通り、身体をビクリと震わせて痛そうに顔を歪める。
しかしサカズキが計画通りだと口元をつり上げようとした、その瞬間だった。


「っ・・・はぁ・・・」


サカヅキが妙な溜息を吐いた。
嫌な予感がして思わずさかずきを抱き上げて引き離す。
さかずきは状況を理解していないのか、きょとんとした顔で二人を遠いところから見ていた。
様子を見ようとサカズキはサカヅキの顔をのぞき込むと、サカヅキは妙に艶っぽい声で息荒くポツリと呟いた。


「はぁ・・・兄貴ィ・・・もっと・・・ぁん・・・」

「―――っ!!」


どんな夢を見ているのかサカヅキはそう口元を緩めて言った。
そんな姿の弟が見ていられなくてサカズキは慌てて洗濯ばさみを取る。
するとサカヅキはまた痛そうな顔を見せて、ゆっくりと目を開けた。


「ん・・・あ、兄貴・・・?」

「バっ・・・こっち見るなァ!バカタレがっ!!」

「い゛っ!」


本人は特に他意もなく目の前に兄がいたからそう呟いたのだろう。
しかしあのような発言があった後ではサカズキはもう冷静ではいられなかった。
拳を振り上げてサカヅキの腹に思いきり叩き込んでしまった。
突然の横暴な態度にサカヅキは痛みに悶えながらサカズキを見る。


「あぐっ・・・なっ・・・なんだ・・・っ!何か悪いことしたかっ・・・!」

「じゃあかしいわい!早よう起きんけェ!起こしに来たんじゃっ!」

「嘘を言うなっ・・・!なら何故俺がこんな仕打ちを受けないといけないんだァっ・・・!それに乳首も妙に痛いぞ!」


相当効いたのかサカヅキはまだ悶えている。
すると存在をすっかり忘れ去られていたさかずきがちょこちょこと歩いてきて心配しているのかサカヅキのベッドによじ登り兄の頭を撫でた。


「だいじょうぶ?」

「う・・・お前だけだ。俺を心配してくれるのは・・・」


味方の存在にようやく気がついたのかわざとらしくさかずきを抱き寄せて大げさに泣き真似をした。
そんな茶番劇を見ながらサカズキは頭を抱えながら溜息を吐く。


「あぁ、そうだ。兄貴は俺に何をしてたんだ?」

「え・・・」


サカヅキに問われてさかずきはしまったと言う顔をした。
そしてサカズキをちらりと見る。
言うか言うまいかサカズキに判断をゆだねているのだろう。
サカズキは急いで首を横に振って言うなと意思表示をした。


「ひ、ひみつだよ!」

「・・・・・・・・・」


そんな露骨に怪しい隠し方があるだろうか。
起きたらば殴られるし、乳首は痛いし、何かあったことは確実だ。
とりあえずサカヅキは兄が嫌がることを承知でさかずきを前にしていつもの調子で口を開いた。


「・・・兄貴・・・」

「何じゃ・・・」

「まさかさかずきと一緒に俺の乳首吸ったんじゃあないだろうな?あぁやっぱり兄貴もたまには吸う側に回りたかったん・・・っうぐぁ!」


いつもの口調が言い終わる前にサカズキのげんこつが顔面にめり込みサカヅキは後ろに倒れた。
その隙にさかずきを抱き上げて、さっさと部屋を去ろうとサカズキは踵を返す。
しかしふとさかずきの顔を見て、本来の目的を思い出したサカズキは足を止めた。


「顔面の痛みが引いたら居間まで来い・・・昼飯を食わせちゃるけェの・・・!」

「あっ・・・兄貴っ・・・」


そう言ってサカヅキの返事が返って来る前にサカズキは戸を思いきり閉めて、出て行ってしまった。



おまけ


「おはよう・・・」

「あ、にーちゃん!・・・うわぁ!かおひどいよ!」

「全くだ・・・兄貴の大好きな俺の顔が台無しだ・・・なぁ兄貴」

「おぉ、サカヅキ。いつも以上にひどい顔じゃのう。目も合わせられんわい」

「っ・・・!」


兄貴も結構ひどいことするけど、それ以上にひどい弟

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(11.08.24)




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