おねしょ
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何やら気持ち悪い感覚を覚えて、さかずきは目が覚めた。
真っ先に嫌な予感がして布団をそっとめくる。
するとそこには黄色い染みが付いていた。
「あ・・・・」
それを見てさかずきはがっくりと肩を落とした。
どうやらまたやってしまったらしい。
さかずきはびしょびしょになったシーツと自分のパジャマを見比べながら呟いた。
「・・・・ないしょに・・・しようかなぁ」
兄に言えばまたかと叱られてしまうだろう。
しかし隠しておけば見つかった時に倍、怒られてしまう。
どうせ怒られてしまうなら、素直に言った方がいいのではないか。
そう思ったさかずきはゆっくりと起き上がり、まずは濡れて気持ち悪いズボンと肌着を着替えた。
そして兄に報告するべくそっと部屋を出た。
◆◇◆
サカズキは布団の上で荒い息を押さえるかのように枕に顔をうずめていた。
身体は鉛のように重く、動くのが面倒だとさえ思ってしまう。
しかしシーツはサカヅキや自身の精液で濡れており、汚れが染み込んで取れなくなる前に洗いたい。
けれども身体が重い。
もう一眠りしてから。そう思って目をつむろうとした瞬間だった。
誰かが控えめに戸を開けてきた。
自分の部屋をそんな開け方をして入るのは家では一人しかいない。
「にぃにぃ・・・?」
「さっ、さかずき・・・!」
そう控えめに戸を開け、控えめに入ってきたのは予想通り末の弟だった。
何故かパジャマの色が上下違うが、今はそんなことを気にしていられるほど余裕はない。
一番見られたくない姿を先程までさらけ出していたサカズキはそれを隠すように慌てて掛け布団を首までかぶって、寝ていたふりをした。
「ど・・・どうした・・・」
「・・・お・・・おねしょ・・・しちゃって・・・」
さかずきは兄の動揺に気がつかず事後報告をする。
それを聞いて普段のサカズキならば少しは叱っただろう。
しかし今、サカズキは完全に我を失っているために普段どおりの行動が出来ない。
「お・・・そ、そうか・・・今片付けるけェ・・・サカヅキの布団で寝ちょれ・・・」
「・・・・・・・にぃにぃ」
「なっ何じゃ?」
突然さかずきの表情が変わり、サカズキはうろたえながらも平静を装った声を出す。
しかしそれが分からぬほど子供でもないさかずきは無邪気な声でサカズキに問うた。
「なんでそんなにおふとんかぶってるの?」
「っ!!」
さかずきから見れば首まですっぽり布団をかぶったサカズキが相当不自然に見えたようだ。
まるで何かを隠すかのような仕草に見えたのだろう。
「いや・・・・寒くてな・・・」
「きょーはあつくて、ねぐるしいっていってたよ」
「っぐ・・・・」
さかずきの的確なツッコミにサカズキはうろたえた。
一方さかずきは兄が何故そんな態度を取るのか気になったのだろう。
とことことサカズキに歩み寄って来た。
そしてサカズキの目をじっと見つめる。
その無垢な黒い瞳が自分の心を見透かしているような気がして、いたたまれない気持ちになったがここで逸らすわけにはいかないとサカズキはにらみ返した。
しばらく見つめ合ってさかずきはニコリと笑った。
その笑顔に恐怖を覚えたサカズキは思わずビクリと身体を震わせる。
「にぃにぃ」
「な、何じゃい・・・言いたいことがあるなら言わんかい・・・」
布団にくるまったままそう虚勢を張れば、さかずきは枕元で膝を折った。
そして内緒話でもするかのように口元に両手を持って来て、サカズキの耳元で得意げに呟いた。
「にぃにぃもおねしょしたんでしょ?」
「バっ・・・お前じゃあないんじゃ!誰がするかい!」
「うそだー!だってかくしてるのわかるよ!」
サカズキがムキになって怒ったのが余計さかずきの誤解を深めたらしい。
突然掛け布団を掴んだと思いきや、それを素早く引っ張った。
「あっ!バっバカタレっ!」
「しょーこはあがってるんだぞーっ!」
どこかで覚えたのであろう言葉を舌ったらずな口調で言いながら、さかずきは布団を剥がす。
事後で身体が弱っていたサカズキはされるがままに剥がされてしまい、隠していた事後の残骸が電気の下曝されてしまった。
「っう・・・・!」
サカズキは恥ずかしさに耐えきれず妙な声を上げて右手で自身の顔を覆った。
一方さかずきは自分の眼前に飛び込んできた見たこともない光景に恐れおののくどころか、興味津々にそれを見ていた。
そしてゆっくりと手を伸ばしてその液体に触れる。
小さく水音がしてさかずきの小さな指に白い液体が付いた。
それを確かめるように指で触った後、ゆっくりと兄に視線を向ける。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
サカズキは恥ずかしくて文字通り溶けそうだった。
弟に、見られてしまった。
しかも齢10にも満たない幼い弟に。
「・・・・にぃにぃ・・・にぃにぃは・・・」
さかずきは不安そうに声をあげた。
次に何を言われるのだろう。
それが怖くて怖くてたまらない。
「にぃにぃは・・・・びょうきなの?」
「・・・・・・・・は?」
不安そうに恐々とさかずきは心配そうな声を出した。
しかしサカズキはそんな予想外な言葉に思わず間抜けな声を出してしまう。
それでもさかずきは今度は必死な顔でサカズキに詰め寄った。
「だって!にぃにぃのおしっこしろいもん!しろくてねばねばしてるよ!」
「あ・・・・いや、それはだな・・・」
「にぃにぃどっかわるいんだよ!」
どうやらさかずきは見たこともないその液体を何かの病気の症状と勘違いしているらしい。
確かに分からなくもないがさかずきの言葉があまりにも突拍子もない言葉だったためサカズキは何を言えばいいのか分からない。
言葉に詰まっていると、さらにそれを誤解したさかずきはすくっと立ち上がり、戸まで駆けていく。
どこに行くのだろうかと思ったと同時に嫌な予想か立ち、さかずきを呼び止めようと口を開きかけた瞬間だった。
戸が向こうから開いた。
「いてっ!」
「んっ?さかずきか。まだ起きていたのか」
戸を開いたのはサカヅキだった。
丁度入ってきた兄にぶつかってさかずきは声を漏らして尻餅をつく。
サカヅキは軽く謝った後にさかずきを抱き起こして立たせると、サカズキの元へ歩み寄る。
「なんだ。シーツの掃除ならまだ早いぞ?」
「っ・・・まだやる気かァ!このしきっ・・・!」
そう暴言を言いかけて、サカズキは一度口を紡いだ。
この言葉はさかずきに聞かせてはダメだ。そう思い直したらしい。
一方さかずきはしばらくポカンとしていたが、すぐに自分の目的を思い出して半泣きのまま、サカヅキの足にしがみついた。
「にいちゃん!にぃにぃがびょうきになっちゃったんだよ!」
「病気・・・?どこがだ。元気そうじゃないか」
「だってにぃにぃのおしっこしろいもん!ボーコーエンだよ!」
まだ覚えたての言葉を使ってさかずきは兄に状況を伝えようと必死だ。
そんな弟を見てサカヅキは状況を全てを悟ったらしい。
ニタリと人の悪い笑みを浮かべた後、しゃがんでさかずきの肩の上に優しく両手を置いた。
「そうだな。確かにこれはおかしいな」
「なっ・・・!」
サカヅキの言葉にサカズキは唖然とした。
サカヅキは弁解することもなく、むしろさかずきの誤解を真実として受け止めるような発言をしたのだ。
さかずきの顔を見ればまだ善悪の区別が付かない幼い弟はサカヅキの言葉を真面目に信じてしまっている。
「だがな、今おれがちゃんと治療してるから大丈夫だ。安心して寝ていろ」
「ほんと?にぃにぃしなない!?」
「そうだな。お前がちゃんといい子で寝てくれたら・・・すぐ治るかもな」
半ば脅すようにしてそう言えばさかずきは二、三度頷いてサカズキに向き直る。
さかずきと目が合って思わず表情をこわばらせてしまったが、それに気がつかずさかずきはニコリと笑った。
「じゃあもうねるね。にぃにぃがんばってね」
「お・・・おぅ・・・ちゃんとサカヅキの部屋で寝ろよ・・・」
「うん。おやすみなさい」
そう言ってさかずきは戸を律儀に閉めて出て行った。
二人きりになってからしばらくして、サカヅキは何かが吹っ切れたかのように勢いよくサカズキのいる布団にダイブして中にいたサカズキを強く抱きしめた。
「うぉっ!もうやらんと言うとろうがァっ!」
「何だと!さかずきにああも言った手前治療する必要があるだろうが!」
「バカタレ!何が治療じゃァ!妙な嘘を吐きおってっ!ぐっ、離せェ!」
サカズキは今にも大噴火しそうな勢いで暴れたが、サカヅキも負けてはいない。
何とかサカズキを押さえ込もうと必死だ。
しかし身体では勝てないと思ったサカヅキは口で負かそうと試みることにした。
「それに素直に言ったところでさかずきが納得して帰ると思うのか?」
「帰るじゃろうが!当たり前じゃァっ!」
そう言われては身も蓋もないが、それでもサカヅキは負けない。
サカズキの両腕を布団に縫い付けるように押さえ込みながら、言葉を続ける。
「それじゃあ兄貴の言う通り素直に言うとしよう。何と言うんだ?」
「っ・・・そりゃあ・・・男なら誰でも出ると言えやぁええじゃろっ!」
「・・・そう言って、さかずきはそうですかと引き下がるか?」
「・・・・・・っ!」
サカヅキに言われて、ようやくサカズキは悟った。
そうだ。さかずきにそれだけ言っても納得して帰るとは思えない。
ただでさえ好奇心旺盛で何にでも興味を持つ子供だ。
じゃあ出してみてだとか、おれも出してみたいだの言い出すだろう。
「っぐ・・・それは・・・」
「な・・・?だったらああ言った方が楽だろう?」
「・・・・・・・・・・・・」
言いくるめられたサカズキは反論することもなく黙り込んでしまった。
勝利を確信したサカヅキはニヤリと笑って、サカズキの腕から手を離して口付けの一つでもしようと顔を近づける。
その瞬間だった。
「じゃけェそれでもお前に抱かれることにはならんわァっ!」
「ぐぁ!」
サカズキの拳がサカヅキのみぞおちにめり込んだ。
突然の衝撃と激痛にサカヅキはそのままサカズキの身体の上に倒れ、痛む箇所を押さえながら痛みに悶える。
そんなサカヅキを非情にも横に蹴り飛ばして、サカズキは立ち上がった。
そしてシーツを剥がして掛け布団と共にかついで戸まで歩いて行く。
「この布団とさかずきの布団を洗濯してくるけェ。さかずきと寝ちょれ」
「うぐっ・・・ひどいぞ・・・まだ・・・」
「一人でやっちょれ。このバカタレが」
そう言い放ってサカズキは戸を勢いよく閉めて、部屋を出て行ってしまった。
一人取り残されたサカヅキは痛みが引くのを待ってからさかずきとふて寝しようと決め、引き続き床の上で痛みに悶えていた。
むしろ前回のが珍しいぐらいでいつもこんな感じです。
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(11.08.24)