悌じゃなくて愛
        

それは昔は可愛かった。
常に自分の後をついて回り、急に立ち止まってやればぶつかってしまう。
いつも口癖は兄ちゃん大好きで。いつか守ってみせるだの生意気なことを言っていた。
そしていつの間にか兄である自分の背中を追って職場まで一緒になり、自分は成果をあげて大将になり、向こうはやや遅れて中将になった。
昔は今はこんな小さい子供だが将来大きくなればこんな可愛い事もしなくなるのだろうと、思っていた。
しかし。


「兄貴が好きだ。愛してる」

「・・・・・・・・あ?」


中将になったある日。突然部屋に入ってきた弟は開口一番にこう言った。
何かの冗談だろうと思った。
しかし目は真剣でとてもじゃないが笑い飛ばせるような空気ではなく、サカズキはとりあえず事情を聞くことにした。


「・・・そりゃあ・・・どういう意味じゃァ」

「好きと愛してるの意味も分からないのか?」

「違う。その言葉の真意が分からん」


家族愛から出た言葉ならまだ嬉しかった。
しかしこの状況で言うそれは確実に家族愛の類ではない。
まだ現実が信じられないサカズキにサカヅキは自分の想いをもう一度事細かに伝えてくれた。


「兄貴が恋愛対象として好きだ」

「・・・・・わしは・・・男じゃ」

「知っている」

「そしてお前の兄じゃけェのお・・・」

「それでも俺は兄貴が好きだ。愛してる」


そんな言葉を壊れたレコーダーのようにサカヅキは繰り返した。
目も声色も真剣でいつの間にか机に手をついてサカズキを見つめている。
どうやら本気らしい。


「ずっと前から好きだったんだ」

「・・・なら何故今日なんじゃァ。思い立ったら吉日の根性で動きゃあええじゃろうがい」


二人の行動パターンは基本思い立ったら吉日だ。
悪を滅するためにはいつまでも悩んでいる暇はない。
悪だと思えば、消す。
それと同じように動けばよかったじゃないかとサカズキは指摘した。
しかしサカヅキはまた真面目な声で自分の思いを言う。


「・・・俺はもう中将だ。無力な子供じゃない。だからだ」

「・・・・・・」


どうやら彼なりに力を付けた上での告白らしい。
確かにサカヅキは昔とは比べものにならないほど強くなった。
だがそうだと言っても自分がイエスと言う理由はどこにもない。


「・・・お前にはもっといい女がいる」

「いない。兄貴だけだ」

「・・・家族愛と勘違いしているんじゃないのか」

「していない。家族愛と恋愛の違いぐらい分かるさ」


どうやらいつの間にか自分の弟は家族愛とは違う感情が芽生えてしまったらしい。
それも尊敬でも軽蔑でもない"恋愛感情"という予想外の感情が。
確かにこの歳になってその違いが分からないこともないだろう。
それでもサカズキは溜息を吐いてしまった。


「なぁ」

「・・・・・断る」


そう言えばサカヅキは切なげな顔をした。
しかしそれでもサカズキは言葉を続ける。
これで諦めてくれればと。


「わしから言わせればそれは勘違いじゃァ」

「違う」

「そうとしか思えん」

「違う」

「なら証明してみせい」


静かに言い合った後、黙り込んだのはサカヅキの方だった。
証明と言われて少し困っているらしくうつむいている。
おそらくどう証明すればいいのか分からないのだろう。
これで証明出来なければそれをだしにして断ればいい。
そう思った瞬間、サカヅキは意を決したように顔を上げた。


「・・・分かった。証明すればいいんだな」

「出来るものならな」


そう大口を叩けばサカヅキは机から手をどけた。
そしてサカズキの横に回り込み、椅子を回転させてサカズキを前に向かせる。
何をするのだろうかと疑問に思っているとサカヅキはそっとサカズキの頬に触れ、そして割れ物を扱うように優しく口付けた。


「んっ・・・!」


しかし優しいのは最初だけで、次の瞬間にはサカヅキの舌が遠慮なく自分の中に入ってきた。
突然過ぎて閉じる暇すらなかったサカズキの口の中に易々と侵入出来たサカヅキは中を我が物顔で荒らしてまわる。
舌を絡ませて、角度を変えながら決して逃がさないように頭を押さえつけて。
そして歯列をなぞり余すところなく口内を舌で撫で回しながら、空いている右手を下に移動させて服の中に侵入させた。
そのままそっと腰を撫でるとサカズキはビクリと身体を震わせてしまう。
それを見届けてからサカヅキはようやく口を離した。


「はぁっ・・・う」


口元からこぼれる唾液をぬぐいながらサカズキはうるさい心臓と少し荒い息を落ち着かせながらサカヅキを見た。
そこで初めてサカヅキは勝ち誇ったような笑みを浮かべて、先ほどまでサカズキの中にいた舌をベロリと出す。


「弟のキスにも感じてしまう辺り・・・証明にはなっただろう?」

「っ・・・違う・・・」


サカズキは信じられなかった。
男のもとい弟の口付けで一瞬だが感じてしまったことが信じられなかった。
自分はどこぞの娼婦のように誰に触られても感じてしまうような性質ではないはずだ。
それは自分が一番よく分かっていた。それだけに今の結果が自分には十分過ぎるほどの証明になってしまった。


「好きでもない男にこんな事をされれば普通はそんな反応はしないだろう?」

「違う・・・」

「兄貴は人の気持ちに同情出来るような身体は持っていないはずだが」

「うるさい・・・」

「認めてくれ」


痺れが切れたのかサカヅキはそう言った。
しかしサカズキはうつむいたまま返事を返さない。
それでもサカヅキは黙らなかった。


「兄貴も、俺のこと好きだろう?」


そうとどめを刺せばサカズキは頭を勢いよく上げた。
そして複雑そうな顔をして、またうつむく。


「証明したんだ。返事ぐらいくれるだろう」

「・・・まだ・・・じゃァ」

「・・・頑固だな」


勿論自分の兄がそうであることは昔から分かっていたがここまで来ると逆に今頃ながら改めて実感してしまう。
ただ頑固だけれども恋愛ごとに関して押しに弱いことは承知済みだ。


「なら・・・そのうち頷くしか出来ない状態にしてやろうか」

「やれるものならな・・・!この青二才が・・・!」


サカズキの威勢にサカヅキは溜息を吐いて微笑んだ。


やっちまった\(^o^)/

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(11.08.24)




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