あちらこちらにすべからく


「ところで聞きたいところがある」
自分の国では愛している。と言う言葉を月が綺麗ですね、と例える風習があるらしい。素直日本心で言えば良いものを。と曲がり下り、茶器に入っている築造酒を一杯飲むと、黒い手の男は不満げに問いだした。
「…カムイから聞いた話だが、相当な人間関係が複雑そうで面倒臭いと言うのは本当なのか?」
「まあ、事実なのは認めるが」
黒い手の男は頭を痛めた。恐らく自分が思った以上に面倒臭い人物と認定(と同時に危険人物でもある)されているのは当たり前の事だろう。それがどうしたのか?と真っ当から肯定する姿勢もする自分も十分どうなんだと言われそうなのだが。
「元主とは相当な人間関係を持っていると聞いたぞ?」
「…信頼関係と肉体関係は別だろう?」
「さらっと恐ろしい事を言うな…」
しかし、ロスリックは東国の人間を招き入れているくらいなら本国の酒を仕入れても良い筈なのだが…あの国は救いようがないくらいに閉鎖的な国なので恐らく無理だと断念しただろう。
「…それに、様々な国が興り、滅んでいった様を見た。それがどうであろうと……いや、避けられない運命だったのかもしれないな…」
真の王とは薪となり、世界の為の生贄となる。嘗て、別の方法で王にならんとそれを試みた者達が居た。しかし、結果は言うまでも無いだろう。それでも、優しい王様になって、伴侶を得て、それから…。
(伴侶、か)
自分にとっては彼女は伴侶となり得たのかもしれない。けれど、別々の道を歩んだ故に、二度と会えなくなってしまった。時に自分を見失う夜もあったし、どうしようもならない現実に打ちのめされた事もあった。
今はどうだろうか。子犬のような自分を拾った賢者に導かれるまま、この場所に滞在している。
「…ゴットヒルト」
「何だ」
「クリエムヒルトをそろそろ嫁入りさせたらどうだ?」
それを聴いたゴットヒルトは即座に酒を蒸せ始めた。この騎士、突発拍子も無い事を言うな。と言わんばかりの顔をしている。けれど、彼女をそろそろ…いや、何でもない話だ。
「何故それを私に言う!あの賢者からの当てつけか!?」
「…伴侶を得て愛する家族と包まじく暮らすのが乙女の理想だろう?」
「貴様本当に騎士か?!時々恐ろしい事を言うと思ったら今度は婚約関係の話を持ち出すとは恐ろしい男だ!デリカシーは無いのか!?」
「あったらおかしいだろう?」
「当たり前のように肯定するな!」
ゴットヒルトは全く…!と言わんばかりにドアを開け、空になった酒を取りに行った。たまには、息抜きも悪くないな。と思い…築造酒をガラスの器に再び注ぎ始めた。






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