いつかとは遠ざかる季節のこと


ざく、ざく、ざく。

灰のように降り積もる雪が積もる雪原を歩き渡り、男は灰のように曇る夜空を見上げる。此処は誰が言ったか、世界に不要、忌み嫌われた者達の最期の楽園。絵画世界、と誰かがそう言ったか。

忌み人達が住まう楽園。嘗てこの絵画世界には、白きものが隠した娘が住まう場所だった。鴉人や亡者達の居場所でもあった。

「…居場所、か」
若しかしたら、あの時自分がこの場所で母親とずっと一緒に、穏やかに暮らしていたら辛い気持ちも、悲しい気持ちもせずに楽に生きられたのだろうか。
「けど、やらなければいけないことがあるから…」

それでも、彼等の手を取ったのは自分自身だ。逃げてはいけない、逃げたら――思考を放棄してしまうから。必死で考え、何かの為に行動をする事が出来なくなってしまうのだ。
それに、彼等と出会う事は無かったのだ。けれど、あの出会いは、しない方が良かったのだろうか。と時折悩んでしまう事がある。

『聞きたい事があるんだ』
けれども、あの時の返答に…答えられなかったこともある。
『アーロンは、この世界の事がーー嫌いなのか?』
あの時の返答は、答えられないままだ。どう答えたらよかったのだろうか。あの時、嫌いと答えたら良かったのだろうか?

「……寒い、な」
鴉人が住まう集落に辿り着くと、ぶわっと雪が吹雪いた。腐臭の臭いがする、と誰かが言う。
永遠は何れは尽きるもの。終わりはいつかやって来る。そう教えられてきたからこそ、誰かがこの世界を燃やさなければいけないと言う。
今の絵画世界はそう言う答えを示す程、どうしようもない状態だった。腐乱の蠅が付きまとう程、この世界は腐り果てていくのだ。
ざく、ざく。と雪の道を歩いていく。そうして辿り着いたのは、崖の上にそびえたつ、名も無いお墓。
「……父親、というものなんて信じたくなかったけど」
それは、追放された名も無き神の墓。名前は、誰かに削り取られていったせいで、読む事すらままならない。
「私は、貴方を恨んでなんて居ない」
母と自分を棄てた。と一時期思い込んでいたが、それは違っていた。墓に添えられていた枯れた藤の花を見て、少し安心した。

「それでも、この世界のことを…嫌いじゃないと答えられるのは、死者(あなた)がそれを証明しているからだろうか」

きっと彼は、自分の事を誇りに思っているだろう。それが、自分自身がこの世界の事を好きでいられる事実なのだから。






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